エピローグ 王の帰還?~ハーレム王はもう帰りたい~

新たな訪問者達~また日常が壊れる音がした~

 あの悪夢の夜の事は思い出したくない。

 取り敢えず身体的物理的な貞操は守れた。

 その代わり僕の心がズタボロになった。

 以上だそれで勘弁してくれ。


 さて、GWが終わって3日目の5月9日木曜日放課後。

 雅がちょっと遅れてくるというので僕と佳奈美でお茶用意をしている。

 例によって大型の三角フラスコでだ。

 このフラスコ内のお湯がコポコポ沸騰する音ももう心地よく感じる。

 我ながら色々慣れてしまったなと思うがしょうがない。

 ちなみに部屋内にいるのは4人。

 雅がまだ来ていないのにだ。

 まあ1人増えたのは誰か、想像はつくだろう。

 小暮先生だ。

 職員室の作業環境をそのままこっちに持ってきてしまった。


 もともとこの部屋は小暮先生の管理下にある。

 部屋を持っている先生は職員室ではなく自分の部屋で作業する事も珍しくない。

 ただついこの前まで職員室で作業していたのに。

 そう思うとちょっと何か感じなくもない。

 部屋レイアウト改造を手伝わされた方としては色々言いたくもなるのだ。

 実際は誰も文句を言えないのだけれども。

 そして先生は何をしているかというと……

「なかなかいい中古テントの出物は無いですねえ。山岳用の大きいので、できれば4シーズン対応型が欲しいのですけれど。個人的にはエ●パースのジャンボがあればベストなんですけれどね」

 ご自分のパソコンで中古品のウィンドウショッピング中。

 これでは家に装備が増えるのも当たり前だな。

 まあそれはともかく。


「紅茶、入りましたですよ」

 と佳奈美が今いる面子に紅茶を配る。

「ありがとう。それで次の探検目標は決まったか?」

 これは勿論神流先輩だ。

「取り敢えずは南西に延びる方の地下道の探査ですね。何処もその先を公開していませんから。雅が戦力になるし、大丈夫ではないかと思います」

 僕はそう答えておく。

「まあ妥当な線だな。存分にやるがいい」


 そこでちょっと僕が気になった事を質問してみる。

「参考までに聞きますが、あそこの地下道がコンクリでないのも先輩の仕業じゃ無いですよね」

「黙秘権を行使すると言いたいところだがな。実際あれは私の仕業じゃない」

「先輩と同じように誰か壊した人がいる可能性はあるんですね」

「可能性は否定しないさ。無限の可能性の中から調査で真実を探すのが探検だ」

 まあ、雅がいない事を除いては平常運転だ。

「うーん、やっぱり主流は4~5人用テントの複数運用ですよね。それはわかっているんです。でもテン場で集会にはやっぱり小さいんですよ。1パーティ全員が入れる大きさが欲しいんです」

 先生が画面に向かって独り言。

 先生こっちも含めて平常運転だ。


 トントン。

 理化学実験準備室の扉がノックされる。

「入ってます」

 先輩、それはもういいから。

「どうぞ」

 先生の真っ当な返事で扉が開く。

 扉の向こうには雅と、もう1人女子がいた。

「入会希望者、1人連れてきました」

 えっ!

