魔王と勇者を倒して世界の脅威になります

黒鳥だいず

一章

第1話 遂に叶った願い


「はぁ~つまんな。また一方的に魔王ぶっ殺されてんのかよ」


 そうぼやきながら病院のベッドの上でごろごろしている少年。彼が読んでいる本は、親や数少ない友人がもってきてくれた異世界ラノベだ。

 この男、奴流という。ぬると読む。よく面白い名前だといわれるが自分でもそう思う。でもこの名前はインパクトがあって気に入っている。

 なぜ病院にいて、ばっちり点滴を受けてるかというと……ある病気に自分はなってしまった。余命宣告なんかされてしまい、あれよあれよという間に入院の手続きが取られていった。その瞬間からだろう、自分は無気力に異世界ラノベを読み漁る毎日になった。



 しかし、今まで読んだ異世界物は全部が全部そうではないがほとんどが『勇者が魔王をチートで蹂躙する』ものだった。正直言って最初は好きだったけど今は飽和してしまってキツい。所謂おなかいっぱい、というヤツだ。



「あー……眠くなってきたな。目を使いすぎたかな、一回寝るか……」




 ――――それがこの男が18年間で最後に述べた言葉になった。



 顔にひんやりした感触がある。自分が寝転がっている場所が病院のベッドでないことを理解するのに数秒かかったが、わかるや否や跳ね起きる。目の前には西洋風の大きな建造物が立ち並んでいて、自分の足元からずっと向こうまでよく整備された石畳がつながっている。


「うおー……死んだか? 死後の世界かここは?」


 悲しいことに小学生並みの感想しか出てこないが、ここは自分が思っていた異世界のイメージそのものだ。死後の世界という考えから抜け出せないままふらふらと歩いていると、後ろから大声が近づいてくる。それと同じくらいのタイミングで大声よりもさらに大きな悲鳴があちらこちらから上がる。慌てて振り向くと剣を振り回した男が何やら叫びながら暴れている。


「どけぇ! 殺すぞおらぁ!」


 物騒な言葉を吐きながら接近してくる男。反射的にボクシングのような構えをとる。それを見た男がにんまりと笑うとこういった。


「決闘だ!」

「はい!?」


 何言ってるんだこいつ。そう思った時には男がぬるに向けて襲い掛かってくる。決闘とか言ったくせに『いざ参る』とか何も言ってないじゃないか。


「ええどうしよう、二度も死にたくないんだが!?」


 すると頭の中に道ができる。行動の道筋だ。剣を躱し、顎にアッパーをかます。いや無理、反射神経はあるけど怖いから無理。剣を躱し、腕をぶったたく。結局剣を躱さないといけないんだ。ハイ詰んだ。おしまいでーす。


 そんなことを考えながら半分投げやりな気持ちになる。男は大上段に振りかぶった剣を裂帛の気合と共に振り下ろす。しかし、その剣がぬるを捕らえることはなかった。ぬるの前にいつの間にか立っている男の子が一人。年齢はぬると大差なさそうだ。光り輝く剣でガードしている。男は剣の重さとぶつかった時の衝撃で体が傾く。


「君、下がってて。ここは僕がやる」


 そういうと男の子は相手を見る。すると不思議なことに、男はそのまま木が倒れるように後ろにひっくり返った。ノックアウトされたようで動かない。


「ふう」


 周りからおおっというどよめきが起こる。すると上のほうから誰かの足音が聞こえる。女の子が二人、男の子の前にぱたぱたと駆け寄ってくる。瓜二つの顔をしているので双子だろう。


「もー! シュウがいきなり走り出すから何かと思ったよ! 瞬間移動なんかしちゃってさ!」

「しかも絶対防御を張ってるから近寄れなかったし!」


 ぶつくさと文句を言われる男の子。ぬるは一瞬で理解した。


 こいつ、チート勇者だ。


「ありがとう、さよなら」


 それだけ言うと走ってその場から離れる。急に襲われてびっくりしている一般人という構図なので不自然はないはずだ。おそらく。

 そういえば。能力とか自分にないのかな、とふと考えた。あればあの時点で何かしら発動しているだろうからないのだろう。人生甘くない。


「……ん?」


 道を外れた空き地のような場所で一休みしている。なんとなく寄り掛かったレンガを見つめる。しばらくするとレンガが震えだし、少しずつ形を変えていく。捻じれたり延びたりを繰り返し、数分後には一本の日本刀のようなものができた。これが能力なのか? ちょっと遠慮がちに振ってみる。振り下ろすその瞬間、なぜか一瞬だけ戦闘機のことを考えた。切っ先が少し向かいの民家の丸太にあたったようだ、小さい刀傷がついた。ほどなくして丸太が震えだす。今度はいろいろなパーツに分裂したり、やはり伸びたりを繰り返して巨大化していき、一機の戦闘機が完成した。素材は丸太なのに金属になっている。よく見ればこの日本刀もレンガなのにしっかり鋼だ。


 これは……もしかしたらチートなのかもしれない。やばい、勇者ルートではなかろうか!? それをどうするか考えるためにも、他に何か自分は持っていないか知りるべきだと感じた。偶然目の前を通った人に聞いてみる。


「すいません。ステータスとか見てもらえる場所ってあるんですか?」


 無ければ相当恥ずかしい。


「ああ! あそこのお店はスキル看破の店だからね、行ってみなよ!」


 あることに安堵しながらすぐさま向かう。しかしこの戦闘機どうしようかな。すると一気に小さくなり、丸太に戻った。なるほど、元に戻すこともできるのか。バレなくてよかった。


「失礼しまーす」


 そういいながらスキル看破のお店に入る。中には人のよさそうなおじさんがいる。そのおじさんがぬるを見た瞬間、驚きの顔をする。


「すごいな、君。アンチ能力のオンパレードだ! こんな人を見たことないぞ!」





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