<18> Remedios
やがて財産の所有権と家督ごと私を受け継ぐ少女もまた、慣例通りにレメディオスと名付けられた。時々、私の飾られた部屋を訪れる彼女が聖母の名を持つことに、私は欠片も働きかけはしなかった。
「ガブリエル様、今日もきれい」
だが、そうやって今の私を象る天使の名で呼ばれるたび、私は充足感をおぼえる。ロデリンダ。あなたが私に囁いた、あたしの本当の名前など、もう誰も知ることはないだろう。
『あなたが例えば私だったら。グリゼルダ、私の大切なお姫様……きっと、皆幸せになれたのに』
……なにしろあなたの孤独を慰めきれなかった、少女人形はもういないのだ。
今更になって、あなたの孤独を弔う私は、殿下と呼ばれる少年人形。あなたとお揃いのグリゼルダはもう、少年姿のガブリエル。ずっとあなたが、望んだように。
いつかあなたを見つめ続けた私は、あの日あなたを救えなかった私は、館の奥で孤独を交わした、あたしとあなたを連れ出したかった。
女王様にしかなれないあなたと、お人形のあたしだった。
女王様でもお人形でもない、たとえば王子様とお姫様だったなら……あたしはあなたと手に手を取って、ふたりであなたが苦しまない、孤独ない居場所まで駆け出せたのにね。本当は、あなたもわたしもなにひとつ、自由な手足も持たなかったのに。
あたしにとっての王子様だったあなたは、結局一族の女王様にしかなれなかった。だったらあたしもお姫様になんかなれるはずない。そうしてあなたも死んでしまったというのなら、女王様に愛された、あたしが王子様になるしかない。
自死したあなたの腕に横たわるだけの、少女人形はもういない。少年人形はあなたの名前を、孤独の檻から連れ出した。長い長い時間をかけて、女王様の孤独な面影は、今はもう王子様とだけ呼ばれる私を、一族に遺した気高いお姫様の横顔に塗りつぶされている。
あなたを苦しめた不名誉は、私をしるべに改竄される。不幸な真実はもう誰も、永久に知ることはなかれと祈る。
だからお願いだ。レメディオス。
どうかこのままいつまでも、その最果ての代までも……ガブリエルとだけ、私を遺せ。
屈折する光のように、本当なんて、ねじ曲げて。
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