第14話 鳶加藤

 どういうことなのだろう…。

 俺の隣にはお風呂あがりで少し髪が濡れている氏康ちゃんがいる。

「なっ、なんだ小太郎…。そんなにジッと見つめられると恥ずかしいのだが…」

 そういって氏康ちゃんは顔を真っ赤にして俺の事を見つめてくる。


「すみません主…」

 そういって視線を反らすと氏康ちゃんが俺の頬に手を添えて目を閉じて顔を寄せてくる。

「あっ、主…。ダメです。そんなことしたら抑えられなくなっちゃうから! 」

 そういって天井を見つめると苦無クナイと女が見えた


「主、危ない! 」

 その声と同時に苦無が氏康ちゃん目掛け飛んできた。

「クソッ、油断してた…」

 氏康ちゃんを押し倒して覆い被さり、なんとか守りはしたが左肩に激痛が走る。


「ちっ、しくじったか鳶加藤とびかとう、一生の不覚」

「吉政、忍だ! 捕らえろ! 」

 氏康ちゃんが襖を開けて廊下に向かって大声で叫ぶ。

「クソッ、痛ぇ! だけど今はこの命を拾ってくれた彼女のために修羅になる! 主は殺らせねぇぞ! 」

 腰に提げていた小太刀を右手で構え氏康ちゃんと忍の間に立ち塞がる。


「仕方がない、ここは退くしか…」

 そういって忍は煙玉を投げて退くのかと思った…。

「んなぁわけ無いでしょ! 今ここで終わらせて殺るよ! 」

 鳶加藤と名乗った女忍は煙の中、俺の急所を的確に狙い、苦無で刺突してくる。

「あんたが逃げないことは最初っから分かってるよ、俺でも分かるぜ、その殺気」

 繰り出される刺突を右手の小太刀1本で捌いていく。


「右だ、右に斬り込むぜ! 」

 そういうと苦無は左側から繰り出される。

「なるほど、お前は陽動して相手を混乱させて嬲り殺す戦法なんだね? だけどおあいにく様、俺が信じるのは俺が自分で見て自分で感じたものだけだから! 」

 殺気が放たれる方へ小太刀を振るうと血飛沫と悲鳴があがる。

「痛い、クソッ! 女人の柔肌に! この煙の中でも私の位置が分かるのか…、クソッこの借りいずれ倍にして返してやる! 」


 その声と同時に殺気は遠ざかっていく。

「何とかなったのかな? 」

「曲者だ! 姫を助けるんだ! 」

 吉政さんが来たみたいだ…。まったく、遅すぎだっての……。

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