なぜ


「な、な、なんでここに!?」


 窓を開けて、屋根に上っている彼女に叫ぶ。


「エヘヘ……私ったらドジで。お財布忘れて来ちゃって。で、鍵が掛かっていたもんだから、マー君に開けてもらうしかないなって思って」


 ……最悪だ。


「いや、あれは……その……」


 言い訳が、なにも思い浮かばない。


「面白い歌だと思うわ。歌手になりたいなら、ママ、応援するわよ」


「……」


 死にたい―――――――――! 恥ずかしすぎて、猛烈に死にたい―――――――――――――――――!


「ところで、お財布を忘れて来ちゃったんだけど」


 よっこいしょ、と当然のように俺の部屋に乱入して、出て行くテレサさん。母親特有のプライバシー無視は、絶賛健在中である。


             ・・・


 それから、二人でギルド内を探すが、一向に財布が見つからない。


「ありませんね……どこに置いたんですか?」


「うーん……確かこのあたりに」


 そう言ってフラフラと、なんの規則性もなく捜索を始める聖母。俺の問いかけに対して、なんの回答もくれずに、全くのノーヒントで探す羽目になった。


              ・・・


 ない……ない……ない……


 !?


「「あっ……」」


 互いに探しものをしていた時、お互いの指先が当たった。


「ご、ごめんなさい」


「いえ……こちらこそ」


「「……」」


 ラブシーン来た――――――――っ!


 あっちは、顔が真っ赤である。


 これは、すっかり俺に惚れていると言って間違いないんじゃないだろうか、いや、間違いない(確信)


「あ、あの……」


 オズオズとテレサさんが俺に声をかける。


「なんでしょうか?」


 ここで、デレてはいけない。聖母のような美しさに魅了されてヘラヘラしている男に、女は惚れない。ここは、毅然と、『お前なんて、全然、意識してないんだからな』風を装わなければ。


「……い、いえ」


 真っ赤になりながら、そっぽを向くテレサさん。


 これは、もう、完全に惚れている(超確信)。


「なんですか? 言ってみてくださいよ」


 ここを逃せば、クソアル厨、狂戦士の邪魔が入っていつチャンスがあるかわからない。


「あの……いえ! やっぱりいいです!」


「なんですか、僕なら大丈夫ですから! 言ってください」


「……わかりました。じゃあ、勇気を出して言いますね」


 意を決したように答え、テレサさんは深呼吸をする。


 スー


 ハー


「あ、あの……」


「はい」


 と、とうとう……


「……爪、汚いから、切っていいですか」


















 結局、財布は、テレサさんのカバンの奥にあった。

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