お昼ご飯の時間 その3


 ヴァリアッテは、街の入り口で仁王立ちして、久能の事を待っていました。


「遅い! 犬には劣るとはこのことであるな」


 ヴァリアッテとの実力差が数倍あるため、久能が全速力を出しても、差を狭める事など当然できず、差は開くばかりでした。当のヴァリアッテは、全力を出すどころか、ある程度手加減していたのですから、久能としてはウサギが昼寝をしたので勝つ事のできた亀のような奇跡が起きない限り勝ちようはないのでした。


「……そうは言っても……」


「主人に対して言い訳をするというのか?」


「そうじゃなくて……」


 久能はどんなお仕置きをされるのだろうかと内心ドキドキしながら、ヴァリアッテがその事について言及するのを待ちました。


「さて、行くとしよう。余はお腹が空いたのだ」


 しかし、ヴァリアッテは何も言いませんでした。

 久能は気が抜けてしまいました。


「……はい……」


 自然と気の抜けたような返事をしてしまい、ヴァリアッテからギロリと睨まれました。

 ちょっとした一挙手一投足でしたが、久能は心が満たされるのを感じるのでした。


「余に負けたのが不服であるというのか?」


「負けたのはしょうがないんだけど、そうじゃなくて……」


「もう良い。行くぞ」


 お仕置きの事を口にしてしまえば、ヴァリアッテは呆れるだけと予想できて、言い出せないような状況であったのです。


「おお、魔王がこんな街にいやがるぜ」


 久能は直感として何かきな臭さを感じ取り、警戒心をあらわにしました。

 ですが、ヴァリアッテは意にも介していないようで、街の定食屋へと歩を進め始めていました。


「どこに行くんだい、魔王様がよ」


 街のごろつきと一目で分かる、トゲトゲの肩パッドに付いた特攻服のようなものを着たオークやら、トロールやら、ゴブリンやら十数人ほど集まり、ヴァリアッテの事を取り囲み始めました。

 どうやら、ヴァリアッテが一人でいるのを見かけたごろつきが、仲間を呼び出していたようです。


「俺たちにかかれば、十二使徒だってやれるんだぜ? うちら、ヴァルハラ連合にかかれば、魔王だって楽勝だぜ!」


 ごろつき達の頭目らしき、でっぷりと太ったオークがからからと笑った。


「連合? 幼稚園の間違いではないか?」


「あああん?」


 ヴァルハラ連合の人たちが凄んできましたが、ヴァリアッテは全く反応せず、いつもの変わらない態度でした。


「久能。一分でこいつらを片付けよ。もしできないようならば、昼飯は抜きだ」


「はい!」


 ちなみに、魔族と地球人との最終決戦で、久能が逃げざるを得なかったザンダーク公爵のステータスは以下の通りでした。

 久能にとっては未知の領域だった『魔法』を多用していたため、苦戦しただけではなく、勝機を掴むチャンスを見定めるために逃げ回っていたと言えます。


【名前】ザンダーク公爵

【年齢】522

【性別】男

【職業】十二使徒

【レベル】99/99

【HP】32999/99999

【MP】51399/99999

【STR】1577/9999

【DEX】1044/9999

【AGI】908/9999

【VIT】1281/9999

【MND】5788/9999

【INT】5594/9999

【弱点属性】なし


 久能は、体術などではザンダーク公爵を上回っているのです。

 ただ魔法使いとどう対峙していいのか分からなかっただけなのでした。

 そんな久能がタダのごろつき相手に苦戦するはずもありませんでした。


「待って、ヴァリアッテ! もう終わったから!」


 一人当たり数秒で片をつけて、全員を叩き伏すと、さっさと先に進んでいたヴァリアッテを追いかけたのでした。


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