踏み出す勇気

翌日、レナは経験した事のない気分の悪さで目を覚ました。


(何これ…気持ち悪い…。)


昨日、変な夢を見たせいだろうか?


ここ最近の精神的な疲れが、胃に不調をきたしたのだろうか?


(疲れてるのかな…。)


なんとか起き上がって着替えると、レナはリビングに向かった。


リビングではテオが新聞を読んでいる。


「おはよう、レナ。」


少し日本語が話せるようになったテオが、レナに声を掛ける。


“おはようございます…”


レナは口を動かしながら軽く頭を下げた。


「おはよう、レナちゃん。」


キッチンで直子が振り返り、レナの顔を見て近付いて来る。


「あら…顔色が悪いわね。大丈夫?」


レナが胃の辺りを押さえながら、口を動かす。


“気分が悪い”


「気分が悪いの?」


レナがうなずく。


「朝食は食べられそう?」


レナは首をかしげたが、お腹は空いているみたいだと思いうなずいた。


「じゃあ、無理しないでいいから食べられる分だけ食べて、休んでなさいね。」


食べられるか心配していたはずなのに、レナはいつも通りに朝食を平らげた。


(あれ…?気分が悪いの、治まったかも…。)


不思議に思いながらも、レナは直子に少しましになったと伝えて部屋に戻る。


しかし、部屋に戻って少し経つと、まただんだん胃がムカムカしてくる。


(変なの…。気持ち悪い…。)


しばらくレナは胃の辺りを押さえながらベッドに横たわっていた。


そして、さっき起きたばかりなのに、睡魔に襲われいつの間にか眠っていた。



昼になり、直子が部屋に来て声を掛けたが、眠っているレナを見て、起こさずにリビングへ戻った。


(レナちゃん、昨日と言い今日と言い、よく寝てる…。夜に眠れてないのかしら?)


直子はレナの様子を不思議に思いながら、一人で昼食を済ませた。



しばらく経って、レナはまた気分の悪さに目を覚ました。


(気持ち悪い…。)


ムカムカと気分が悪いのに、お腹は空いている事にレナは気付いた。


(なんだろ…。病気?お腹が空くと気分が悪くなるのかな?でも、食べた後もまたしばらくすると気持ち悪いし…。変なの…。)


気分の悪さと空腹に耐えかねたレナは、起き上がってリビングへ向かった。


「レナちゃん、目が覚めたのね。声掛けたんだけど、よく寝てたから起こさなかったの。お昼御飯、食べられる?」


レナがうなずくと、直子はレナの分の昼食をテーブルに並べた。


昼食を食べ終わると、また少し気分の悪さが治まった。


(何これ…。)


リビングのソファーでお茶を飲んで寛いでいると、また気分が悪くなる。


(まただ…。)


そしてまた睡魔に襲われ、いつの間にか眠っていた。


気が付けばいつの間にか眠っているレナを見て直子は首をかしげる。


(レナちゃん、どうしたのかしら?)



夜になって、ユウが迎えに来た。


一緒に食べようとユウが来るのを待っていたので、夕飯がいつもよりかなり遅い時間になった。


レナは空腹と気分の悪さで、蒼白い顔をしている。


「レナ、顔色悪いぞ。大丈夫か?」


心配したユウがレナの顔を覗き込む。


レナはつらそうにうなずいた。


直子はユウを手招きしてキッチンに呼ぶと、レナに聞こえないように小声で話す。


「レナちゃん、今日は朝から気分が悪いみたいなの。食欲はいつも通りなんだけど…。それに気が付いたら眠ってるし…どこか悪いのかしら?レナちゃん、いつもそんなに寝てる?」


「いや…そんな事はないけどな…。」


「一度、病院で診てもらった方がいいんじゃない?なんかつらそうだし。」


「そうだな…。様子見て、続くようならそうするよ。」


相変わらず蒼白い顔でソファーに身を沈めているレナを見て、ユウは心配そうに呟いた。



食事が終わりひと息ついてから、ユウはレナを車に乗せてマンションに帰った。


食事は普通にしていたのに、しばらくするとまた具合が悪そうなレナを見て、ユウは首をかしげる。


(なんだろう…。疲れてるのかな…?)


