アイネクライネレースライン

篠崎琴子

Griselda

<1> Rodelinda

 さよなら、さよならとあなたは笑う。

「私が恋したあなたがずっと、ずっと誰かに、選ばれてくれるのなら」

 あなたが愛した持ち物に、あなただけを愛するお人形に、あなたの悔しさを紛らわせたあたしに、お別れを叫ぶ代わりに笑う。

「だからさよなら。グリゼルダ」

 あなたは笑って叫ばずに眠る。あなたは病毒を憎んだまま、あたしを抱いて安らかに逝く。

 でもねあたし、あなたとさよならはしないの、ロデリンダ。結局こんな最後まで、あなたはあたしを手放さないもの。

 死にゆくあなたの腕の中で、少女人形はお供する。硝子の瞳に長い髪。それから穏やかに優しいドレス。全部、あなたとおそろいのあたしだった。

 だから、あなたを生かすことなんてできない、人形でしかないこのあたしの、王子様にはなれない女王様。

 あたしは、あなたを手放さない。

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