第6話 Ⅰ 単発

 ドサっと、壁際に放り投げられる。


 一瞬息が詰まり咳き込む。右目には砂が入り開けられずにいる。


 辺りを見渡すとレンガの建造物だったであろう壁だけがいくつか残って密集している場所だ。


 地面は相変わらず乾いた砂の大地。天井は無い。いくつかテントが張られている。小さな拠点のようだ。


「見てくれから判断できねぇから連れてきちまったが……」


 男性は壁に寄りかかったままの私に目線を合わせるように膝をつくとサバイバルナイフを首筋にあてた。


 ヒンヤリとした感触で身体が固くなる。


「夜になったらどこにでも逃げな。ここの奴らは余計な事をしなければ嬢ちゃんに手は出さねえよ」


 スッとナイフをしまうと男はテントに向かっていこうとした。


「待って、ここがどこか教えて。どうやったら帰れるのかわからない」


 服の裾を掴み訴える。


「ここはグランイグバード国の南方端。人間どもとの前線区域だ。せっかく助けたんだ。生きて帰れよ」


 バンダナをした男性は先ほどのサバイバルナイフを私の足元に落とすと手を振り払い行ってしまった。


 グランイグバード……地理は最高に苦手だけど、ニュースで聞いたことが無い国名。戦争を行っているならニュースになっていてもおかしくないのに。


 サバイバルナイフと手に取る。思ったよりずっしりとしている。


 赤さび……ではないだろう、乾いた血だ。


 先ほどの死体が脳裏をかすめる。ここは本当に殺し合いが行われている戦場……。


 斗紀……!


 一緒にいた親友を思い出すも視界が悪くて周りを見る余裕はなかった。


 もし、あそこにいるなら……。


 サバイバルナイフの柄をギュッと握ると意を決して


 元来た道を駆けだした。




 この地域はいたる所で砂が巻き上げられている。それとは別に砲撃されているかのように何かの爆発で砂が巻き上げられることもある。


 さまよいながらもなんとか最初の場所まで戻ることができた。日は暮れようとしていた。


 舞い上がっていた砂は大半が地面に落ち着いていた。改めて見ると死体がいくつもあった。


 私が躓いたような暗い色のローブを着た人、暗い色の軍服を着た人、黄土色の軍服を着た人……。


 暗い色と黄土色が争っているようだった。


 辺りに誰かいる様子もなく、何度か斗紀の名前を呼んでいる。


 返事もないし、斗紀のような死体もない。もしかしたら斗紀も私と同じように助けられた……?


「人探しか?ガキ」


 不意に男性の声がした。夕日を背に振り向くと馬に乗った黄土色の軍服を着たオジサンがいた。


 黒い皮のような素材の眼帯が印象的だ。


「ここらに生きてる奴はいないぞ。俺が殺してまわってたからな」


 そういう男性の片手には馬の上からでも地面に届く長い剣が握られていた。


「私と、似た格好をした子を……探している」


 下手したら殺される。そう思うと声がかすれた。


「いいや。第一そんなヤってくれと言っているような服を着た女が居たら他の兵士が襲っているだろうなぁ」


 斗紀が近くにいたなら斗紀だけを連れ去ることなんてない。


 なら、ここでは死んでいない。


「ありがと。私も殺すの?」


 男性は豪快に笑った。


「テメェみたいなガキを殺しても、なぁ?用が済んだらとっとと行け」


 舐められている、少しイラっとしたけれど大人しく立ち去ることにした。

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