第02話;脳内変換王子は婚約破棄をする(後編)

扉の向こうが騒がしくなっていた。

「何事?」

ディラン王子が不安そうに呟いた

バーン!!

扉が勢いよく開いて一斉に兵士らしき男たちが入ってきた。

中央からはゆっくりと筋肉粒々の金髪碧眼の30すぎくらいの男性が優雅に部屋に入ってきた。

その後ろから騎手見習いの銀髪に青い瞳のブライアン第三王子、魔術師の黒髪にグレーの瞳の第二王子のザグレブが続く

第一王子と第二王子は同い年の異母兄弟

第三王子とここにいない第一皇女クレセントは双子で二人も異母兄弟だ、ひとつ下の17歳になる。


「父上?!」

「王陛下!!」

ディランとフレイアが同時に声に出した。

「これは何事か、ディラン説明せよ!」

「父上、魔物討伐は?半月は帰って来ないのでは?」

ジロッと鋭い目でディランをにらむ王であった。

「私が速く帰ってきては不味かったか?」

「いえそんなことは・・・」

「これはどの様な状況かと聞いておる、フレイア・キルビス公爵がなぜ此処に居る!」

王の言葉は腹に重くのしかかるような威圧が込められていた。


わたしはゆっくりと説明を始めた

「王陛下、私から説明させていただきます。

朝、ミシェリア・グラント男爵令嬢の結婚式に向かおうとしていた所、そこの騎士の皆さんに止められ有無を言わさず、この断罪の間に連れてこられました。

此処でディラン王子が待ち構えておられ、開口一番に婚約破棄を言い渡されました。

理由は私が王子とミシェリア・グラント男爵令嬢の仲を羨んでの彼女への暴行だそうです。」

「「「何を馬鹿な事を・・・」」」

そう呟いたのは1人だけでは無かった。


「婚約破棄は喜んで了承させて頂きますが、身に覚えが無い、王子とミシェリア・グラント男爵令嬢の仲を羨んでの彼女への暴行容疑は逆に名誉毀損、公爵家に対する敵対と見なし、ここで王陛下を訴えさせていただきます。

裏付けも取らずに先走った行動は責任ある王家の一員としては愚かとかしか言いようがございません。」

ピリッと空気が軋む感じがした

「王陛下、ディラン王子への処罰はおまかせ致します、しかし大事な貴族の予定を潰し公爵家と男爵家とのつながりを蔑ろにした事、わたしは許せません」

怒りで唇がフルフルと震えた

「なっなにを、いくら公爵令嬢でも王陛下に直に訴えるなど何様だ」

ディラン王子が慌てて言い放った


「そうですね、ただの公爵令嬢でしたら出来ませんわ、しかし私はキルビス公爵家の当主です、それに国政を担う役職の賢者の地位に付いております。」

ポカーンと口を開けたまま目を見開いて青ざめているディラン王子と取り巻き子息達

「ディラン兄上、王家の者が国政を担う者達を知らないのはかなり問題ですよ。」

そう言ったのは第二王子のザグレブ王子

「弟王子達が成人後、学校に通いながらも国政に関わる仕事をしてる中、お前は何をしているのだ!」

血管が切れそうな勢いで怒りをあらわにしている王

「先程フレイア様が断罪されたと仰っておりました、貴族を単独で断罪裁判出来るのは王と王太子と賢者のみ、いち王子が出来るものではありません。」

ザグレブが呆れたように言った


「私が王になれば必然的に国政の仕事をする事になります、それまで自由にしてても良いではありませんか!王太子の私が断罪裁判しても可笑しいことは無い!」

そうディラン王子が叫んだ

その言葉にびっくりしてザグレブ王子が反論した

「何を馬鹿な事を言っているのですか兄上、誰が王太子ですか?!王太子などと軽がしく言っては行けません」

「第一王子の私が王太子・・・」

「誰がそんな事を言ったのだ!」

怒りが頂点に達した王は、ディランの元に歩み寄り、胸ぐらを掴んで睨みつけた

「王陛下、多分お母上のクルミーナ側室妃の発言ではないでしょうか?」

私がそう言うとザグレブ王子が思い付いたように

「カンジナバル公国は国王の長男が王になるのが決まり事だったはずです、ディラン兄上の母君のクルミーナ側室妃の実家ですね」


「しかし兄上、それはカンジナバル公国の話で我が国では王の直系であれば王太子の資格は子供皆に資格があります。私は母の身分が低いので成人した折に王位継承権を放棄しておりますが、ディラン兄上とブライアン王子とクレセント皇女に王位継承権が有るのです!貴方は今まで王家のことを学んで来なかったのですか?幼少期に覚えた事ですよ!それに王太子になる為には、王と賢者と5大公爵家の全員の承認、全貴族1/2以上の賛成が必要です。」

