第29話 理解し合うモノ

東京に戻った一行は、2週間にもわたる厳正な検査を受け、機密保持の誓約にサインした上で解放された。

ヤマザキの怪我は、幸い動脈や神経を外れていたが、リハビリにはしばらく時間がかかるという。

ミコトは、ジャパリカフェに佇み、自分の力について考えていた。フレンズ化。自分はフレンズと同じように、セルリアンと闘うことができる。

自分を調べれば、いずれセルリアンと戦う武器を作ることができるかもしれない。研究者である自分は、調べたいと欲し、人間としての自分は調べられたくないと思う。

「全く、自分勝手だな」

ミコトはため息をコーヒーカップに沈めて、意を決して背後に目をやる。

「お嬢さん、そんなため息なんかついて、どうしました?」

「ハヤマさん、さっきから何やってんですか」

「一緒にお茶でも、と思ってね。お姉さん、合席するからこっちにコーヒーね!」

ハヤマは有無を言わせず、ミコトの前に座った。

「あれから1カ月、政府からは何も?」

「ええ。ただ…」

「ただ?」

「窓の外、250m先の路地から見られてますよ」

ハヤマは慌てて振り返ろうとする。が、ミコトの手がハヤマの胸ぐらをがっしりと掴み、そうさせない。

「振り返ってはダメ。どうせハヤマさんには見えないから」

確かに250mも先では、こんな街中で見つけるのは不可能だ。

「フレンズ化してから、ずっとこんな感じ。人間に戻っても、今までよりずっと勘がいい。遠くだって、目が覚めたように見える。これ、フレンズの能力なのかな」

「やっぱり、変わっちまったのか?見た目はそうは見えねえが。まあそれはともかく、監視はされてんのか。俺もか?」

「ハヤマさんにも付いてますけど、多分別の意味でしょうね。ほら、誓約書書いても、こっそりリークするかもしれないから」

「しねーよ、どうせ通信関係も監視されてんだろうしな。そうか、あんたがフレンズ化したのはバレてるってことか」

「そうでしょうね」

ミコトはこともないように言う。

「ヤマザキのやつ、怪我で朦朧としてるかと思ってたけど、見られてたんだな。ところでよ、ヤマザキはなんでセルリアンに攻撃されたんだ?あれはエネルギー吸おうっていうより、破壊しようとしてたんじゃないか?」

「そう思います。あれは、低位AIを敵と認識したんじゃないでしょうか。パワードスーツは、結局のところ、人間の動きを予測してトレースするAIロボットですから」

「AI?なんでそんな話が急に出てくるんだ?」

「ヤマザキさんが攻撃されたのに違和感があったんで、調べたんです、今まで、セルリアンが攻撃したものの共通点を。喰われたものはエネルギーに関連したものでしたが、実は食う対象と攻撃する対象は違ったんですよ」

「それが低位AIか。まあ今じゃ、たいていのもんにゃAIが使われてるからな。これだってそうだろう」

ハヤマはスマートフォンを取り出した。

「ええ。エネルギー施設もAI使うので、食うのと攻撃の区別がわからなかったんですよ」

「なるほどな。じゃあ、なんで低位AIに限定した?もっと高度なAIもあるだろう。なんなら、最強のAIは人間じゃないのか?」

「LB1、なんで襲われないと思います?」

「ラッキービースト、か。あれは自我を持つかも知れないと言われてるからな。最新型のLB3では、性能は上のはずなのに、自我を持ってないとか」

「お詳しいですね、さすがジャーナリスト」

「よせよ、開発者に取材したんだよ。セルリアンが高位AIではなく低位AIを攻撃するのか。つまりそれは、理解できる相手だからか、セルリアンにとって」

「多分。争いは、理解できる者同士でしか起こらない」

「低位AIは、セルリアンを理解できるのか?」

「…だったらいいんですけどね」

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