場所を発見する事


 西雲春南(にしぐも・はるな)はネット上の記事等を調べていく内に、ランダムフィールド・パルクールを探すべきだと考えた。そして、記事のリテイクをしていく途中で設置場所を発見するのだが――場所的にも微妙な所に設置されている事に気付く。


 ただし、場所と言ってもランダムフィールドとタイトルにある以上、そこを中心として複数の設置場所があるとも判断出来る。


 普通は格ゲー系のARゲームでも、正確に店舗の場所とかネットで調べられるのに――これに限って言えば2か所しかなかった。


「アンテナショップと思ったら、両方とも違うと――」


 思わず西雲は頭を押さえるようなしぐさをする。設置場所が少ない事を驚いたのか、それとも最低でも2か所あると受け取るのか?


 実際に驚いたのは、設置されている場所だ。位置は両方とも駅から徒歩5分足らずで行けるだろう。谷塚駅か、草加駅かという最寄駅の違いだけ。


 それでも行く事を躊躇するのは、店舗名にもある。


「ARゲームギルド――」


 一番頭を痛める理由は、これだ。ARゲームギルドと言えば、まとめサイトでも記事を取り上げたくないほどに恐れている組織だ。


 ARゲームにはガーディアンと言う防衛組織も存在するが、彼らの場合はPMC――民間軍事企業と同じような勢力と言ってもいい。


 MMORPGやオンラインゲームで出てくるようなギルドとは別物であり、ガーディアンでさえも彼らに対しては非干渉やスルーをしている。


 その証拠に喧嘩を売った結果として、とあるまとめサイトが閉鎖に追い込まれた。


 サイトを管理していた地下アイドルの芸能事務所は、週刊誌に不正疑惑をもたれていた為、この一件が理由で所属アイドルは解散に追い込まれている。


 こうした被害を受けたくないがために、ガーディアンは一歩間違えればジャパニーズマフィア以上に危険なギルドを放置しているのだ。


「もしかすると、このARゲームはギルドに拾われたのか?」


 西雲は、ある仮説を立てた。このARゲームは、流通寸前で開発が凍結され、ギルドに拾われたのでは――と。ロケテストが直前で中止になり、一部のガーディアンによって利用されている技術も――この世界では当たり前だ。



 同日、草加駅前のイートインスペースのあるコンビニ、そこでスポーツドリンクを飲んでいた一人の女性がいる。身長は170位だが、体格や筋肉的な意味でもアスリートであると近くを通りかかったサラリーマンでも分かっていた。


 スマホを片手に写メを撮ろうと言う人物は、さすがにいない。そんな事をすれば、警察に逮捕となるのは分かっているから。


 スポーツドリンクを飲みほした後、彼女はコンビニから出ていくのだが――それを追跡しようと言う人物はいなかったと言う。


【この目撃情報はビスマルクじゃないのか?】


【ビスマルクって、あの?】


【パルクールプレイヤーで、女性のパルクールプレイヤーがネット上でも話題になっているだろう】


【まさか? ARゲームに進出するのか? それこそ無謀だ】


【ARゲームが実際のスポーツなどと異なる環境で、ギブアップする元アスリートは星の数――】


 ネット上のつぶやきサイトでは、写メの映像ではなく目撃証言等でビスマルクの出現に驚く人物が多かった。


 しかし、パルクールプレイヤーと言っても――彼女の実力でARゲーム参戦は不可能だと頭から否定する者もいる。


 それ以外でも参加するのは個人の自由だが、失敗すると考える者もいた。肯定的意見は、このタイムラインでは出なかった。


 このタイムラインは西雲も何となく見ていたが、ビスマルクが何者かはどうでもよかったのかもしれない。


 ARゲームに挑むプレイヤーの肩書、それに豪華な物は本当に必要なのか――自分でも書いた事はあるが、そこが疑問に残る。



 午前12時30分頃、お昼も食べ終わった西雲は早速ギルドの方へと向かおうとした。服装はやはりというかメイド服である。特にメイド服を着ていて、警察に目を付けられる事もないのだが――彼女の場合は何となくだろう。


「ARゲームに肩書なんて必要ない。あるのはゲームの実力――」


 移動手段は家の外にある自転車のみ――シャトルバスでギルドまで行けなくはないのだが、乗り継ぎ等が面倒なのと予算節約である。


 メカクレになっている前髪を少し触るが、彼女にとってはフラグ立ての様な物だろう。スカートに関しても気にしたら負けだが、自転車に乗りこんで谷塚駅のギルドへと向かう事になった。


 場所に関しては既に頭に叩き込んであるので、特に問題はない。スマホを片手に自転車を運転するのが逆に危険だからだ。


 2分経過した辺りで、片手運転で自転車に乗っている人間を発見し、事故を防止するという観点からも指摘するべき――と頭によぎる。


 しかし、そう言った行動は下手をすればフラグになるだろう。彼女の場合は特にフラグと言う言葉や行動に敏感と言うか、過剰反応すると言ってもいい。


 自分が今すべきことは谷塚駅近くのギルドへ向かう事だ。自転車のマナーについて注意する事ではないのは目に見えている。


 ネット上で交通安全運動が強化されているという記事もあったので、もしかするとパトロール中の警察官が違反切符を切る為に動くだろう。


 逆に彼女の恰好を見て、盗撮を考えている不審者もいるかもしれないが――それらを含めて、大量に釣られるのは分かりきっている。


「急ぎ過ぎても――?」


 西雲は後ろで警察が盗撮犯を捕まえている様子が気になっていた。しかし、今はギルドへ向かうのが優先されるべきだろう。


 警察が現れれば、おそらくはテレビ局も――と懸念するが、そこまで素早く動けるテレビ局がある訳はない。


 しかし、上空を飛んでいる謎の物体を見て、直観的にまずいと考え――この場を離れる事を優先する。


(まさか――ドローン?)


 西雲の頭の上5メートルほどを飛んでいたのは無人の小型ドローンだが、ラベルを見る限りでは個人所有ではない。


 その所有者はギルドの物だったのである。ギルドの保有している物には無人ドローン以外にも、試作型ARガジェット等も噂されているが――。


 ギルドがこの現場に現れた理由は不明だが、ささいな盗撮事件で駆けつけるのもおかしな話だ。ネットを炎上させる案件として素材を集めているのであれば、話は別かもしれないが――そんな事がありえるのか?

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