第2話 VSブルードラゴン

「 おに~のパンツはいい~パンツ~、つよいぞ~、つよいぞ~ 」


 アドスと変態鬼パンツマンは真っ白な雪と氷に覆われ、ところどころ岩場の出た白銀の山を弾むようにスキップをして登っていた。変態は更に腰の捻りをくわえ、素早く尻を振りながらその反動を膂力に乗せる。


 熱を生じさせる為だ。


 マイナス60℃にも達する極寒の山を卑猥なパンツ一丁で変態は登っている。


 高速で振られる尻は速すぎて逆にゆっくり見える程だった。


「さっきの野盗な、俺ならあと0.01秒早く殺れるわ」


 アドスはそう言いながら腰に手を当てて傾斜の岩場を飛び越えていく。


「む…!」


 変態鬼パンツマンは少しムッとしながら腰を更に激しく振り、勢いを付けて登りだした。


「フ…変態め…」


 アドスはそう言うとスキップの速度を高めた。


 スキップは万能だ。


 見た目の軽やかさで分かると思うが、この世界で最も早く動く為の動作が集約されている。


 ここは龍霊山。

 2万メートル級の尾根を連ねる世界最高峰の山々の頂点に位置する。


 空には青白銀の竜達が悠々と飛んでいる。ここはブルードラゴンの巣窟でもある。 


 通常、人間はこの地に降り立つことはあり得ない。山の麓で寒冷魔物達の餌食になってしまうからだ。また更に昇れば昇る程、食物連鎖の頂点へと近付いていく。


 しかしブルードラゴン達は襲わない。ドラゴンは高い知能を持ち、悠久の時を生きているこの世界の達観者達でもある。


 独自の世界観を持ち、自然に生きることを旨としている。よって彼等は奪わない。ただ自らの縄張りを守るだけだ。


 通常は見付かり次第捕食される。しかし彼等は変態と勇者に手を出してこなかった。


 なぜか?


 彼等は知っているのだ。


 その高い知能ゆえ、自分達の方が捕食される側であることを。


 ただその中で一匹、一際大きく勇猛な若いブルードラゴンが苦虫を潰したような顔をしながら二人の頭上を旋回し続けていた。


 ここは我々の山なのだと不審者を駆逐すべく警戒を怠らない。


 軽妙なスキップで頂きを目指す二人の一人はほぼ全裸であり、見るからに不審、いや変態だ。


 若いブルードラゴンの思惑が伝わっているのか、変態は時折視線を投げ掛けると軽く頬を桜色に染めている。


 変態だ。


 若いブルードラゴンの鱗がゾワゾワと逆立つ程身震いをする。


 分かっていた。

 この変態が強者であることを。


 しかし若いブルードラゴンは許せなかった。


 この地で頂点に君臨する自分が身震いをすることなど。


 自らを守る為には、

 駆逐するしかない!


 ビュオッ…!


 そう覚悟を決めたブルードラゴンは大きく息を吸い込んだ。


 ブレスだ。


 極寒のブレスは生きとし生ける物全てを氷骸に変える。


 ブハアアァァァーッッッ!


 辺りの雪氷を巻き込みながら広範囲にブレスは二人を直撃した。


 後はカチカチに凍った物質を破壊するだけだ。


 !!


 若いブルードラゴンは目を見張った。


 二人は何てことなくスタン!スタン!とスキップで軽快に昇り続けている。


「ちょっと寒かったな、どれ…」と変態はクィッ、クィッと剥き出しの尻をほんの少しパンツで覆った。


「ひゃくね~んたってもやぶけない~、つよいぞ~、つよいぞ~♪」


 変態だ!


 若いブルードラゴンがそう感じると、また変態は遠目からこちらをチラリと見てサッと目を逸らした。


 なぜ照れている!!


 ブルードラゴンの脳内では警鐘が鳴り響いていた。


 やばい。

 変態はやばい。


 しかし若いブルードラゴンは自らを奮い起たせた。


「ウオォォォオンッッ!!」


 鼓舞するように若いブルードラゴンは咆哮をあげ、その巨体がまるで矢のように変態へ突き進む。


 自分は強い。

 このような矮小な生物に負ける要素など無い!


 そういきり立ち、後ろ足から鋭い爪を変態に目掛けて振りかざしていく。


 ペロリ…


 その瞬間、若いブルードラゴンは見た。


 変態が唇を舌舐めずりした姿を。


 ゾクリ!と悪寒が背筋を走る。しかし若いブルードラゴンはそれを怒りに変えた。


 自分より強いものなど在りはしないのだ!


「ヂギャアアアァァァッッ!!」


 大地を揺るがせ、雪崩を起こすほどの咆哮。


「遅い」


ガシィッ!

ドォンッ!


 変態は振りかざしてきた若いブルードラゴンの両足の鋭い爪の部分を腕で掴む。その衝撃で変態の背後に大きな窪みが出来た。


「直腸ォッ!」


 変態がそう叫ぶと、パンツのお尻が大便を漏らしたかのようにモリモリと膨れ上がっていった。極小のブーメランパンツの隙間からピンク色の触手が一直線に漏れだしていく。


ビュルッ!


 禍々しく巨根なソレは、素早く若いブルードラゴンの肛門を目指していった。


!!


 若いブルードラゴンは戦慄したがもう遅い。


ズヌゥッ!


 変態の肛門からせり出した直腸は若いブルードラゴンの肛門へ突き刺さり飲み込まれていく。


「カ…カハ…!」


 ドクンドクン


 触手のような変態の直腸が脈打ち、みるみるうちに若いブルードラゴンは萎れていった。


「ふぅー!やはり生き餌は踊り食いに限るな!」


ズルッ!シュルシュルシュル、スパン!


 触手のような直腸が滑るように変態のパンツへ収まっていく。


ズスン…


若いブルードラゴンは萎れ、力なくその場で崩れ去った。弱々しい吐息を洩らし、息も絶え絶えである。


「よし!勇敢なおまえを『ペニス』と名付け、ペットにしてやろう!」


 ペニスと名付けられた萎れた若いブルードラゴンの目に『絶望』の二文字が刻み込まれる。


 ガタガタと身体は震えて小便を漏らし泣いた。


「ゥォォォ…」


 ブルードラゴンは長い首を力なく上げて小さくいなないた。せめてもの拒否を示したつもりだった。


「よーしよーし、おまえも嬉しいか」


 違う。

   

 ズシーン…


 若く勇敢なブルードラゴンは変態に屈した。心も身体も蹂躙され、もはや生きる余力もあと僅かとなった。


「おーい!変態!置いてくぞー!」


 事無げに先へ行ったアドスが変態に声を掛ける。


「あ!待ってくれよ~!あとそんなに誉めるなよ~」   

 

 変態は嬉しそうにアドスを追い掛けた。


「おに~のパンツはいい~パンツ~、つよいぞ~、つよいぞ~♪」


 軽やかなスキップで変態は後を追う。


 古い竜達は知っていた。


 『触らぬ神に祟りなし』という言葉を。


 一匹の古竜が若いブルードラゴンの傍に降り立ちヒーリングを掛けた。


 まばゆい光が若いブルードラゴンを包み込む。


 しかし若いブルードラゴンの心は砕けていた。


 もう二度と変態には近付かない。


 心にそう刻み込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る