第18話 VSグランドベヒモス

シタタンシタタンシタタン


変態が高速スキップをしていると、全身に黒いラバースーツを着こんだ女が横たわっていた。


プゥ~ベコン

プゥ~ベコン


女の口元はラバースーツにより息を吸おうとしても喉までゴムが入り込み、息を吐くとその部分が風船のように膨らむ。


その姿はまるで寝ているようだ。


ちなみにこの変態。男女の性差を気にしていない。

変態はゲイではない。

ただその人、いわゆる人間が好きなのだ。


変態はラバースーツの女を邪魔しないように近くへ立った。


興味を持ったのだ。


ただ待つのも暇なので、静かに変態的な創作ダンスを繰り広げる。


ターンと跳んで、音もなく降り立つ。

クルクルと回りながらも空間を操作して風と音を遮断する。


プゥ~ベコン、プゥ~ベコンする女の姿を見て、変態はアルカナフィールドの時に自身も感じた圧迫感を思い出し、頬を桜色にすると共に、女に妙な親近感を抱いた。


プゥ~ベコン

プゥ~ベコン


女はただプゥ~ベコンし続けている。


シュールだ。


(ム!)


その時、変態は微かな気配を感じた。


(ドンドンドンドン!)


地面を打ち鳴らしながら何者かがこの地へ突き進んでくる。


この女の気持ちが分かる。


変態はプゥ~ベコンが好きだった。何者かがここに来ることもこの女にとってはご褒美かも知れないが、変態が来ても無反応なところを見るとそうでも無さそうだ。


(トゥ!)


変態は女のプゥ~ベコン

を守るべく、何者かに向かって音もなく高速スキップを繰り広げた。


出来るのだ。

変態は音もなく移動が出来るのだ。

しかし、変態はスキップの足音も大好きだった。


変態も大人。

他人のご褒美の邪魔はしない。


---


「グルルルルル…」


山のような魔獣が涎を垂らしながら変態を威嚇している。


変態はボタボタ落ちる魔獣の涎(毒入り)を浴びながら魔獣を見上げていた。


「ちょうどシャワーでも浴びたかったところだ」


変態はそう言うと毒涎のシャワーを浴びながら、艶かしく身体を洗う。


「フンフフフ~ン♪初夜の準備がここでも出来るとはな…!」


変態はご機嫌で身体に涎を塗りたくる。ヌルッとした極上のローションのような涎はほのかに獣臭さを感じさせ、変態の中の野性を高めていく。


「ふぅ、さっぱりした」


変態はそう言って、直腸からスライムを取り出すと、まるでコロンのようにスライムの毒を振り付けた。


「これで良しと」


良くはない。


この魔獣はグランドベヒモス。

山のような体躯に強靭な耐久力と破壊的な攻撃力を持つ神話の中の存在だ。

本来ならば敵などは踏み潰して終わり。しかしグランドベヒモスは変態から醸し出される強者の覇気に動けずにいた。


「ふむ…強者の香りがするな…どれ」


変態はモリモリモリと直腸を現した。


カイゼル髭を付けた触手のような変態の直腸がユラユラと変態の前で揺れる。


「直腸ォ!」


変態が気合いを入れると直腸は矢のようにグランドベヒモスの肛門へ向かう。


「プギヒャラーッ!」

ブルン!

バイン!


そこでグランドベヒモスは動いた。

金縛りから解かれたように、己の身に危険を感じたグランドベヒモスは尾を振り回して直腸を弾く。


「ほぅ…」


変態の攻撃力は高い。

弾かれるなど余程の膂力がないと出来ないことだ。


「やるな魔獣よ!ならばこれはどうだ?」


シャキン!

ギュルギュルギュルギュル!


変態は直腸をドリルのように尖らせて回転させる。


「ブフォ…」

ブルッ


グランドベヒモスは全身の毛が逆立つという経験を産まれて初めてした。


この世界に生まれ落ちてから圧倒的強者のはずだったグランドベヒモス自分。しかし、真の強者の前では生まれたての赤子のような無力だ。


思えば過去に自分と対峙した者達も身震いをしていた。


今、過去に駆逐した者達の気持ちが分かる。


変態圧倒的強者の前に自分は為す術がない。その圧倒的絶望。


ポロリ


その時、グランドベヒモスは産まれて初めて涙を溢した。


己の肛門を凌辱される恐怖。


その涙は恐怖の滴となり、カランと音を立てて変態の前へ転がり落ちた。


「ム」


ギュウンギュウ…ン

ヒクヒクヒクヒク


変態の直腸はドリルを止め、カイゼル髭をヒクヒクさせながら転がった涙を分析した。


『グランドベヒモス・ティアー

呪いの眠りに陥ったラバースーツの女の目を醒ますアイテム。グランドベヒモスが真に恐怖した時に溢れ落ちる。グランドベヒモスはラバースーツの女のペットである。』


変態の脳内にPCウィンドウのように文字が現れた。


「ふぅむ…」


変態は腕組みをして考える。


この魔獣グランドベヒモスは女のペットであるという。そして女を目覚めさせるにはこのアイテムが必要…この魔獣グランドベヒモスは敵ではなかった。ただ主を守るべく馳せ参じただけであったのだ。


お互い、女を守ろうとしていたのだ。


「ガッ!」

ズシィン…


その時、グランドベヒモスは短く一声吠えると力無く地べたへ倒れた。


「ム!」

「おぉっと!そのお宝は俺ンだぜ?テメエは後ろに下がりな!?

ハードラックと踊っちまうゼ…!?」


グランドベヒモスの上に一人の男が立っていた。


---


ちなみにスライムの毒とグランドベヒモスの毒はこれまでの様々な戦いで得た物質も合わさり、化学反応を起こして“魔毒”へと進化を遂げた。


“魔毒”

超古代文明に於いてその存在は確認されたが解明されていない毒。


近付くだけで弱体化デバフされ、徐々に体力を消耗していく。


普通の成人男性が、沖縄と北海道くらい変態との距離が離れていても影響を及ぼす。


それはつまり変態が厄災化した証だった。


地上に現れるだけで国ひとつを弱体化に陥れる程の魔毒を変態は手に入れていた。

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