平原の風

みんなの踊りを見るのは楽しかったし、できれば仲良くなりたいと思ったが、わたしが会話に参加することはほとんどなかった。

練習も佳境に入って、わたしの相手をしている場合でなくなったのだろう。

「本場のステージ、見てみたかったな」

そうは思ったが、ここらが潮時だろう。

結局飛ぶことはできないまま、わたしは練習スタジオを離れることにした。

当初の予定通り、としょかんへと足を向ける。


平原を渡る風が、わたしの髪と羽を撫でる。

ここは気持ちのいい風が吹き抜けるへいげん。

へいげんを抜けたしんりんに、としょかんはあるとあう。

浮き立つ心を、道に立ちはだかる2人の影が冷ました。武器を構え、こちらに向けていたからだ。

誰何される前に、先手を打つべきだった。

すぐさま身を隠し、気配を消したまま陰伝いに右手へ移動。2人がこちらに気付いた様子はない。

このまま大きく迂回するか。そう考えた時、突然地響きとともに、大きな方が走ってきた。まるで重戦車だ。

「サイサイサイサイ!お待ちなサーイ!」

「わあっ!」

わたしは、咄嗟に飛んだ。

危なかった。あんなのに体当たりされたら、ただでは済まない。

「降りてきなサーイ!ここは通しませんことよー!」

そう言われても、わたしだって怪我はしたくない。

「ん?」

降りる?飛ぶ?

目の前に広がる風景は、見たこともないものだった。

地平線の向こうまで世界は広がり、眼下には小さくなった重戦車さんと、今まさに透明から姿を現した緑色のフレンズがいる。

「そうか、透明になってわたしの背後にでもいたんだ。そしてわたしの位置を教えていたのか」

すごい能力だ。思えばフレンズたちはみな、目覚ましい能力を持っていた。わたしだってこうして、飛んでいるではないか。

あんなに飛ぼうとしてできなかったのに、こんなにあっさりと飛べてしまうなんて、なんだか拍子抜けだ。

わたしは、重戦車さんの隣に舞い降りた。また走ってきても、飛んで避ける自信が、もうあったから。

「あなたは鳥のフレンズなのね。どこから来たの?返答によっては…」

わたしは答えない。答えられない。

どこから来たのか。もう覚えていない。かつては覚えていた気もする。けれども、そんなことはどうだっていい気もする。

「答えなサーイ!」

掴みかかろうとする重戦車さんをひらりとかわし、背後に降り立つ。

重戦車さんの鎧の背中に、一羽の大きな鳥が映った。

今まで何度も、なんども見た姿。

それがわたしだった。

「あなたは誰ですか!名乗りなサーイ!」

「わたしは、わたしは!ハシビロコウ!」

そうだ、それがわたしの名前だ。

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