入浴を済ませると、レナはまたソファーでぐったりしていた。


「大丈夫か?」


ユウが心配そうにレナの顔を覗き込む。


レナはうなずいて、ユウの手を握った。


「ん…?どうした?」


“ここにいて”


「うん、いいよ。」


ユウはレナの隣に座り、優しく頭を撫でる。


(急にどうしたんだろう…。)


直子の家に行く前はユウと顔を合わせないようにしていたレナが、手を握って“ここにいて”と言った事にユウは驚いた。


(何かあったのかな…?)


レナは目を閉じてユウの手を握りながら、昨日の昼間に見た夢を思い出していた。


(やっぱり、私はユウのそばにいたい…。他の誰かの隣じゃなくて、私の隣で笑っていて欲しい…。もう、ユウと離ればなれになるのは嫌だ…。ずっと一緒にいたい…。)


でも、それには乗り越えなければならない事がいろいろあると思う。


本当にユウは、どんな自分も愛してくれるだろうか?


シオンと重ね合わせて、あの時のユウに恐怖を感じて怯えていた事を知っても、ユウは嫌わないでいてくれるだろうか?


こんな自分と一緒でも、ユウは幸せだと言ってくれるだろうか?


(それでも私は…ユウを愛してる…。)


レナは勇気を出して、ユウの手をギュッと握り直し、広い胸に顔をうずめた。


「ん…?」


ユウがレナを優しく抱きしめる。


「寂しかったの?」


優しく問い掛けるユウの声を聞きながら、レナは目を閉じてうなずいた。


ユウの大きな手が、レナの髪を愛しそうに撫でる。


「オレも会いたかったよ。」


ユウの腕の中で、レナは幸せをかみしめた。


(やっぱりユウが好き…。)


レナは顔を上げて、口を動かす。


“大好き”


ユウが嬉しそうに微笑む。


「オレも、レナが大好き。」


“ずっと一緒にいたい”


「うん、オレも。ずっと一緒にいよう。」


“私が奥さんでも、ユウは幸せ?”


「当たり前。何度も言ってるだろ。オレの奥さんはレナしかいないよ。」


ユウはレナを抱きしめる手に力を込めた。


「レナこそ…オレでいいの?」


レナはゆっくりうなずいて、ユウの目を見た。


“私も、ユウがいいの”


ユウの唇がレナの唇にそっと触れる。


「良かった。もう嫌われたのかと思った。」


“嫌いになんてならないよ、ユウは私を嫌いにならなかったの?”


「なるわけないじゃん。オレはレナが一番大事だし、レナがいてくれたらそれだけで幸せ。」


“私も、ユウがいてくれると幸せ”


「じゃあ、これからもずっと幸せでいよう。」


レナがうなずくと、ユウは優しくキスをした。



その夜二人は、寄り添って手を繋いで眠った。


大切な人の温もりがすぐ隣にある安心感。


お互いの気持ちを確かめ合えた幸せ。


久し振りに一緒に眠る二人の心は、とても温かかった。




直子の家から戻った翌日から数日経っても、レナの具合の悪さは変わらなかった。


まだ声は出ないものの、レナは部屋にこもる事もなくなり、以前のようにユウと一緒に寝て、起きて、食事をする。


気分の良い時は笑顔も見られたが、やはりずっと気分の悪さで蒼白い顔をしている。


気分は悪いが食欲はあるようで、空腹になると余計に気持ち悪くなると言う。


食べると少し気持ち悪さが治まりラクになるのだが、しばらく経つと、食べた事によってまた気分が悪くなるらしい。


そして、直子が言っていたように、気が付けばよく眠っている。


(なんだろう…?やっぱり病院で診てもらった方がいいのかな?)


