終章

終 ※挿絵あり

 世界は暗黒に包まれていた。

 山も川も海も街も――人の営みも、なにも見えない。

 すべては黒煙にうずもれている。


 土砂や瓦礫は舞い上がってくうを飛び――そして燃え尽き、やがて消えた。


 瞬間、闇の中心に紫電しでんが走る。

 黒煙は一瞬だけ収縮し――そして再び、吹き上がった。


 黒く渦巻く中心に、光が差す。

 それは、ヒドラのはねだった。ヒドラの身体から噴き出した、エネルギーの凝縮体。

 光のはね


 みるみるうちに翅は広がり――やがて、ヒドラの何十倍、何百倍もの大きさに広がって――世界を包み込んだ。まるで、抱きかかえるように。


 六対十二枚の翅。

 悪魔の翅。



 そこにはもう、比良坂の姿はない。

 ただ、勾玉の残滓ざんしが光を噴き出しながら、はげしく燃え上がるだけだ。


 比良坂は、ヒドラと一つになっていた。

 いや、そこにはもう、ヒドラという存在もなかった。

 両者は一つの存在として個を失い――として生まれ変わっていた。


 それは、だった。

 一つの、怪獣だった。


  *   *   *


 咆哮ほうこうを上げる。


 世界に轟く悪魔の嘆き。

 奪われたものの哀しみと怒り。


 それは小さな恋の唄。

 世界を滅ぼす恋物語。


 一緒にいる――ただ、それだけのために――


  *   *   *


 ――19997

 ――

 ――西


 ――ミシェル・ノストラダムス『予言集 百詩篇 第10巻72番』













  世紀末大怪獣活劇ヒドラ

 ― The Dead End Story HYDRA ―





              終劇

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