秘密

物心ついた頃から私の家は病院だった。

生まれてから一度も笑わない、泣かない、

そんな私を気味悪がった両親は、私を病院に閉じ込めていた。

そんな生活が何年か続いたころ、彼らが私を買い取った。

彼らは私を「被験体0番」そう呼んだ。


「先天性 失感情症(アレキシサイミア)」


字の通り感情が失われる病。先天性は私以外いないと彼らは言っていた。


実験をしている時、いつもとすれ違っていた。実験体1番。その子はいつも研究者達を睨みつけ、嫌っていた。

彼が何のために実験されているか私は知らない。

そして1番はだんだんと衰弱していった。

彼らは抜け殻の私を器に使った。

私に感情を埋め込む実験。

その実験に使われたデータには1番の実験で得たデータも入っていた。

そして私の記憶はここで消えていた。




記憶が鮮明になった頃には今の私

「雨音 雫」になっていた。嬉しいと笑える。悲しいと泣ける。普通の女の子に。

彼らには今でも感謝してる。でも、それ以上に1番にも感謝している。あの子のおかげで私は変われたのだから。でもあの子は私が気がついた頃には居なくなっていた。

お礼が言いたかった。

でも私が高校に通う時、彼らは言った。


「持って半年」


半年経てば前の私に戻ってしまう。

笑えなくなる。泣けなくなる。

それから私は一生分笑おうって思った。

一生分楽しもうって思った。

そして入学式。音無 真琴に会ってしまった。

一目でわかった。1番だって。

話しかけても無視される。こうなったら話せるまで追いかけようって思った。

そして君と橋の下で話せた。

私は君にありがとうと言いたかったの。





話が終わった彼女は、窓の外を見つめながら月の光を浴び、青い輝きを放っているようだった。

窓の外で静かに雨が降り、静まり返った部屋の中で雨の音だけが響いていた。

そして彼女の目から雫が1つ流れていた。

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