夕方、ソファーでお茶を飲みながら、ユウが心配そうにレナの顔を覗き込んで頭を撫でた。


「レナ、やっぱり気分悪いの?」


レナがユウの手を握ってうなずく。


「なかなか具合良くならないから、病院で診てもらった方がいいんじゃないか?」


レナは顔をしかめる。


(レナ、子供の頃から、あんまり病院得意じゃないんだよな。)


「今のままだとつらいだろ。なんか日に日にしんどそうになってる気がするし…。」


レナがうなずいて口を動かす。


“なんだか体がだるいし、いつも眠い”


「うん、確かに気が付けば寝てる。」


“ずっと気持ち悪くて、食事を作るのつらい”


「オレがやるから無理しなくていいよ。」


“なんか熱っぽい気がする”


「なんだろう…。風邪かな?胃に来るやつ。」


“あと……この辺が痛い”


レナが少しためらいがちに下腹部を押さえる。


「なんでだろう…?やっぱり明日病院行こう。オレも一緒に行くから。」


レナはしぶしぶうなずいた。


(このままほっとくより、とりあえず医者に診てもらうのが一番だ。)



それから1時間ほど経ち、レナは空腹に耐えかねたのか、冷蔵庫に入っていた絹こし豆腐に梅ドレッシングを掛けて黙々と食べている。


「レナ、夕飯何食べたい?オレ作るよ。」


“唐揚げ”


「唐揚げ?食欲はあるみたいだけど…そんな油っこい物食べて大丈夫?」


“唐揚げにレモンいっぱい絞ったやつ、すごく食べたい”


「そうなんだ。レモンあったかなぁ。」


レナは立ち上がって、冷蔵庫の野菜室からレモンを取り出した。


“あるよ”


「じゃあ、奥さんリクエストの唐揚げ作ろうかな。鶏肉は胸、モモ…どれ使う?」


レナは冷凍庫から、凍った鶏肉を取り出す。


“唐揚げは肩肉が一番”


「へぇ…そうなんだ。肩肉ってあまり聞いた事ないな。じゃ、レナはゆっくりしてな。」


“下味の付け方、わかる?”


「生姜醤油?」


“塩がいい”


「じゃあ、調味料とかメモしといて。」


レナはメモ用紙に、塩唐揚げの下味を付ける調味料をメモする。


“酒、生姜、塩(多め)、こしょう”


そのメモをキッチンのボードに貼り付けると、レナはお米を研いでいるユウのシャツの裾をツンツンと引っ張った。


「ん、何?」


ユウが振り返ると、レナはボードのメモを指さす。


「あぁ、あれに書いてあるんだな。」


ボードの方をユウが見ている間に、レナは少し背伸びをして、ユウの頬にキスをした。


ユウが驚いて振り返る。


“ありがと、ユウ大好き”


レナが口の動きだけでそう言うと、それを見たユウは嬉しそうに笑う。


「オレも大好きだよ、奥さん。」


ユウがレナの唇に軽くキスすると、レナは幸せそうに微笑んだ。



夕飯が出来上がり、二人で向かい合ってテーブルに着いた。


ユウの作った塩唐揚げにレモンをたっぷりと絞って、レナは美味しそうに頬張る。


「うまい?」


“すごく美味しい!”


「いっぱい作ったから、ゆっくり食べな。」


“ありがと”


さっきまでずっと具合が悪そうだったのに、食欲は旺盛なレナを見て、ユウはなんだかおかしくなって笑う。


「そんなに喜んで美味しそうに食べてくれると作り甲斐あるなぁ…。」


レナはサラダにバルサミコ酢を掛けて美味しそうに食べている。


「それ、うまいの?酸っぱくないか?」


“サッパリして美味しいよ”


レナはこんなに酸っぱいものが好きだっただろうかと不思議に思いながら、ユウは唐揚げを口に運ぶ。


(気分が悪いと酸っぱいものが美味しく感じるのかな?)



夕飯の後、ユウは入浴を済ませると、レナがお風呂に入っているうちに近所の病院をパソコンで検索した。


(女医さんの方がいいかな。何科を受診すればいいんだろう…。内科?胃腸科?)


いろんな病院の情報を見ていると、すぐ近所に女医のやっているレディースクリニックがあるのを見つけた。


(へぇ…。内科もやってるんだ…。)


ベテランの女医が内科と産婦人科の両方を診てくれるらしく、評判も良いようだ。


(すぐ近くだし、ここにするか…。)




翌日、ユウは険しい顔をしているレナを、夕べパソコンで調べたレディースクリニックに連れて行った。


レディースクリニックの看板を見て、レナは驚いているようだ。


「大丈夫だよ、レナ。ここ、女医さんがやってるんだって。内科も診てくれるから。」


院内に足を踏み入れると、患者のほとんどはお腹の大きな妊婦だった。


(まぁ…産婦人科だしな…。)


受付でユウは、レナが今は病気で声が出ない事を説明する。


「それでは問診票にご記入下さいね。」


レナは問診票を受け取ると、イスに座って記入し始める。


そして、時々首をかしげたり、何かを指折り数えたりしていた。


(なんだろう?何か数えてる?)



