今日も合宿予定

「さて諸君、この地下も当然、探検の対象だよな」

「勿論なのです」

 真っ先に佳奈美が賛成する。

「でも何か出てきたら危ないんじゃ無いかなと」

「今の存在ほど大物で無ければ大丈夫だろう。違うか雅」

 雅は頷く。

「ええ。最悪でもこの大麻があればほぼ大丈夫です」

 ちなみに大麻はもう入れ物に入れ、ザックの横に仕舞ってある。

 汚れると効力が落ちるからだそうだ。

「そんな訳だ。外で地下道装備に着替えて下へ突入。運が良ければ学校に通じている筈だ。ここも学校の施設だしな」


 そういう事で一度外に出て地下道装備になる。

 雨具を着込むとなかなか暑い。

「雨具と長靴はやっぱり着た方がいいですか」

「手彫り部分の地下を通ると泥だらけになりそうだからな。着た方がいいだろう」

 という事でフル装備に着込んむ。

 ランタン1個は先輩が持ち、もう1個は仕舞って僕のディパックに収納。

 そして僕らは歩き始める。

 まずは鍵を抜いて、扉を中から閉めて、念の為鍵が開くのを確認してから階段へ。

 どこかで見たようならせん階段が延々と続いていた。

「何か間違いなく既視感を憶えるな」


「この部分の設計はきっと時計塔と同じなのですよ。

「朗人、測定値は」

「1.0のままです。念の為警報を入れてあります」

 そんな感じで延々と階段を降り続ける。

 めまいがするような感じがした頃、ようやく階段は終わりを迎えた。

 その時だ。

 ビーッ、ビーッ。

 測定器から警報音が鳴り響く。


「現在0.9、下がってきています」

「おいでなすったな」

 先輩はそう言って雅と位置を変わった。

「遠慮無く頼む」

「わかりました。それでは」

 雅は大麻を出す事も無く、両手で何やら妙な形を作る。

「オンサラバハンバダカノウダザラヤ、ソワカ」

 何か奇妙な呪文を唱えた。

 ふっと何かの気配が消え去る。

 僕は測定器を確認。

「測定器、1.0に戻っています」


「今のはどう考えても神道とは違うのですよ」

 佳奈美が無駄に豊富な知識で雅に突っ込みを入れる。

「効力があるものは気にせず必要に応じて使う。それが今の神道なり仏道ですわ」

 さらっと雅はそう誤魔化した。


 ◇◇◇


 そんな訳でどう考えても神道系の筈の雅に密教系の真言を唱えさせる事3回。

 僕らは微妙に見覚えのある扉に辿り着いた。

 扉というよりは点検口という感じだろうか。

「順当に行けばこれで学内だな。朗人、数値は大丈夫か」

「測定器は1.0です」

 神流先輩は一度ランタンを下に置いて点検口を開ける。

 その先には見覚えのあるコンクリート製の地下道が確認出来た。

 前に化け物退治をワンゲルがやった場所だ。


 先輩はランタンを持って点検口を超える。

「面倒だから近くの出口から脱出するぞ」

「了解なのです」

 相変わらず佳奈美が一番返事が早い。

 でも実際、僕もそれに賛成だった。

 きっと雅もそうだろう。


 そんな訳で。

 大学部の人文教育棟西側。通称HB出口から僕らは地下道を抜け出る。

 先輩の言う通り、確かに地下道の非コンクリ区間は結構色々と汚れた。

 雨具長靴ヘルメットまとめてゴミ用大型ビニル袋に入れてディパックへ。

 そして階段を登って出口を出て、外へ。

「午前11時35分、探検終了ですね」

 そう言って雅がいつものメモ帳にメモした。


「さて皆の衆、これからどうしようか。取り敢えず飯でも食って、そして長靴や雨具についた泥を洗いたい処なのだが」

 先輩がそういったところで。

「メールだよ、メールだよ、メールだよ、メールだよ……」

 微妙なメール着信音が鳴り響いた。

 先輩が内容を確認。

 そしてにやりと笑う。

「先生からだ。そろそろ回収依頼のメールが来ないか待っています。お腹も空きました。装備の取り込みもあります。だと」

 おいおいおいおいおい。


「それって食事作って、装備取り込めという事ですか」

「ちょうどいいじゃないか。あそこなら風呂で雨具や長靴の泥を落とせるし」

 おい先輩ちょっと待った!

