第7話 コンビニさんとコンビニおとこ 2




 中学校の頃の私は。


 なんらかの部活に所属しなければならないという理由というか校風で、私は友人と一緒の部活動に入った。

 おそらくは日本の多くの中学生と同じように、部活動に入部した。


 入部したそれは―――美術部ではなかった。

 絵を描くことではなかった。

 小学校のころから一緒に過ごした、その友人も確かにマンガが好きで、私の知らない面白いマンガを持って遊びに来ることもあった。

 けれど、あくまで読むこと専門で、絵を積極的に描く人間ではなかった。

 その頃の私は、自分の好きなことを一人で自分勝手にやることよりも、幼い頃からの、大切な友達と一緒の場所にいることを選んだ。


 絵ばかり描いている人間であることよりも。

 そうだと、思われることよりも―――友達と一緒に、いることのできる女子であろうと―――少なくとも、中学校にいる間はそうしようと、思った。

 それは間違ったことではないと思った。


 ―――――――――――――



 コンビニでは流行りのJ-POPに混じって、新しいスイーツを大々的に紹介していた。

 店内は音が多い。

 新しく発売したぞと。

 あれが美味しい、これが美味しいと。


「格闘マンガでは弾倉だんそうのどれかかな」


「週刊少年弾倉?」


 その雑誌は、『跳躍』や『日曜日』に比べると、やや格闘マンガが多く男子向けの雰囲気があった。

 それぞれ連載作品が違うから、もちろん雰囲気もそれぞれ、違う。

 私もいくつか好きな作品を上げる。

 一世代前のものが多いのは、まあ父や兄の影響であるためだ。


「ええっ、結構読むんだな、格闘系………」


 意外そうな顔をするコンビニおとこに、付け加える。


「え、だってお父さんとか兄ちゃんとかが持ってるし」


「ああ―――へえ、いるのね」


 コンビニおとこがすこし目を見開く。

 熱い戦いは心が躍るのだ。

 それでだ、


「で、どれ?例えば―――というか、空手とかボクシングとかなの?」


「それも有名どころがあるけれど―――とりあえずこれ、このマンガがすごいのは軍隊格闘なんだ。主人公の従妹いとこが特殊部隊の隊員だったって設定で」


「へー、珍しい………かな?」


「俺は珍しいと思う、絵も好きだ―――それと気になるのが―――作画と原作でって」


 コンビニおとこは言う―――そうなると、二人でひとつの作品を作っているという訳か。

 そりゃあ面白くなるわけだ―――とは、思わない。

 私はそう思える人間ではない。

 喧嘩とかしないのかなぁ。

 って思う。


「そりゃたまにはするだろう」


「たまにどころじゃあないでしょう………すっごい怖いよ。だってケンカしたらそんなのどうすんの? 話が進まなくなるじゃん」


「いいアドバイスだってするだろ」


「うーん………ぶぇえー………」


 呻きが出る。

 私は、私の経験からするならば、今まで一人で絵を描いてきた。

『作品』に余分なものが入ってきたことはない―――そう、余分なもの。


「いやいや、なんでだよ、喧嘩以外もするだろうよ、前向きな話をして、相談をしてマンガを作っていくんだろう?」


「でもそれって理屈じゃん、それが上手くいくビジョンが見えないよ」


 私は。

 私は―――両親と最近は仲良くしていない。

 そんな私にとっては、あり得ない話に思えた。

 家族とですら、そうなのに―――意見が合うとは限らないのに、仲良くできるとは限らないのに、赤の他人と仲良く一つの作品を作ることができると、思えない。

 人間技ではないとすら、思う。


「なんで」


「そんなの―――なんとなくさー」

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