第24話 ルバンツの街

 次の日、キャンプをかたずけて、俺達は再びルバンツの街へ向かって街道を進んだ。

 ちなみに朝食は俺が作った。どうやらこの三人の中では俺が一番料理が出来るらしい。勇者パーティーにいた頃、お荷物にならないよう積極的に雑用係をやっていたのが役に立っているってわけだ。


 街道を半日かけて歩き、辺境の地ミュルゼアの南方までやって来た。


「見ろ、あれがルバンツの街だ」


 シャンテが指し示す先に、目的地である街並みが見える。


「やっと着いたね」


「ああ」


 隣を歩くヴェーネの足取りが早くなる。

 もうすぐ日が暮れるので、今日のところは宿屋で宿泊だな。

 ルバンツの街の入口を抜け、街中に入る。

 街は埃っぽくて、あちこちからカンカンと金属を叩く音が響いてくる。

 石造りの家が立ち並び、荒々しいかけ声があちこちを飛ぶ。

 いかにも職人の街って風情だ。


 街の目抜き通りを歩く人々は、人間だけじゃなく、亜人も多い。

 その亜人の中には、当然ドワーフ族もいる。

 というより、ドワーフ族がほとんどだ。

 ドワーフ族の街と言ってもいいくらいだと思う。


「わー、すごい。武器屋とか防具屋がいっぱいあるー」


 ヴェーネが目を輝かせながら、目抜き通り沿いに立ち並ぶ店を見て回っている。

 確かにヴェーネが言う通り、武器屋や防具屋が所狭しとひしめいている。

 冒険者には垂涎モノだろう。

 明日、見物して行くのも悪くないかもな。


「シャンテ、今日はこれからどうする?」


「私が来た頃より随分と街並みが変わっているな。この調子だと奴を探すのも骨だな。今日はもう遅いし、明日のしよう」


「そうだな」


 目抜き通りを抜け、比較的閑静な通りに入る。

 そこにいい感じの宿屋があったので、そこに泊まることにした。


 次の日、宿屋をチェックアウトした俺達は早速人探しすることになった。


「シャンテ、そのドワーフ族はどこにいるんだ?」


「ああ、奴……ジンガンはこの街の東地区に工房を持っていた。そこに向かおう」


 シャンテに案内されて、ルバンツの街の東地区へ。

 入口付近の賑わいと比べ、人通りも少なくどこかさびれた印象を与える。

 こんな所にシャンテが認めた名匠がいるのか。

 しばらく通りを歩いていくと、おもむろにシャンテが指を指した。


「確かあれがジンガンの工房だ。見たところ、10年前と変わっていないようだが……」


 言いながら不審そうな顔を浮かべるシャンテ。

 俺も少し気にはなっていたが、街のあちこちで響く金属を叩く音がしない。

 金属を叩く音がするのは、当たり前だが職人が仕事をしているからだ。その音がしないってことは、今あの工房には仕事をしている職人がいないってことだ。


 もしかして、もう楽隠居しているとか?


 シャンテが工房の入口の方へ歩いていったので、俺とヴェーネもその後ろに続く。


「ジンガン、私だ。シャンテだ。いるか?」


 シャンテがドアをノックしながら声を上げた。

 だが、待ってみても中からの応答はない。

 家の中からは物音一つしない。

 シャンテはもう一度ドアをノックして呼んでみるも、やはり何の反応もない。


「もしかして、留守なのか?」


「どうする? シャンテ」


「とりあえず、しばらくここで待ってみるか」


 それから俺達は一時間くらい工房の前で時間を潰した。

 だが、住人らしき人は姿を現さなかった。


「ひょっとしたら遠出をしているのかもしれないな……」


 無駄足だったのか、と諦めかけた時、一人のドワーフ族が通りを歩いてきた。


「おや、この工房に客人かい?」


 そのドワーフ族は俺達を見てそう声をかけてきた。


「そうだ。私達はこの工房の主、ジンガンに会いに来たんだ」


「ジンガンだって!?」


 ドワーフ族の男はその名前を聞いて、驚きの声を上げた。


「知っているのか?」


 シャンテがそう追及すると、ドワーフ族の男は顔を伏せて呟いた。


「ああ、腕のいい職人だった……。だが、残念ながらジンガンは半年前に流行り病でこの世を去ったよ……」


「何だって……!」


 目を丸くして驚くシャンテ。

 どうやら、探していたジンガンというドワーフ族の職人は既に亡くなっていたらしい。


「そうか……礼を言う」


 静かにシャンテが呟く。

 じゃあ、と言い残してドワーフ族の男は向こうへ行ってしまった。


「なんてことだ……。ジンガンがいないとなると、もうあの魔導砲を修理できる職人はいない」


「この街は職人が大勢いるようだけど、誰か代わりの職人を探せないのか」


「ううむ……」


 シャンテは曖昧な返事をした。

 あの魔導砲は門外漢の俺からみても複雑な造りをしてたから、いくらここが職人の街でもあれを修理できる職人はそうはいないだろう。

 シャンテの顔はそう告げている。


 だけどせっかくここまで来て何も収穫なしなのも面白くない。

 とりあえず、探すだけ探してみよう。

 そう結論をつけ、街の中央区に戻ろうと足を動かした直後、背後から声がかかった。


「あなたたち、ジンガンに何か用があるの?」

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