sideA 結局

 常識的に考えて無理があった。と言うか向いてなさすぎた。


 何が?


『ほほーん、そんで初ナンパチャレンジして見事玉砕されて来たわけだ』

「……うっさい、最後のは手応えあったんだよ!!」


 ナンパと言うものは中々に難しい、しっかり学習して来たつもりが全てが未知の領域だった。

 話しかけては断られ、睨まれ、挙げ句の果てにはタイキックまでされてしまった、

……女こぇぇ。


『ったく、常識的に考えてナンパ素人のやつが成功する確率なんて皆無だろうに』


 と、電話越しの親友山田は呆れ口調でそう言う、対する俺といえば自室のベッドに仰向けに倒れこみながら蹴られたケツをしきりにさすっていた。


「常識的な奴は普通ナンパしないとは思うが……」

『んじゃ基本的に考えて、……素人にナンパは無理!!』

「実行する前にその言葉が聞きたかった……」


 まぁ、そんな事言っても後の祭り感がハンパないのだが。


『んでも俺は嬉しいぜ? ナンパするってことはもう吹っ切れたって事だろう?』


 親友山田は電話越しで愉快そうにそう話す、恐らくもう俺からの相談を受けずに済むとでも思っているのだろう。

 甘いぜ山田。


『そしてそんな俺からお前にお知らせがある』

「……また下らない出会い系アプリの勧めなら断るぞ」

『そんな事もうしないっての!?』


 どうだか、ピークの時は週に一個のペースで勧めまくって来たくせに。最早業者か何かかと思い始めていた時もある。

 それにそのアプリはほぼサクラばかりで期待して課金して大損したっけ? ……泣きたい。


『いいか親友、もう出会い系の波は過ぎ去った。今は……合コンが熱い』

「……あ、俺仕事しなきゃ。そんじゃ山田、今度また俺の相談に乗ってくれよー」

『待てっての!! 大丈夫だ、取り敢えずは俺に任せておけば楽勝だから!!』

「その自信はどこからくるのか謎ではあるが、……いいだろう、話だけは聞いてやろう」


 ただし、話だけだがな。


『お前のその急なキャラチェンジマジでついていけねぇ……』

「それで? この人見知りチキン野郎(仮)の俺に何しろって?」

『今思ったけどお前よくナンパしようと決意できたな……』

「……それは俺も思う」


 あの時は恐らく情緒不安定だったんだろう、てかそうでなければありえない。

 普段の俺なら絶対にナンパなんか実行できるわけないし。


『……まぁいいや、取り敢えず詳しいことはラインで送っておく。絶対返信しろよ? 前みたいに平然と既読無視してくれるなよ!』

「ああ、うん」

『……返さなかったらお前のデビュー作、家族に晒す』

「秒でお返しいたします山田様!!」

『宜しい、そんじゃな親友。……あんま無理すんなよ?』

「ツンデレかっ」


 そう言ったらブチっと切られてしまった、意外と照れ屋な一面もある山田である。

 ……それにしても、


「合コンとかカオスすぎんだろ……」


 そう呟いてベッドから立ち上がる。因みにまだ尻は痛い、蹴られた瞬間に分かった、コイツは経験者だと。


 と、まぁ、そんなどうでも感想は置いといて、ぶっちゃけた話、今回の合コン、はっきり言ってうまくいく気がしない。


「そこまで彼女が欲しいわけでも無いんだけどな……」


 もし仮にできたところで、俺が完璧に一ノ瀬を忘れられるか。それは否だ、はっきり言って新しい彼女を作ったところで完全に好きになれる気がしない。


「いっそ一ノ瀬に告白するってのもアリだな。……いや、それは祐司に会わせる顔がなくなるしな」


 只でさえと言う属性もあって俺は祐司との距離感を測りかねている、そんな状況で弟の彼女に告白したら?


「完璧終わるな、色々と……」


 俺の立場とか家族内の好感度とか、下手すれば追い出されかねない。いや、いずれ出て行こうとは思っているのでそれはいいが、


「それに、一ノ瀬に迷惑だしな」


 正直いうと、俺はただ一ノ瀬に幸せになって欲しいのだ。その相手が誰であれ、……まぁその相手が俺だったら尚良しだが。

 もし俺が諦めるだけで一ノ瀬が幸せになれるのであれば俺は喜んで諦めよう、とは思っている。


「ああ!! めんどくせぇ奴だな俺って奴は!!」


 今の所はまだ好きでいてもいいだろうか。やっぱりどうしようもなくこの俺、今井太一は、結局のところ一ノ瀬優奈のことが好きなのだ。


「……仕事しよ」


 そう呟いた後、今日も今日とて俺は自分の部屋で一人ノートパソコンとにらめっこするのだった。

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