第5話 公理その2、3、あと0

この世界の公理その2


”人間は転生する際に記憶を引き継ぐことができる。過去の記録からはおよそ2/3程度の人が前世の記憶を引き継いでいるらしい。”


俺を含めこの教室にいる人も記憶を引き継ぐことを決めた人間だ。だから7歳にして皆中学三年生という齢不相応なレベルの勉強が可能になっているのだ。


ただしこれは既に矛盾しているといえば矛盾している。なぜならばほぼ全ての人間は本当は前世で学問を常識の範囲で修了してその記憶を引き継いでいるのなら、日本で言えば半分以上の人は大学進学していたはずで、つまり高校1、2年くらいの数学は出来るはずだ。よって受けるべき授業はグレード10、11程度の数学のはずなのだ。でもまあ、多くの人が学生が終わった途端に勉強のことなど忘れるのが当たり前の前世だったから仕方ないとも言える。


「あんたらの名前から察するにあんたはアメリカ人の親か?でそのおばさんっぽい喋りなのが中国人じゃろ?」


「その通りです。」


「あら、あんたよくわかったわね?」


「昔外人と触れ合う機会が少し多かったからなんとなく分かるんじゃ」


公理その3


”転生した先でどの親の子供として生まれるかは誰も予知できない。例え先端の科学技術をもってしてもそれは不可能だ。”


これも4歳の時に転生者案内サイトで知った(というか公理については全て)。これも非常にこの世界の本質を表している。この公理のせいで親の母言語と子の母言語が一致しないことさえあるということだ。


例えば俺は英語圏の親の間に生まれた元日本語話者だ。しかも運の悪いことに俺は英語の教養が全くない。「教科書を見るだけでアレルギー反応がでる」などと逃げ続けた前世の報いだろうか、おかげ様で俺が赤ちゃんの間に親の会話を聞いていても何を言ってるか理解できず、そのまま7年が過ぎてしまった。今では親と喋るときはスマホに翻訳をお願いしながら話している。


ちなみにこの公理3のおかげでこの世界では翻訳に関する技術が現世より発展していると言われる。スマホが発表される前の時代はこの異世界では親と子供が意思疎通できないという非常に困難な問題を人類全体が抱えていた。だからこそ少し前の異世界歴史では、親と子の母国が一致した家は教育にかける費用が収まって出世する、とか記憶を引き継がずに転生した人間の方が出世する、なんていう常識が蔓延していたそうだ。それぐらい言葉の壁は深刻だったのだ。


おっと、今また別の公理を説明し忘れたな。


公理その0


”科学はこの世界でも現世同様である”


だからスマホの設計者が死んでこの世に転生すればその人は現世同様にスマホをこの世界で再現することができる。したがって最先端知識でない限り、現世と同じもしくはそれ以上の技術がこの世界には存在することになる。実際アインシュタインはこの世界に無事転生し、理論物理学者としてこの世界でもやはり活躍したそうだ。


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