ザグレブ王子は呆れてこれが兄かと嘆いている様子が伺えた

「ディラン!公爵家への不敬罪、無い職権の乱用そなたを捕縛する!捕らえよ!後ろの子息達も共犯で捕縛する」

周りの兵士がディラン王子達の元に駆け寄って後ろ手に縛って行く


その様子を見て、ふっと力が抜け倒れそうになった、そこに直ぐ傍に居てくれたブライアン第三王子が私の体を受け止めてくれた

「大丈夫ですか、フレイア姫」


「「「「姫?」」」」

そこにいる王を除く全員が2人の方をそっと見た


「あ、ありがとうございます、緊張していたみたい、気が抜けて・・・っ痛ー」

「どうしました?」

腕を痛そうに抱えた私をいたわるように優しい声が響く

「騎士達に連行された時に強く腕を掴まれたので、とっさのことで身体強化魔法使うのを忘れていました。」

ブライアン王子はギロっと、フレイアを連行して来た騎士達に向かって王に負け無いような殺気をはなった

騎士達は一斉に恐怖で後ずさりして床に倒れて行った

その殺気に向けられても居ないディラン王子も真っ青になっている


「ブライアン?」

私は、全然平気だが少しまずいと思い声をかけた、殺気で本当に殺しそうな勢いだった


「「「「呼び捨て?」」」」

興味深々で聞き耳を立てている周り兵士達


「治癒魔法を」

魔法をかけようと患部に手をかざすと

「私にさせて下さい、疲れて居るのに魔法を使うのは良くない、中級治癒魔法まで使えますから」

優しくそっと手を握ってブライアン王子が私にやさしい笑顔を見せてくれた。


「「「あれは誰だ『銀色の死神』が笑った?」」」

兵士達は自分たちが見たことも無いブライアンの様子に数人はぽかんと口をあけている


「フレイア公爵、ブライアン、こんな所でいちゃつくんじゃない」

王があきれて二人のもとに歩み寄った。

「フレイヤ公爵改めてお詫びと、感謝を」

「ディランの数々の迷惑、暴言申し訳ない、改めてディランとの婚約は解消する」

「そして感謝を、ミシェリア.グラント男爵の指導と援助、国家を思う二人の令嬢に感謝を」

王は胸にこぶしを当てて王族最敬礼で私に感謝を述べてくださった。

「これで糞馬鹿王子の子守をしなくても良いかと思うと小躍りしたい気分ですわ」


「「「「!!!」」」」


「フレイヤ、心の声が外に出てるよ」

ブライアンに言われ、自分で自分の口を押さえ真っ赤になった・・・

王も周りの兵士たちもくすくすと笑い出した。


「しかしこの魔物討伐の再に渡されたこの魔法具すごいな、無傷で魔物無双が出来たぞ、半月掛かると思われていた魔物討伐が1週間で終わった」

「王陛下の大きい魔力があってこそ軌道するものです。他の者には使えません」

「兵士皆に渡した防御魔法が組み込まれた魔法具もすごい、こんなに沢山の魔法具を作れば魔力がいくらあっても足りないのではないか?」

「私の魔力はかなり多いですが、さすがに全て作り終わった後魔力切れで倒れました。でも今回の討伐に参加出来ないので精一杯助力させていただきました。そこの馬鹿のせいで私の予定が狂ったので何かむなしいですが・・・」

王や弟王子達、兵士に床に転がっている騎士達も苦笑いをしている

「しかしブライアンと他の兵士の魔法具の装飾が違いすぎるんだが・・・」

王の魔法具は篭手、手の甲の部分に大きな魔石が左右ひとつずつ組み込まれている、兵士達の魔法具は腕輪の形をしている、何の変哲も無い銀の輪にひとつ魔石が組み込まれた単純な腕輪だ

ブライアンのだけは金の装飾に宝石がちりばめられた豪華なものだった。

「せ、性能は同じです・・・」


「「「「ああ、そういううことか・・・」」」

改めて納得する兵士たちだった。


フレイアがブライアンの前で赤くなったり、やさしい顔になったり、美しい笑顔でブライアンを見つめる様子を見ていた、完全蚊帳の外のディラン王子

「どうゆう事だ!フレイア浮気していたのか!そんな顔見せた事ないじゃないか!」

自分の事を棚に上げて言うものである。

今まで冷たく文句ばかりでフレイアに優しくされたことがなかったディランはフレイアの美しい姿に驚愕していたのだ


「勘違いするな、元々ディラン、お前との婚約がかりそめのものだ」

王が冷たく突き放した

「ディラン、お前の事を厚生させるため、王族としての立ち居振る舞いを正すためフレイア公爵に指導をお願いしたのだ、婚約者という立場の方がどんなことも言いやすいと思ったから、ブライアン王子と恋仲なのは分かっていたが無理を言ってお願いしたのだ、こんな事件を起こしおって、フレイア公爵でも厚生出来ないお前は王族としての立場はもう無い」

ぐったりとうなだれたまま兵士達に連行され断罪の間を出ていった。




断罪の間の事件から数日後、ディラン王子は辺境の修道院に生涯幽閉が決まった。


王太子にはブライアン王子に決まりそうである。

私は、賢者の地位には変わりはないが、公爵家は弟が成人したら譲るつもりである、その後はブライアン王子と・・・


ミシェリア男爵令嬢の結婚式には出れなかったが、祝賀は1週間続いていたのでお祝いはその時に行い公爵家と男爵家との商談は滞り無く進める事が出来た



月明かりの美しい夜、

王宮の中庭の噴水のベンチに、フレイアとブライアン王子が仲睦まじく座って居る

「ダメ王子の件は終わりましたわね」

そうフレイヤが言うとじっとブライアン王子がフレイアを見て

「端から無理だと思っていたんだろう?」

ちょっとあきれたような悲しいような表情でブライアン王子は言った

「そうですね、狂気のフラグが消えなかったですし、ディラン王子には王族にある王気が全くありませんでしたらから、貴族の端くれでも少しはある王気、無いのはこの国の血が入って居ないとしか考えられません」

「・・・それって」

驚いてまじまじとフレイアを見つめるブライアン王子

「側室妃は、8ヵ月でディラン王子を産んでますわ、早産といわれてますが・・・

この事は王陛下に言うつもりはありません、要らぬ争いで国が乱れるのは嫌ですからね」

月を仰いでゆっくりとフライヤが言った

「ブライアン、これから国を豊かにし私達も幸せになりましょう」

「ああ、」

2人はそっと見つめあい、唇を重ねた。


『銀色の死神』と言われた強き王子と大賢者の妻の国は豊かで強い国になっていくだろうと誰もが思ったのだが・・・・。

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