これがホントのエピローグ!

第17話 命がいくらあっても足りゃしねぇ!

 俺が優子とミッションで向かった先で目を開けると……。ここはレインボーブリッジの夜景が綺麗なお台場の高層ホテルの屋上。俺は秋の星空を見て寒気がしたので革のボマージャケットの襟を立てると、フォアローゼスのバーボンをラッパ飲みしながら、吸っていたラッキーストライクの最後の一本をふうっと吐き出し、はるか下の地面にぽいと投げる。オレンジ色の放物線を描きながら落下する吸い殻は、闇に呑み込まれて消えていった。


「あれ、ここは? 俺はここで何やってんだ?」


「井原クン? やっぱり井原宏クンじゃない?」


 声を掛けられて振り返ると、俺の後ろには白いミンクのコートを着てプワゾンの香りを漂わせる優子がいた。


「ん? 優子? 何を言っている?」

「ヒロくんこそ、そんな物まで用意して、まさかよね?」


 俺の側にはご丁寧に白い封書や脱ぎ揃えてあった靴まで用意されていて、優子はそれをめざとく見つけて指をさした。なんなんだ、このデジャヴ?


「おい優子、俺達はミッションに向かうんじゃ無かったのか?」

「何を訳分からない事を言っているのよ? 私はヒロくんが保険金目当ての自殺を手伝う為にここに来たの。知ってるでしょ? 自分で飛び降りたら保険金出ないって事。だから私がここから突き落としてあげる。さあ、準備は良い? 覚悟は出来てるのよね!?」


 そう言うなり優子はホテルの柵に向かって俺の身体をグイグイ押して来る。


「ま、待て! 何をする! や、止めろ!!」


 俺は必死に逆らおうとするが、何故か身体に力が入らず、屋上の縁まで追いやられると、優子は俺の尻をおよそ女性とは思えぬ力でヒョイと持ち上げて、ドーンと地面の下に放り投げた! 俺の身体から重力の感覚が無くなり、身体中が風を切り、スローモーションの様にホテルのガラス窓が下から上に通り過ぎて、コンクリートの地面が近づいて来る。


 「またかよーっ!」


 俺はすかさず胸のバッジにキリストクロスを切るが、何も起こらない。おかしい、変だぞ? 何度もやっているのでやり方は間違っていない筈だ! 地面は急激に接近する! ここまでかっ!? 南無三!! すると俺の落下にシンクロする様に黒光りする革のボンデージ姿をした優子が姿を現わし、自分のバッジにキリストクロスを刻んだ。俺達の身の回りに光の玉が瞬時に生成されて、二人の身体は地面スレスレでストップし、光の玉と一緒にフワフワと浮いていた。


「気分はどう?」

「どうもこうもねえよ! 一体なんのつもりだ!?」

「たまには初心に帰ってもらおうと思ってね。ちょっとイタズラしてみたのよ」

「お前のドSっぷり、度が過ぎるにも程があるぜ!」


 俺は自分のバッジにタッチ操作をすると光の玉は消滅し、俺はクルっと宙返りをして地面に降り立った。優子も体操選手の様に華麗なポーズを決めて着地する。


「さすがに日頃のトレーニングの成果が出ているようね」

「ああ、もうここら辺ならお手の物だぜ」


 それにしても優子の奴、いつの間にマインドコントロールやバッジの操作を身に付けたんだ? きっと俺の知らない間にミィに鍛えられていたに違いない。


「これなら次のミッションも安心して任せられそうだわ」

「それで、今回の依頼ってのは? また自殺か?」


 優子はミィの様に『ニヒヒ』と笑いながら、


「豪華客船の沈没事故。氷山に衝突して遭難者5、345名!」

「なんだってーっ!?」


 ドS娘のミィから解放されたと思ったら、今度はさらにドS女王様の優子といきなりそんな大事件を組まされるのか!?


「報酬金で借金から逃れられても、この私からは逃れられないわよっ!!」


 呆気に取られる俺の尻を、再び優子は革の鞭でひっぱたく。俺の脳裏には再び妻の亜希子の般若の様に怒り狂った顔が浮かんだ。


「そんな因果関係は御免だぜ! これじゃあ命がいくらあっても足りゃしねぇ!!」



第二章 完

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