しばらく待つと、レナの名前が呼ばれた。


「ご主人は待合室でお待ち下さいね。もしお聞きしたい事があったらお呼びしますので。」


「わかりました。」


少し不安そうにユウを振り返りながら、レナは案内された診察室へ入って行った。


(大丈夫かな…。たいした事なければいいんだけど…。)



レナが診察室に入ってから数分後。


「えぇーっ?!」


ユウは診察室から聞こえた大きな声に驚いて、思わず診察室のドアを見つめた。


(何?!なんだ?!)


そして程なくして、看護師がクスクス笑いながらドアを開ける。


「片桐さんのご主人、どうぞ中へ。」


「ハ、ハイ…?」


案内された診察室では、レナが放心状態でイスに座っている。


「あ、ご主人ね。どうぞ、お掛けになって。」


「あ、ハイ…。」


イスに座るよう促され、ユウはわけがわからないまま腰を下ろす。


「奥さんね、妊娠されてます。」


「え……えぇっ?!」


ユウもその言葉に驚いて大声をあげる。


「今、5週目相当の大きさですね。まだごくごく初期なので今の段階では特定はしませんが、おそらく予定日は8月中旬あたりですね。」


「は、はぁ…。」


「気分が悪かったり、だるくて眠かったりしたのは、つわりのせいですね。熱っぽいのは、妊娠して体温が上がっているからで、下腹部の辺りが痛むのは、妊娠して子宮が少し大きくなって、引っ張られる感じです。」


「そうなんですか…。」


どこか信じられない思いで、ユウの耳を女医の言葉がすり抜けて行く。


「奥さん、子宮内膜症気味だったのね。少し妊娠しにくい状態だったと思いますけど、出産されると子宮内膜症も改善されますよ。」


「ハ、ハイ…。」


(に、妊娠…?出産…?!)



それから、会計を済ませて二人で黙ったまま歩いてマンションに戻った。


(まさか…妊娠って…。レナはどう思ってるんだろう…。あんなに怖がってたし…。)


ユウはソファーに座ってタバコに火をつけかけて、やめる。


(いやいや…タバコはダメだ…。)


レナは帰ってから、イスに座って、黙って何かを考えている。


そして、ユウの隣に座り、手を握った。


「赤ちゃんが、いるんだって…。」


レナがポツリと呟く。


「えっ…あ…!レナ、声…!!」


久し振りに聞くレナの声にユウは驚く。


「妊娠してますよって言われたら、ビックリして…思わず、えぇーっ?!って。」


(あ…あれ、レナの声だったのか…。)


「ビックリし過ぎて、それから何も言えなくなっちゃった。」


「うん…。」


レナはユウの手を握ったままうつむいている。


(やっぱり…怖いのかな…。)


ユウは黙ってレナの手をギュッと握り返した。


(レナ、どうするつもりだろ…。)


しばらく黙っていたレナが、ポツリポツリと話し始める。


「あのね…妊娠するのも、赤ちゃん産むのも、すごく怖いって、ずっと思ってた…。私にそんな事ができるのかなって。ユウが、無理しなくていいって…ずっと夫婦二人でもいいって言ってくれて、ホッとしたりもしたけど…ホントは、ユウの子供が欲しいって…ユウに赤ちゃんを抱かせてあげたいって思ってた…。」


