第18話
「駄目だよ~!俺、出来ないよ~」
染谷が泣き言を言っている。
「びびってちゃ駄目だぞ?ゆっくり息を吸って~、はい、ゆっくり吐いて~、そしたら力を抜きな、そのままあてがうんだぞ」
俺の口調は優しい。
それはハーブによって気持ちが優しくなっていたのもあるが、目の前の光景のおかしさに可笑しくなっているのを楽しんでいるからだった。
「駄目だよ~、やっぱり出来ないよ~」
なおも染谷は泣き言を言い続けている。
俺の前で。
ズボンを脱いで。
ジャングルに満ちたゲートをパクパクさせながら。
週末の夜中に染谷はやってくると、開口一番、
「今日はリキッドやるぞ!」
と宣言した。
「月曜の仕事はどうしたんだ?」
「うん?理由をつけて強引に休んだ」
眩しいくらいの笑顔で答える染谷にこちらの方が驚いてしまったほどだ。
「一体なんて言ったんだ?」
「叔父さんが死んだってことにした」
「お前の叔父さんは三年前に死んだだろう?まさか甥っ子に二度死んだと言われるなんて思わなかっただろうな」
「『叔父は二度死ぬ』」
ドヤ顔で映画のキャッチフレーズのようなことを言うので噴きだしてしまった。
「面白いね~、それじゃ早速一服していくかい?それとハーブはちゃんと肺の中に貯めておかないとハイにならないぞ?」
RPGの武器屋のようなことを言ってハーブを差し出した。
それが一時間くらい前だ。
ハーブで一度マッタリしたあとに俺は門(ゲート)からブースターリキッドの施主方法をまるでインストラクターのようにレクチャーしていた。
「わかったやってみるわ」
緊張した面持ちで奴はズボンを脱いだ。
ご丁寧にズボンから脱ぎ、猫の顔が散りばめられたトランクスを脱ぎ始める。
そして俺の目の前で四つんばいになりながら、
「こんな感じかい?」
と尻をクイっと突き出してきた。
「ブハハハハハハッハッハハハ!」
ちょうど水パイプでたっぷりと煙を吸っていたところだったというのにろくに肺にたまらないうちに全部吐き出してしまった。
「わ、笑うなよ…俺だって恥ずかしいんだぜ?」
「お、お前…毛だらけじゃねえか!も、門が…門(ゲート)がジャングルの奥深くにあって見えねえ!」
「や、やめろ~!ちょっとけ、毛深いだけなんだ…」
恥ずかしいのか緑地地帯のような尻がフリフリ横に揺れる。
「毛深すぎるだろ!熱帯雨林みたいになってるじゃねえか!これ完全に未開発地帯だな」
「う、うるさい…当たり前だろ! と、とにかく姿勢はこれでいいんだろ?」
顔隠して尻全開の染谷の問いかけに『そうだ』と言って注射器のようなシリンダーを手渡す。
「よし、行くぞ」
最初にそう言ったのは三十分前だった。
「いい加減にしろよ、いい加減ハーブが醒めちまったよ」
いまだに出口としか使用したことの無い門(ゲート)の前で覚悟が出来ずモジモジと立ち往生している染谷にさすがの俺も苛立ちが隠せなくなってきた。
「でもさ~、やっぱり怖いし、恥ずかしいよ~」
成人式などとっくに過ぎた成人男性が尻をプリプリ揺らしながら泣き言を言っている姿は中々に痛々しいな。
そしてそれを見ている俺というこのシュールな状況にもいい加減笑えなくなってきた。
このままでは染谷はいつまでたっても飛び立つことは出来ないだろう。
そしてそれは俺も同じことだ。
俺のほうは何度かしているので慣れているということもあるが、染谷は今日が初めてだ。
入れすぎないようにと異常があったときに対応出来ないとマズイので、染谷が無事にこのクソッタれな世界から飛び立つまでは俺はリキッドはしないとあらかじめ決めておいた。
しかしここまで時間が掛かるのは予想外だ。
というよりもまったく考えていなかった。
確かに本来なら出口であるそこに挿入するには抵抗があるだろうが…。
いったいどうしたらいいんだろうか?
「な、なあ…」
我が友人は尻丸出しで涙目で振り返ると、本来なら気の置けない関係なはずの染谷は言いにくそうに口を開いた。
「お、お前がやってくれないか?」
「はあ?嫌だよ!」
久しぶりにハーブ以外で心底からの声を挙げたが、それでも染谷は挫けないで、
「なあ頼むよ…本当に頼むよ…」
意識してかしらずか剥き出しの尻を突き出しながら迫ってくる。
ジリジリと確実に距離を狭めてくるそれに気圧されていく。
そして俺もまた我慢が出来ないのでその要求を受け入れざるを得なかった。
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