第9話

「いらっしゃい」


深夜二時を過ぎた通りにはいまだ信じられないくらいの人々が行き来していた。


さすがは眠らない街とか言われているだけあって、終電が過ぎてもにぎやかな街角は華やかにみえ、歩いているだけでも楽しく思える。


その店は驚くことにその街の中心部にあった。


ビルとビルの間にある路地、風俗店の横にあったその店の名前を確認して俺達は階段を駆け上がる。


店に入るとハーブ店特有のお香の香りがひしめきあい、疲れた顔の店員が件の言葉をかけて俺たちを出迎えてくれる。


ここの店員は無口なようで、カウンターのガラスに入っているハーブを品定めする俺たちに声をかけたりすることはせず、隣に備え付けられていたテレビをじっと見ている。


「すいません、最近売れているのはどれですかね?」


染谷よりかは幾分慣れている俺が声をかけると、店員はややぶっきらぼうに一つのハーブを指し示す。


「それじゃそれを一つください…それと」


機嫌が良いときほど財布のヒモが緩むのは当たり前なことだが、普段からあまり金を使わない俺たちにとってはかなりの散財をしてしまった。


しめて二人分で数万円。


 買いすぎたかとも思ったが、店員にとってはこの程度は普通のようで何の反応も無くレジを叩き、金を受け取って釣りを渡してくれた。


買ってしまえばあとはもう用は無い。


 そそくさと店を出ようとする俺たちとすれ違うように数人の若者たちが店に入っていった。


どうやら人気があるのは間違いないようだ。


俺と染谷は互いにニンマリと笑いながら、群がるポン引き達を無視して帰路へと着く。


飯も食わずに寄り道もせず真っ直ぐに。

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