「うん、そっか…。」


「あんなに怖かったはずなのにね、さっき、妊娠してるって…お腹に赤ちゃんがいますよって言われたら…そんな事忘れるくらい、すごく嬉しかったの…。」


「うん…。」


「だってね…ここに…私のお腹に、大好きなユウの赤ちゃんがいるんだよ。」


レナは穏やかに微笑んで、お腹に触れた。


「私、やっぱり…ユウの赤ちゃん産みたい…。この子のお母さんに、なりたいの…。ユウは…どう思ってる?」


ユウはレナを優しく抱き寄せた。


「オレも…めちゃくちゃ嬉しい…。」


お腹に触れるレナの手に、ユウは大きな手をそっと重ねて愛しそうに呟く。


「ここに、オレたちの子がいるんだな…。」


「そうだよ…。」


「オレはさ…生い立ちがあんなだから、もし子供ができても、ちゃんと愛せるのかなって、ずっと不安だったんだ…。だから、もしレナが産みたくないなら、それでもいいって…ずっと夫婦二人で生きるのも幸せだって思ってたはずなのに…レナが妊娠してるって聞いて、もちろんビックリしたけど、やっぱり…素直に、嬉しいって思ったんだ。」


ユウはレナをじっと見つめた。


「オレにはそばにいる事くらいしかできないけど…それでも、オレにできる事はなんでもするし、少しでもレナの不安が取り除けるように頑張るから…レナのお腹の…オレたちの子供、産んでくれる?」


レナが微笑んでうなずくと、ユウはレナを優しく抱きしめた。


「ありがとう、レナ…。大事にしような。どんな子でも、目一杯愛情注いで、二人で一緒に育てて行こう。」


「うん…。」


ユウはそっとレナの唇にキスをして、少し照れ臭そうに笑った。


レナの肩を抱いて髪を撫でていたユウが、ポツリと呟く。


「オレたちに、家族ができるんだな。」


「うん。ユウの願い事叶えられるのは、私だけだもんね。」


「願い事?」


「覚えてないよね。」


レナはユウの肩にもたれて笑う。


「なんの事だろ…すごく気になるんだけど。」


「ユウも私も、小さい頃にお星様にお願いしたんだよ。」


「お星様にお願い?」


「七夕の短冊に、書いたんだって。ユウは、レナをお嫁さんにするって。私は、ユウのお嫁さんになりたいって…。」


「そうだったかな…。」


(ホントは覚えてるけどな。)


「ユウ、次の年には、レナと結婚していっぱい家族を作るって書いたんだって。」


「えぇっ…。」


(なんかめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど…。こんな話すんのは、おふくろだな…。)


「いっぱい…はともかく、一緒に家族を作るって言う願い事は、叶えられそうかな。」


そう言ってレナは、嬉しそうに笑った。


「オレたち、これから親になるんだな…。二人で、ちゃんとこの子を守らないと。」


「責任重大だね…。」


「二人一緒なら大丈夫だよ。レナ、もう一人で頑張り過ぎるなよ。オレたちは夫婦だろ。お互いに助け合ったり支え合ったりして当たり前なんだから。いつでも遠慮なく夫を頼りなさい。わかった?」


「ハイ…。ありがとう、旦那様。」


「じゃあ…ハイ。」


ユウは、レナの唇の前に頬を突き出す。


レナはふふっと笑ってユウの頬にキスをした。


「ありがと。ユウ、大好き。」


「オレもレナが大好きだよ。」


ユウはレナに口付けて、ギュッと抱きしめた。


「レナがすぐそばにいて、名前を呼んで大好きって言ってくれて…ホントに幸せだ…。」


「私も、ユウがいてくれて幸せ。思ってる事、ユウにちゃんと話せるし、大好きな人の名前を呼んで、大好きって声に出して言えるのって、ホントに幸せだね。」


「じゃあ、もっと言って。ずっとレナの声、聞けなかったから、何度でも聞きたい。」


「ユウ、大好き。いつも私の事、一番愛してくれてありがとう。私も、ユウが一番大事。私の願い事、叶えてくれてありがとう。」


「うん…。レナも、オレの願い事叶えてくれてありがとう。」


「ユウ、愛してる。ずっと一緒にいようね。」


“一緒にいてね”でも“一緒にいたい”でもなく、初めて“ずっと一緒にいよう”とレナが言った事が嬉しくて、ユウはレナを抱きしめる手に力を込める。


「うん…オレも愛してる。オレの奥さんはレナしかいないよ。これからもずっと…ずっと一緒にいよう…。」


レナはユウの言葉を聞きながら、温かい腕の中で、ユウと一緒に生きている幸せを、しみじみとかみしめた。


(生きてて良かった…。)




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