「着替えて、更に着替えを用意してくればいいのですね」

「確かにそうですね。雨具や長靴を洗って乾かせますし」

 何か2人は完全に賛成モードになっている。

「よし決定だ!準備もあるだろうからこれから30分後。着替えて着替えも持って寮の前に集合。ネグリジェとか必要な奴はそれも用意しておけよ」

 おいおい先輩。


「寝るときに身に纏うのはシャ●ルのNo.5だけ、そんな場合はどうするればいいのですか」

 おいおいおい佳奈美何だそりゃ。

「そりゃ香水を持ってくるに決まっているだろう」

「マリリン・モンローですね」

 本当にそんな事するなよ、お前ら。


 ◇◇◇


 服を着替える。

 寝間着代わりの昔のジャージと明日の着替えをディパックに入れる。。

 更に余分だけれど吟味した荷物も追加し寮の前の道路へと急行。

 女性陣4人は既に来ていた。

 相変わらず準備が早い。

 普通は女子の方が準備に時間がかかると言われているのだけれど。

 まあ僕が遅れたのは余分な荷物を持っているせいもある。

「遅いぞ、朗人」

「でもまだ時間前でしょう」

「あれを見ろ」

 お馴染みの箱形な車が角を曲がってくるのが見えた。

 まだ時間まで10分あるのに。

「皆早すぎますよ」

「多分先生、飢えているぞ」

 それは神流先輩の仰るとおりだと思います。


 そんな訳で小暮先生の愛車、乗車。

「皆さんはお昼御飯、食べました」

「まだです」

「ならスーパー行きますね」

 とりあえず飯を作れという事が確定だ。

「探検の方はどうでした」

「今回は上手く行きました。それで無事学校にも戻って来れて」

「良かったですね。先生の方もおかげでGWでテントや沢装備の確認と整備が出来ました。あとは週末に出かけるだけですね。

 ところでお昼は早く出来るものでお願いしますね」


 まあ先生自身が作る気はないのはわかっていた。

 でもそろそろ僕の乏しいレパートリーが無くなりそうだ。

 まあ献立はスーパーで安いものを探しながら考えよう。

 あと昼は早く出来るものだな。

 先生だけで無く他の皆さんも飢えているだろうし。

 そんな訳で昨日も来たスーパーに到着。

 野菜類を適当に買ってと。

 お、白菜が今日は安いな。

 この時点で晩飯は鍋に決定。


 ついでにもやしも買っておこう。

 玉子も大分使ったからまた10個パック1つ購入。

 そして思いついて焼きそば購入。

 今日のお昼はこれでいいや。

 味噌も買う。

 肉は今日は豚の薄切りが安いな。

 あとは豆腐や薩摩揚げなどを……


 そんな感じに買っていく途中。

「これもお願いしますね」

 先生が厚切りベーコンを追加した。

 これは昨夜のアニメの影響だろう、きっと。


 ◇◇◇


 そんな訳で先生宅の大きいフライパン2つを使って12人分の焼きそばを作成。

 もやしとキャベツと挽肉と玉子だけの簡単な奴だ。

 皆さん飢えているから必要なのは早さ。

 予想通り12人分がきっちり無くなる。

 人数と量の計算が合わないがまあいいだろう。

 先生がお金を出してくれているし。


 飢えが遠のいたところで。

「さて、干したテント等を片付けますよ」

 という作業が始まる。

  ① 端っこを持って広げて

  ② 半分ずつに折っていき

  ③ 袋に入る太さになったらくるくる丸めて

  ④ 収納袋に押し込む訳だ。

 テント2つにビニールシート。

 人数がいるので作業は早い。

「前も思いましたけれど、テントって結構小さくなるんですね」

「これは登山用ですからね。ザックに入れて持ち歩くの前提ですから」

 そういいながら洋服ダンス風の押し入れにしまって。

 展開している布団干しも部屋の隅に片付けて終了だ。


「さて、もしよければ軽くドライブでも行きませんか」

 うん、このまま暇な時間を過ごすよりその方がいいな。

「いいですね。場所は何処ですか」

「海ですよ。折角千葉に来たんですから山だけに引き籠もっているのも勿体ないでしょう」

 という事で車はスタートする。

 荷物が無いから3列フルに使う。

 助手席が神流先輩、2列目が佳奈美と雅、3列目が僕という感じで。


 郊外の道路という感じの場所を淡々と走り、最後はこの車だとすれ違うのは厳しい道を上り詰める。

 灯台の横を通ったその先で視界が開けた。

 そこそこ広い駐車場がある。

 何か地域のおばあちゃんがやっているような売店もテントで営業中。

 そして東側から南側の視界がとてもいい。

「この辺りで一番海の見晴らしがいい場所ですよ」

 その先生の言葉で車を降りる。

 確かに見晴らしがいい。

 水平線の連続で地球が何となく丸く見える程だ。

 気持ちいい風も吹いている。


 売店があるという事はそこそこメジャー処なのだろう。

 でも人は決して多すぎる感じでは無い。

 それに基本的には空と海と緑の見晴らししかない場所だ。

 売店も観光客相手というより半ば地元の懇談会状態になっている感じに見える。

 ただ繰り返すが、見晴らしだけは確かに凄くいい。

 それだけでここに来る価値はあると思える。

「学校からも30分もかからないで来る事が出来るんですけれどね。でもほとんどの生徒はこの見晴らしを知らないんです。わざわざ学校からここへ来るの、車が無いと大変ですからね。それでも結構もったいない気がして」

 確かに勿体ないかもな。

 そう思いながら皆で何となく歩いて崖近くのベンチへ。

 ベンチを向かい合わせに2つ使い、先生と先輩、雅佳奈美僕という感じで座る。


「さて、ここでちょっと先生として、ちょっとしたお礼と質問をしていいですか?」

 何だろう。

 視線が先生に集中する。

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