第4話

さっそく包みを破り、指先で煙草の先を揉みしだきながら中味を出していく。


そしてその先に『スモーク』を詰めておっかなびっくり火をつけ、ライターを置いて吸い込む。


あれ? 煙が出てこない。 まるでドン詰まりしているかのように煙が出てこないのだ。


なんだ? どうしてだ? ああ、そうか火をつけながら吸えばいいのか。


「ゲホッ、ゲホッ、喉が痛え…っ、クソッ」


人工的なパッションフルーツのような香りと喉に辛いものを詰め込んだような痛いようなヒリヒリするような不快感に耐えながら数回吸ってみたが、何も起こらない。


なんだ、なにも起こらないじゃない……か?


それは突如としてやってきた。


グラリとした感覚とともに世界が不思議にゆっくりと見える。 まるで神の啓示とやらを聞いたように視界がキラキラとした光で照らされている。


どうやら後ろに倒れていたようで光の正体は部屋の電灯のようだ。


それにしてもこんなにも世界は綺麗だったのか。 


いままで生きてきてこの美しさに気がつかなかったとは俺はなんて愚かだったのだろう。


しばらくの間、世界の美しさに魅入られながら、身体の中の『スモーク』が薄れていくのを確認してから起き上がる。


吸いさしの煙草の火を消して、また煙草の中味を押し出していくのだが、今度は先程よりも多く、というよりも全て出して代わりに『スモーク』を詰めなおす。


こうして一本丸々の『スモーク』煙草が完成した。


「いえ~!世界にここだけの煙草が完成だ!」


本当に久方ぶりのハイテンションのあまり部屋で叫んでしまうが、そのはしゃぎっぷりでさえ愛らしく思えるほどに俺はゴキゲンだった。


モヤモヤと残る『スモーク』の残滓を楽しみながら最初の頃よりもやや深く吸い込む。


先端のオレンジ色の光、それ自体が太陽のように見え、それがまた楽しい気持ちに火をつける。


「…ふ~、ゲホッ、ゴホッ」


咳き込むことすら嬉しく思える。 


先程よりも色が濃くなった煙を見送れば、まるで良質な映画を見た後のように心が軽い。


ふと目を閉じてみる。 


視界を遮断した結果、余計にそれ以外の感覚が鋭敏になるのだろうか?


俺の身体に入った『スモーク』が肺から血管に侵食し、そしてそれがゆっくりと血と混ざって足元へと進んでいく。 


やがて足の裏まで到達した『それ』が駆け上がって太ももから腹へ、そして胸へ、頭に到達した瞬間ぶっ飛んだ。


それは比喩というものではなく、文字通り飛んでしまったのだ。


俺の意識は脳内の『スモーク』と同化し、当然の帰結のように空気と混ざり部屋に広がっていく。 


そしてそれらは壁の隙間から外へと漏れ、夜空へ昇り、成層圏を越えて宇宙へとたどり着いた。


俺は見たのだ。 


無数の星々に囲まれながら青く美しく燃える地球を。


だがそれはひどく儚くて、目を開いてしまえばそこは狭い自室なのだが、それはそれで自分とあの大きく綺麗な地球と自分が繋がっているように思え、妙な感動さえ覚えた。


そうだ! 感動だ。 


ここ数年湧き上がることなど無かったそれをいま俺は感じている。


まるで新しい発見をしたように。 見たこともない絶景を見たように。


その日、俺は人生でそう何度も無い幸福な出会いをしたのだった。

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