第16話 朝比奈とミチル 2

「笑って?」

ミチルの部屋のドア越しに朝比奈の声が聞こえる。俺は、その部屋のドアを少し開けた。ミチルは、ぎこちない笑顔を見せている。そんなミチルでも朝比奈は撮り続けていた。

「次は、制服姿を見たいな」

朝比奈にとって何気ない一言だったかもしれないが、ミチルはひどく動揺している。まあ、無理もない。なにせ、男装しているなど人前で言えるわけないだろう。俺もミチルと同じ立場ならきっとそうする。そのときは、男装ではなく女装になるが。

「どうしたの?」

朝比奈は、ミチルの動揺に気づいたのか、声をかけてきた。

「あの、ごめんなさい。私、実は……l

「大丈夫だよ。後ろ向いているから」

朝比奈は何を勘違いしている。変な勘違いだったら、部屋を追い出してやる。

「違くて、その……」

「それか、クローゼットの中に着替えてもらうって……」

朝比奈は、いきなりクローゼットの中を開ける。ミチルのプライバシーの侵害だ。

ミチルは、止めようと動いていたが、その手は遅かった。知られてしまったのだ。ミチルの秘密が。

「君って……」

朝比奈は絶句していた。ミチルも勇気が出ないのか、声が出ていない。しばしの沈黙。

「私、学校では男装しているんです」

ミチルは、男装のことを白状した。バツが悪そうに。朝比奈はどう受け止めるのか。

「いいね。最高じゃん、一回着て見せてよ」

朝比奈は、ばかにするのではなく、むしろ歓迎しているかのように俺は見えた。

「えっ……はい」

ミチルの顔が、俺と接している時のように明るくなる。朝比奈に心を開いたのだろうか。どこか腹がたつ。

「あの、後ろ向いてもらってもいいですか」

朝比奈は目をつぶり後ろを向き始めた。


ミチルは、今だけ女としての気持ちを捨てるようだ。どこか意気込んでいるように見える。俺は、目をつぶることなく凝視する。俺は、変態か。


始めに、上の服を脱いでいく。上半身裸になったのをクローゼットの中からいつものを取り出し、巻きつけている。その上からタンクトップ。シャツにブレザー。


少しの間だったが、横からでもミチルの生乳が見えて抑えがききそうにない。まるで官能小説かなにかを読んでいるように。いつ鼻血を出してもおかしくない。


次は、下半身にいくようだ。ミチルは、ショーツまでは脱がなかったが、その上から男物のパンツを履いている。そしてスラックス。これでミチルの男装姿が完成した。


あのとき、俺のパンツでも履いて欲しかったと思っている自分がいる。もう一度言おう。俺は、変態なのか。それともこれが、本当の俺か。


「着替え終わりました」

数分前とは違い、低い声。ミチルが俺という時の声だ。

「おー。声もすぐに変わるんだ」

朝比奈は、またカメラを持ち夢中で撮り続ける。ミチルは、始めの頃とは違い笑顔だ。いつも俺が独占している顔。


「ミチルちゃんは、どうして男装するようになったの?」

朝比奈は構えは変わらず、ミチルに聞いている。

「それは、美玲ばっかりちやほやされて嫌だったんです。なにも取り柄もない俺がたどり着いた先が男になることでした」

ミチルは、涙声になっていた。俺にとって久しぶりに見る美玲の涙。きっと二年間耐え続けていたのだろう。俺は、一度だけ美玲を俺専用サキュバスと思ってことがあった。それがミチルにとっての苦しみだったのかもしれない。どうして俺は、そんなミチルに気づいてあげられなかったのだろう。欲望にまみれて、歯止めの効かない俺が憎い。

「大丈夫だよ」

朝比奈は、ミチルの体を抱き寄せる。まるで恋人のように。ミチルは、抑えられなくなったのか朝比奈に抱きしめられながら、大量の涙を流し続けていた。

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