襲の色目

 恋焦がれている殿方とのやりとりが最近めっきり減ってしまった──そう溜息まじりに仰った。

 姫に仕える身としては出過ぎたことを言うわけにもいかない。


「お忙しいかもしれませんね」

「もしかしたら他の女のところに行ってしまったのかもしれない」


 風の噂で、別の女性とお戯れになっていることを耳にしているが、そんなこと口が裂けても言えない。


「ねぇ、私ってそんなに醜女かしら」

「そんなことはございませんよ」


 確かに姫のお顔立ちは整っているし教養もあった。

 色のセンスもいいのだが、季節感がまるでない。

 これでは殿方も実際に会った時、冷めてしまうのは致し方ないこと。


「何が原因だと思う?」


 直球で質問されて答えに窮してしまった。


「遠慮なく言っても構わないのよ?」


 癇癪を起す可能性がある以上、今まで不用意に口にはできなかったのだが、意を決する。


「空をご覧ください。もう秋の空になっております。しかし、ご自身が纏っていらっしゃる襲をご覧ください。その色目は夏のものでございます」


 一瞬の空白、そして私を罵倒する。挙句私は辞めさせられてしまう。

 しかし予想範囲内。


 でもこれでも構わない。だって、殿が熱を上げていらっしゃるのは私なんですから。

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