大事なことは、ぜんぶ大槻さまが教えてくれた

 実はこれ、一年ほど前に大槻ケンヂトリビュート同人誌『元祖オーケン伝説』に寄稿したエッセイなんだけど、久しぶりに読み返してみたら意外と面白かったから公開します。


 ちなみに掲載誌は、BOOTHで販売中。よろしくねん。


◇『元祖オーケン伝説』

https://booth.pm/ja/items/1691202


---------- 以下、本文 ----------


 いやー、思いのほか、時間がかかっちまったな。入稿、どうやるんだっけ。メールで送るんだっけか。送信、送信……っと。

 あぶねぇ~。日付が変わる五分前だよ……ま、直前だろうが何だろうが、締切に間に合ったことには変わりないからな。

 お、さっそく返信がきてるぞ。あの主宰のことだ「玉稿たまわりました。導入部分を読んだだけで、感動して泣いちゃいましたよ!」とか書いてんだろ? わからんでもない、わからんでもない……今回の原稿は、気合入ってるからな。

 なになに……エッセイ原稿が添付されていませんが、いつ入稿できますか……だと!?


 あっ! エッセイの執筆、忘れてた!(意図的)


 え? めんどくせーマクラだって?

 いやー、だってこういう小芝居、一回くらいやってみたいじゃない。昔の作家や漫画家って、よく後書きとかでこういうのやってたじゃない? 

 脱稿してテンション上がってるんだから、許してちょんまげ。(死語)


 さて、そろそろ本題に入るべきだろうか。うむ、入るべきであろう。

 主宰からエッセイの内容は、『オーケンとワタシ』的にまとめてくれと言われてるのだけれど、オーケン先生のことを語りだしたら俺、小説よりも文字数くっちゃうけど大丈夫か? ……なんてね、そんな非常識をやらかすほどの度胸はないから、程々にしようとは思っている。締切だってもう、過ぎているのだから。(非常識)

 とは言うものの、なにを語ったものか……語りたいことが多すぎて、絞りきれる訳がない。ベタではあるが、オーケン先生との出会いでも語っておこうか……。


     ◇


 初めてアーティスト大槻ケンヂの姿を見たのは……いやいや、イカンな。敬愛するオーケン先生を呼び捨てにするとか、イカン、イカン。

 ここでは、『大槻さま』と、呼ばせていただくことにいたしましょうぞ。

 初めて大槻さまのご尊顔を拝見したのは、メジャーファーストアルバム『仏陀L』のジャケット写真でございました。

 その頃、日本海に面した赤レンガ倉庫が立ち並ぶ港街で、しがない書生として暮らしておりましたヤツガレは、ふらりと立ち寄った古ぼけたレコード屋……そう、CDショップではなくレコード屋の一角で、運命のアルバムと衝撃的な出会いを果たすことになったのでございます……。嗚呼ダメだ。文体が迷子だ。普通に書こう。


 まず目に飛び込んできたのは、帯のキャッチコピーだった。

『お姉さんは筋肉少女帯を見に行ったきり、もう二度と帰っては来こなかった……』

 B級ホラーのキャッチかよ! この時点でかなりヤバイ、ヤバすぎる……。

 ジャケ写を見れば、和服ばあちゃんの群の中に、髪の毛を逆立てた怪しげな大槻さまと、目が合っただけでおしっこチビリそうな厳ついエディーの姿が……。

 しかも、アルバムタイトルが『仏陀L』とか……なんだ、なんなんだコレは!?

 コレって関わっちゃダメなやつだと無視を決め込むも、どうしても気になってしまって結局はレジへ……速攻で帰宅して聴いてみると、やっぱりヤバイ。なんだよ、ドロロの脳髄って……。なんだよ、オレンジ・エビスって……。

 でも、気になってしまう……特に曲名と歌詞が。『孤島の鬼』って、これ江戸川乱歩やろ? 『ノーマン・ベイツ』ってヒッチコックの『サイコ』とちがうん? 『モーレツア太郎』って、赤塚不二夫やんか!


 二枚目のアルバム『シスターストロベリー』を聴く頃には、もう完全に筋肉少女帯の、そして大槻ワールドの虜になっていた。アルバム『月光蟲』なんて、もう何度聴き返したのか判らない。

 あまりにも俺が筋少ばかり聴くものだから、当時付き合っていた恋人まで筋少にハマってしまった。彼女がもともと好きだったユニコーンには、いまでも悪いことをしたと思っている。めんご、めんご。(死語)

 その頃DTM(デスクトップミュージック)をやっていた俺は、筋少の楽曲を打ち込んでは、ネットにアップしていた。そうしているうちに、何人かの筋少ファンと知り合った。絵師も巻き込んで、筋少MADを作ったりもした。