 雅の後にいる大人しそうな長めのおかっぱの女子には見覚えがある。

 名前は忘れたが僕と同じB組の生徒だ。


「1年B組の坂口朋美と申します。宜しくお願いします」

 続いて先輩が自己紹介。

「私は部長の神流律化。まあ雅に聞いているかもしれないけれどちょい特殊な能力持ちだ。まあ簡単に言うと魔女なんだけどな。どうぞ宜しく」

「私は松戸佳奈美、1年A組なのですよ。どうぞ宜しくお願いするのです」

 次は僕か。

「同じB組の柏朗人。宜しく」

 そんな訳で取り敢えず朋美さんは雅と佳奈美の間に座って貰う。

 ビーカーで紅茶を飲みながら今日までの活動を説明。

 あ、その前に念の為注意しておこう。

「そのクエン酸はレモン代わりだけれどさ。耳かき1杯分でもかなり味が変わるから。入れすぎないようにした方がいいよ」

「大丈夫、朗人ではないのです」

 あっさり佳奈美にそう返される。

 まあいいけれど。


「さて、それでは今日までの活動の説明なのですよ」

 佳奈美がそう言ったところで。

 プリンタが微妙な振動音を放ちながら紙を3枚出力した。

「ほれ。学内と地下道の地図。あと今までの行程記録だ」

 見ると今までの探検の開始・終了時刻から何か目標を通った時の時間、化け物と出会った時間まで記載されている。

 きっと雅の記録したノートを写して入力したのだろう。

 相変わらず先輩も微妙にマメで親切だ。

 でも新人にいきなり化け物遭遇とかそんな話をしてもいいのだろうか。

 ただそれを口に出すとそれはそれで意味がない。


 うーん、ちょっと悩んだところで。

 佳奈美が僕の方を振り返って言った。

「大丈夫、何も問題無いのですよ。きっと坂口さんは雅にひととおり聞いて、それでここに来たのだと思うのです」

「私の事も名前で呼んで下さい。朋美、で」

「それではよろしくなのですよ、朋美さん」

 と和やかな雰囲気になったところで。


 ドンドン、ドンドン。

 微妙に荒い感じで理化学実験準備室の扉がノックされた。

「どうぞ」

 先輩がそう返事する。

 入ってますというのはやめた模様だ。


 扉が微妙に荒く開かれる。

 そこにいるのは小柄な少女だった。

 佳奈美ほど小柄ではないけれどやっぱり幼児体型。

 髪はツインテールにまとめている。

「やっぱりここだったのね、佳奈美。やっと居場所を発見したわよ」

 その言葉に何故か佳奈美がひくっ、と体を震わせる。

「知り合い」

 こっそり聞いてみた。

「気のせいなのです」

 佳奈美、微妙に弱気な口調でそう弁解。


「ここは学内探検部ね。私は1年A組、流山美菜実ながれやまみなみ。ここに入会を希望します」

「個人的には却下したいのです」

 あれ、佳奈美がそんな事を。

 しかも声がやっぱり弱気な感じだ。

「まあ待て、面白そうじゃないか」

 そして神流先輩はその言葉通り顔がにやついている。

「折角だから中で話をゆっくり聞こうぜ」


 そういう訳で、空いている僕と神流先輩の間の席に彼女を通す。

 彼女は席について改めて回りを見回した。

「なかなかいい部屋ね、ここ。装備も材料も色々揃っているし」

「そう言ってくれると嬉しいですわ。これでも色々整備したんですよ」

 取り敢えず一昨日整備したのは僕達です、先生。

「ネットも有線で高速な感じだし薬品も揃っている。いかにも佳奈美が好みそうな部屋ね」

 よくわかっていらっしゃる。

 何物なのだろう、この人は。

 A組の生徒で有る事は間違いないのだけれど。


「さて、色々入会の動機を聞いてみよう。まあ佳奈美のせいだろうけれどな」

「その通りよ」

 流山美菜実さん、美菜実さんでいいかな、は頷く。

「折角それっぽい高校に入って、そして佳奈美を見つけて。やっと同類を見つけたと思ったのに教室ではしれーっと猫を被っている。だから佳奈美が本性を出すのはどこでだろうと色々調べていたのよ。

 でも佳奈美はいつも放課後さっと消えてしまう。授業が終わった次の瞬間には姿が見えないような状況よ。それはまあ、佳奈美の席が教室の廊下側一番後で私の席が窓側中央。おかげで脱出速度が違いすぎるのが原因だけれども。

 だから今日の7限、出席の返事だけして腹痛の振りして抜け出して、廊下で見張っていた訳よ。それで佳奈美がこの部屋に入るのを確認して、この部屋が何に使われているのか部員は誰がいるのか調べて、それで乗り込んだ訳」


 おーっ!

 神流先輩がそんな歓声をあげて拍手する。

「それは立派な探検調査行為だな。それだけでここの部員の資格は十分だ」

「方法としては少し言いたい事もありますけれどね。その熱意は認めてもいいと思いますわ」

 こら先生、授業を抜け出る事を認めるんじゃない。


「だいたい何故私が流山さんの同類なのですか」

 当然だろうという顔をして美菜実さんは口を開く。

「そんなもの普段の行動を見ればバレバレだ。

 ドラマの話題とか普通に付き合った後でこっそり見せるつまらなそうな顔とか。

 授業中教科書の興味のあるところだけを先取りして読んでいて、その癖質問された時は板書と回りの人の教科書のページから回答を予測して答える頭の良さとか。

 あと物理でこの隣の実験室を使ったときのスライスダック等実験用器具への物欲しげな視線とか。まだ証言が必要か?」


「皆さんストーカーがここにいるのです。おまわりさんこちらなのです」

「甘いな。いにしての人曰く、嫌よ嫌よも好きのうち……」

 僕には確かによーくわかった。

 こいつは自称の通り佳奈美と同類で変人だ。

 間違いない。


「それにこの部屋、佳奈美以外にも色々揃いすぎだろう。特殊技能者というべきか。かんなぎに魔女に錬金術師に超能力者か。そこの彼だけは一般人のようだが」

 超能力者というのがわからない。

 そして僕以外が一般人で無いという事は……

「はい、私が超能力者です。簡単なサイコキネシスが使えます」

 朋美さん、場の雰囲気に負けて自供してしまった。

 あああ、何という事だ。

 何がどうなってどうしたんだ。

 何か日常が壊れる音が聞こえたような気がする。

 僕の気のせいであって欲しいけれど。


「さて、理由をしっかり聞いたところで採決だ。

 まずは朋美さんの入会、賛成の人は手を挙げろ」

 神流先輩の声に本人以外の全員が手を挙げる。

 この全員には神流先輩と先生、そして何故か美菜実さんまでを含む。


「よし、全員一致だな。

 それでは次、美菜実さんさんの入会、これも賛成の人は手を挙げろ」

 これは本当の意味で全員が手を挙げている。

 ただし佳奈美はいやいやながら、という感じが見え見えだ。


「個人的には非常に認めたくないのです。でも戦力になる事は確かなのです。そして拒否する理由も残念ながら無いのです」

「よし、新入部員2人を歓迎しよう。という訳で明日はお馴染み装備買い出しとレストランで会食。土曜日は地下道探検だ!」

 神流先輩がそう宣言する。

 すると更に先生が追加。

「明日は金曜で当然その次は土曜日ですね。でしたら合宿代わりに私の家で装備の講習をやりましょうか。金曜日がレストランならその他日曜朝まではまた皆で自炊で」

 ええ、何ですと!

 でも他の皆様方の反応は……


「いいですね。GWは楽しかったですし」

「私も賛成なのですよ」

「いいんじゃないか」

「でも先生のお宅にお邪魔なのでは」

「私の家は一戸建てで部屋が余っていますし、一人暮らしですから大丈夫ですよ」

「ははははは、我が辞書に撤退の文字は無い」

「それは探検部として困るのです」

 うん、つまり皆賛成という事だ。

 まあ何となくわかっていたけれど。

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