学校での日常

咲久野は芸術科だったため、俺と違う校舎だった。なぜ咲久野は芸術科コースにしたんだと聞くと、どうやら絵も描けるらしい。ネットに上げたところ、その絵はとても上手いと褒められたそうだ。ならイラストレーターとかになればいいじゃんと思うのだが、本人は声優になりたいらしい。なんでそこまでこだわっているのかはわからんが、夢があるってことはいいことだ。俺なんて夢がないんだからな。


 「それじゃ、また帰りに迎えに行くから」


 そういい俺は、自分の教室の方にいこうとするが、咲久野が呼び止める。


 「い、いかないで」


 弱々しい声で言われたが、ここで情けは無用と思い、少し強めの口調で言った。


 「あのな、呼び止められてもこっちが困るだけだぞ?!芸術科の方で友達を作ればいいだろーが」


 怖かったのか咲久野はしゅんとしていたが、俺は無視して自分の教室に行く。これくらいしないとあいつが成長しないからな。友達が出来てくれればいいんだがな。


 ーー俺が教室の扉を開けると、さっきまで騒がしかった生徒たちも一気に静かになった。


 「なんで戻ってきたんだよ」


 「あいつきたせいで、テンションさがったわー」


 「ほんと、なんでこの教室にいるんだよ」


 「全くだ」


 クスクスと小さな声で笑っているのが聞こえた。まあ、会話も全部聞こえていたんだけどな。そこまではっきり悪口言わなくてもいいじゃん。俺、傷ついちゃう。自分でも気持ち悪いな、と思った。

 昼休みになり、俺はいち早く席をたった。いつものところに移動してさっそくご飯を食べる。ここで食べる飯は最高だ。なんってたって、人が誰も来ないからな。偶然見つけたここは、今では俺のベストプレイスになっていた。この時間が唯一の楽しみだったりする。誰にも邪魔されない、最高の時間だ。ご飯を食べ終わり、なにか飲みたくなった俺は、自販機のところにいく。


 「今日はなに飲もうかなー」


 機嫌がよかったのか、ついつい声にでてしまっていた。誰かに聞かれてないよね?聞かれてたら恥ずかしい。

 ーー俺は迷ったあげく、アイスココアにした。やはりココアにハズレはない、と俺は思う。そうこうしているうちに、昼休みが、終わる五分前だったため、俺は慌てて教室に戻った。


 午後の授業は英語だったため、寝ていた。英語はさっぱりわからん。なんで他の人はできるんだ?と思うくらい、できる人はすごいと思う。

 起きるともう既に午後の授業は終わっていた。後は帰りのホームルームをやって帰るだけだ。ホームルームが終わったため、俺は咲久野と待ち合わせしているところまで向かった。


 ーーそこについたのはよかったが、まだ咲久野はきていなかった。待っていても来る気配がない。俺は不思議に思い、芸術科の教室の方に行った。


 ーー芸術科の教室についても、そこには誰もいなかった。もしかしたら、もう帰ったんじゃないか。と思った俺は、帰ることにした。教室を出ようとしたとき、誰かの声が聞こえた。どこかで聞いたことのあるような声だった。俺は覗いてみた。そこには咲久野と俺の知らない別の誰かがいた。

 咲久野にも友達が出来たんだな。俺は嬉しい反面、悲しくもなった。昨日あったばかりの俺たちだが、唯一普通に話せていたのが咲久野だけだった。その存在はもういない。簡単に離れていく。でも、それでいいんだ。咲久野は俺と関わっちゃいけない存在だったんだ。これからは、いつも通りの日常に戻るだけだ。

 俺はそう自分に言い聞かせた。咲久野たちがいなくなってから、俺は教室を後にした。

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