 バンドを始めてオリジナル曲をと意気込むも、大槻さま好きが高じてコピー曲ばかりやっていた。『君は千手観音』と『ボヨヨンロック』は、ライブの定番曲だった。筋少の楽曲を演らなかったのは、俺の歌では大槻さまの歌詞の世界観を表現できなかったからだ。


 作家としての大槻さまに触れたのは、二度目の星雲賞を受賞した頃だった。

 食い入るように読んだよね、『クルグル使い』そして『のの子の復習ジグジグ』。予想以上に文学してた。でも、あの歌詞の世界を考えれば、このクオリティーの作品が生まれて当然なんだよね。でも俺は、『憑かれたな』みたいな、ちょっとふざけた作品の方が好きだったりする。悪乗りして書かれた小説は、大好物だ。

 楽曲の世界と小説の世界と、リンクしているのもたまらんよね……。いや、リンクしてるというか、どちらも大槻さまから切り出してきた世界なんだけどさ。切り出す基の世界って、どうなっているんだろう……。頭ん中のパノラマ島って、どうなってるんだろう……。興味は尽きない。


 数ある大槻さま作品群の中でも、やはり俺的に心惹かれるのは『ステーシー』だ。

 十五から十七歳の少女(再殺部隊の歌詞では、十四~十六歳だよね)たちが、ある日突然パタリと死んで、人を喰らうステーシーとして蘇ってしまう。愛する人を求めてさまようステーシーを再殺するには、少女の体を一六五分割よりも小さな肉塊に刻まなければならない……。もうこの設定だけで、ご飯三杯はイケるはずだ。


 今回、大槻さまファンの四人の書き手が集ってアンソロジー本を作ったのだけれど、参加を決めたとき俺は即座に「俺はステーシーを書く!」と宣言していた。

 書くと決めたは良いのだけれど、そこからが苦労の連続だった。ステーシーの設定を下敷きに書くだけならば、ここまで苦労はしていない。自分の小説の中に、大槻さまテイストをにじませようとした途端に難しくなってしまう……。

 ステーシーは、少女を小間切れにするだけの単なる血まみれスプラッタではないのだ。そこには苦悩が在り、悲しみが在り、切なさが在り……そう、壊れそうなものばかり集めてしまうような繊細さが在るのだ。

 かと言って、本当にガラスの十代のようなものだけを集めていたのでは、大槻さまテイストなど醸せるはずもない。そこには不条理な笑いが在り、ダサかっこ悪さが在り、斜めからのほほんと俯瞰する視点が在るのだから……書けるのか? 俺に? そんなものが?


 ……書くんだよ。


 大槻さまは俺の中でずっと、サブカル的な、アングラ的な文化の先生だった。大事なことは、ぜんぶ大槻さまが教えてくれた……かどうかは判らないけれど、少なくともそういった世界へ飛び込むための道標だった。

 大槻さまへの感謝を込めて、そして大槻さまを通じで親しんできたすべてのサブカル的アングラ的文化への感謝を込めて、今回の参加作を書いた。俺からの、一日一万回感謝の正拳突きだ。


  『ステーシー異聞 丹後道中膝栗毛(前編)』

   股のぞき夢みてJKふたり旅☆鳴き砂に消えた血けむり慕情


 巧くできているかどうかは判らない。ただ、俺が持ち得るすべてを込めた……二度ほど延長してもらった締切の、ギリギリ五分前までかけて。

 オリジナルのステーシーに通じるものを、少しでも感じ取ってもらえたのならば嬉しい。作者妙にに尽きる。いやむしろ、尽きさせてくれ。お願いだから……。

 しかしまぁ、小難しいことはどうでもいいから、楽しんでもらえるのが一番嬉しい。楽しむといった類の、物語ではないのかもしれないけれど……。


     ◇


 ところで、このアンソロジー本……大槻さま本人が、読んでくださったりしないんでしょうかね。中野の事務所に持ち込んじゃうか!?

 本人が読んでくれて、「たかなんくん、たかなんくん。ステーシーは今後、君に任せるよ!」なんてことになったらどうしようかね。ステーシーだけじゃなくて、大槻さまの執筆をぜんぶ任されちゃったりしてね……。


 そしたらガンガン小説たくさん書いちゃうだろうな。

 江戸川乱歩の続編書いちゃおうかな。太宰治の続編も書かなきゃな。新約聖書の続編もかくべきだろうな。

 そしたら文学賞もらっちゃうかもね。直木賞だ! 芥川賞だ! ノーベル文学賞だ!


 あー、ヤバイ。これはダメだ、JA●RACが来ちゃう。

 それでは、とっ捕まらないうちにドロンします。(死語)

 読んでくれてありがとう。また次の小説やエッセイでお会いしましょう……。


(二〇一九年一〇月 締切翌日に記す)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る