第13話 Ⅱ 行動
桃色のドレスをきた少女が私に何かを懇願している。声が聞こえない。私から反応もできない。ただ見ているだけ。もどかしいけれどレイウスが言っていたローズラルと容姿が酷似している。
「何をボサっとしているんだい!?」
背後からのおばちゃん兵士の声に我に返る。
大きな鍋の前で私は煮込まれている食材を混ぜていた。
「ったく、一晩分は働いてもらうからね!」
おばちゃん兵士は大量の鉈のような包丁を片手に大量の野菜を切りに戻る。
私たちは深緑色のテントに近づくと、人間でグランイグバード王国で旅をしていることを伝え今晩だけでも世話に慣れないか申し出た。
屈強な男二人だけなら怪しまれただろうが、女の私がいたため一晩だけ、そして軍の手伝いをすることを条件にテントに入ることを許された。
兵士たちはバタバタとしていてとても忙しそうに走り回っていた。
そこで私たちはグレーフルー国軍の作戦を知る。
兵士たちも領地の中心を囲う茨には手を焼いていた。そのため、西側と南側から地面に穴を掘って侵入する作戦を立てていた。
西側がメインで侵入し、南側が奇襲として侵入する予定だそうだ。
しかし、西側のトンネルが貫通する直前だと言うのに南側はまだ時間と人手がかかる。
そこで旅人として現れた私たちを利用することにした、らしい。
軍の上が決めた作戦決行日は明日の夜更け。この作戦後、私たちは解放される。
早々にルネサスとシルヴァは地下に連れて行かれ、力になれない私は後方支援として兵士たちの食事作りを手伝わされている。
おばちゃん兵士に指示された通り、鍋をかき混ぜているとテントの隙間から黒アゲハが飛んできた。
私は眼帯をずらすと冒頭のような情景を見た。
数時間後、具だくさんの煮びたしが出来るとおばちゃん兵士は私に真っ先に味見をするように言った。
私が毒を入れていないかの確認だろう。良くわからないスパイスが使われていて不思議な味がしたが美味しかったので完食するとおばちゃん兵士は「よくできた!」と私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
人の温かさに久しぶりに触れた気がして、敵兵である、という立場もあって複雑な思いになった。斗紀なら、この気持ちをうまく言葉にしてくれるだろうか。
ぐったりとしつつも他の兵士たちと談笑するほど親しくなっている二人によそった食事を渡しに行く。
同じ苦労をした者同士、親近感を抱きやすいのは本当かもしれない。
二人も無事な私の姿を見ると安心したような目をした。
微笑みを返しながらもどう言葉を伝えようか迷っていると何故かシルヴァにニコッとされた。
何か意思表示を感じた私は二人にとって不自然なほど思いっきり笑顔を作ると早々に宛がわれたテントに入り、そのままこっそり一人でグレーフルー国軍の拠点を後にする。
明かりが無くても右目で見える黒アゲハが私を導いてくれた。
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