面の物言い

:DAI

囚人服の少年

囚人服の少年 -1-序-

 携帯電話にメールが届いた。

 短い着信音。メール用にわざわざ設定したのだが、俺は普段メールを頻繁にやり取りする人間はいない。したがって、送信相手の相場は決まって仕事絡みの人間だ。


 ———暑い。

 とにかく暑い。

 避暑地に程近い土地に住んではいるものの、今日に限って茹だる様なこの暑さ。クーラーもない我が家で昼寝をしていたが、窓を全開にしても無風とくれば、熟睡できるわけもない。暑さと、それでも襲い来る眠気でうつらうつらしていた最中、気怠さも最高潮といったバッドコンディション。そんな状態の中、届いたメールを確認する。

 件名は“討伐用意”。

 物騒な件名。なんとも気が重い。

 深呼吸とも、ため息ともつかない息を大きく吐く。

 ———やらねば。

 そう自分に言い聞かせ、支度を整えながら、メールを再確認する。


 集合時間と場所を伝えるだけの味気のない文章。

 どうやら、迎えを用意してくれるらしいのだが、なんとも簡潔なメールだ。業務連絡とはいえ、どうやったらここまで温もりに欠ける文章を書けるのだろうかと思わせるほど簡潔なメール。メールを寄越した人物が誰だか用意に想像がついた。

 その人物。姓は松浪、名は武と言う。俺の同僚であり今では戦友でもある。

 この松浪という、うら若い男。基本、無口であるのだが、その実、とても思慮深く無駄を好まないタイプの様である。

 外見は、背丈が立派な割に体は細く、ぼさぼさに伸びた髪が目元まで顔を覆い隠している。おまけに無精髭を生やしているので、大分ずぼらな印象を与える野郎だ。だが、着るものはいつもピシットしたスーツやシャツを颯爽と着こなし、ファッションに疎い俺でもまるでファッションモデルと見紛うほど見事に着こなす。

 それだけに、首から上を身綺麗に整えればさぞ女にモテるだろうに。実は端正な顔立ち、かつ精悍な面構えをしているだけに、いつも勿体ねぇなぁと、ひっそりと心の中で呟いている。

 しかし、松浪本人は特段女の目を意識している素振はない。同棲している女がいるからなのかもしれんが、それでもやはり勿体ないと思うのだ。

 物思いに耽っていたら、チャイムが鳴った。

 どうやら松浪が迎えにきたようだ。玄関を開けると、ぼさぼさ頭の長身の男がよう、ご無沙汰。と拳を突き出してきた。

 俺も、応と答え、拳を合わせる。

 ちなみに言うと、俺と松浪はこんな感じで挨拶をする程度には仲が良い。挨拶も程々に俺たちは松浪が用意した車に乗り込み集合場所へと向かう。

「顔色が悪いが、大丈夫か?」

 松浪はとにかく気が利く良い男だ。表情が読みにくいとよく言われる俺の表情もなんなく読み取ってしまうほど察しが良い。観察力だの洞察力だの飛び抜けて優れているのだ。

「まだ、一緒に仕事を始めて半年だが、大分慣れただろ。」

 車に乗り込みながら、松浪は涼しい顔をこちらに向ける。

 半年。

 俺がこの“仕事”に就いてからもう半年経つのか。

 俺は呆けた顔をして記憶を遡り、思いに耽る。

 俺の全てが変わった日のことを。

 



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