第3話 サクラ舞う、そんな放課後

 入学式が終わり、教室へと戻ってくる。

 どうして式っていうものは、話が長くなるんだろうな。途中から意識がどこかへと消えていたよ。

 帰ったら何しようかな。夕飯何食べようかな。入学式の記憶は、それくらいしか残ってなかった。まあ、仕方がないよね

 


 さて入学式も終わり、教室で今後の予定や教科書を貰い今日は下校となった。

 毎日、これだけ早く終わると嬉しいんだがな。さて、帰るか。そして、僕が帰ろうと荷物を纏めていると一ノ瀬から声がかかる。


「なあ、篠崎。部活、どうするよ」

「部活か。高校では入る気ないな。一ノ瀬はどうなんだ」

「嘘だろ!? 今年は、一緒の部活でテニスしようぜ。ほら、俺はもうテニス部に行く準備してるんだよ」


 そう言って、ラケットを見せてくる。っていうか、いままでそのラケット、どこに置いておいたんだよ。


「中学でテニスは楽しんだしな。高校では、放課後をゆっくり楽しみたいんだ」

「そっか、それなら残念だけど仕方ないな。でも休みの日とかは、テニスしような」

「うん、もちろん」

「じゃあ、先に行くわ。またな篠崎」

「あぁ、また明日」


 ちょっとだけ悪いことをしたかなと思いつつも、一ノ瀬を見送りながら帰り支度を進める。教科書が増えた分、朝よりも重くなった鞄が帰宅欲を高める。

 よし、帰るか。


「ねえ、紫苑くん。このあと暇かな?」


 いいえ、暇じゃないです。帰宅に忙しいのです。


「あっ、一條か。どうしたんだ? 今日はもう帰るだけだな」

「そっか、じゃあ遊びに行こ? 朱音ちゃんも一緒だし」

「じゃあ遊びに行くか。それよりも、僕が行っても良いのか。五十嵐に悪い気がするけど」


 隣の席を見ると、五十嵐は外の桜を見ながら「私は別に良いよ」と呟いた。


「朱音ちゃん、そこは是非来てっていうところだよ! もう、そういう人見知りなところは昔から変わらないなー」

「まあまあ、そんな気にすることじゃないよ。僕も『別に良い』って言うだろうし。それで一條、どこに行くんだ」

 

 気になっていた事を聞いてみる。


「そうだった。あのね、紫苑くんにこの辺りを案内してほしいの! 朱音ちゃんは、この近くに引っ越してきたし、私もこの辺あまり知らなくてさ。だから、私たちを案内してほしいなって」

「あぁ、そういうこと。別に良いよ」


 あ、別に良いよって言っちゃった。


「篠崎君。そこは是非案内させてって言うところよ」


 五十嵐が笑いながら言う。

 おい、五十嵐。お前が言うな、お前が。


「じゃあ、そろそろ行くか。五十嵐、ぜひ案内させてもらうからな」

「ふふ、お願いするね」


 なんだ、普通に喋れるじゃないか。


「まずは、どこか行きたいところあるか」


 今まで静かに様子を見ていた一條が手を上げる。


「はいはい! お昼食べたい、もう12時だよ」


 そういえばお昼の時間か。ご飯を食べるなら一ノ瀬を呼ぼうかと提案してみると、「そのことなんだけど……」と一條がスマホの画面を見せてくる。


「圭は部活のメンバーで食べるって。こっちに来たかったみたいだけど」


 うわ、本当だ。友達を作るのがはやいな。っていうか、一度は部活のメンバーとの約束を放り出して、こっちに来ようとしたみたいだ。あっ、一條に怒られてる。


「一ノ瀬は残念だけど、3人で食べに行こうか。近くに小さな喫茶店があるからそこで良いかな」

「私は賛成だよ!」

「へー、喫茶店とか行くのね。意外」


 そんな会話をしながら下駄箱を過ぎ、駐輪場へ。自転車通学の一條が自転車を取りに行っている間、五十嵐と二人きり。

 なんとなく気まずい空気が二人の間に流れる。いままでは一條がクッション代わりになっていたんだなと感じた瞬間だった。

 そのまま僕たちは、無理に会話をすることなく、一條が来るまでのほんのわずかな時間を、ふたりで舞い散る桜を眺めながら過ごした。



 やっぱり、人見知り同士だと、会話が始まらないものだよな。

 でも、桜を見ている間は不思議と居心地は悪くなかった気がした。

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