第7話 灼熱の闘技大会


 祭り二日目も終わり、ついに最終日。

闘技大会の開催日である。その朝早く会場にて。


「よし、それじゃあ受付票を渡して入場してくるんだ。私とリュナ君は観客席から観ているよ」


「わかりました、行ってきます」


「ま、頑張ってくるわ」


「優勝は俺だがな!」


「…みんな…頑張ってね……」


それぞれ言葉を交わすとカムイとリュナは観客席に、他三人は受付場へと向かった。

受付係りに票を渡し入場すると予選会場へと通される。既にそこには多くの参加者が集まっており、独特の熱気と緊張感に包まれていた。


「こりゃざっと50人はいるな」


「この中からたった7人に絞られるのね……」


「俺たちならきっと大丈夫さ。ちょうど予選の内容が発表されるみたいだ、行こう」


三人は会場の中央へと向かう。

中央にはステージがあり、その上には白い軍服を着たヤマト軍の兵士が1人と、幕に包まれた何かが置いてあるだけであった。


「あの服…どっかで…」


「ん?どうかしたかガロン?」


「いや何でもねぇ、ただの思い違いだな」


その時、ステージの上の軍人が大声を張り上げた。


「参加者の皆さーん!こちらをご覧くださーい!只今より予選の内容を発表しまーす!」


場内の参加者達の視線がステージ上へと集まる。

軍人はそれを確認すると、幕に手を掛けた。


「それでは発表させていただきます!予選は……コレです!」


軍人が一気に幕を目繰り上げる。

その下にあったものは、デカデカと文字が書かれた板であった。


「制限時間無し生き残りバトルロイヤル……?」


ツカサが板に書かれた字を読み上げる。


「今年は例年よりも参加者が多かった為、このような形となりました!これより皆様には生き残りをかけてバトルロイヤルを行っていただきます!もちろんエヌエムの使用は自由!」


参加者がザワつくが、軍人は無視して続ける。


「ルールは簡単!意識を失ったり、命が危うい状態になった時点で負けとなります!

皆様の状態は予選会場の上にあるボックスにて観察系のエヌエム保持者の軍人数名により常に把握されています!もしも気絶したり命が危険に晒された場合は直ぐ様、転移系のエヌエム保持者によって会場外に転移させられますので安心!

また、他者の命を奪ったり過剰な攻撃を加えた者も失格となり同様に転移させられます!」


「へっ!シンプルで良いじゃねぇか!」


ガロンが拳を打ち合わせ気合いを入れる。

ヒカリにもこのルールは、大人数を実力で絞り混むには良い方法に思えた。


「人数が七名になった時点で終了となります!それでは今から3分後に開始となります!開始までは攻撃は禁止ですからね!」


参加者が他の参加者たちと距離を空け始めた。

他の参加者の近くに居た為に開始直後に集中攻撃される可能性を減らす為だ。


「私たちはどうする?」


「決まってんだろ!こっからは個人プレーだ!」


「ハァ、そうなるわよね…」


「まぁ俺達はお互いを狙わないようにしておこうか」


ガロンもツカサも無言で頷く。


「じゃあ二人とも、本戦で会おう!」


ヒカリの言葉を合図に三人は背を向けあう。

それぞれが違う参加者たちを視界に捉えていた。


「それでは時間です!予選…開始ぃぃぃぃ!!!」


司会の軍人の声と同時に予選の火蓋が切って落とされた。

それと同時にヒカリはガントレットを右手に纏う。


「よし、まずは全体の状況把握だな。角をとろう」


そういうとヒカリは自分から一番近い会場角に狙いを定め、一直線に走り出す。

もちろん途上にはヒカリを襲おうとする参加者もいるが


「せいっ!」


加減しているとはいえ、並の者が喰らえば必殺の威力を待つガントレットの爆砕鉄拳が次々と邪魔者を蹴散らしていった。

そのままヒカリは苦もなく角に到達する。


「よしっ、ツカサとガロンは……」


参加者が入り乱れる中で二人を探すのは容易では無い。

と思われたがガロンはすぐに見つかった。


「ハッハー!お前らみたいな雑魚に俺が捉えられるかよぉ!」


エヌエムを使用し高速で駆け回るガロンに、他の参加者は成す術無く倒されていった。

このぶんなら本戦出場は確実だろう。


「ガロンは大丈夫そうだな。ツカサは…」


自分に向かってくる参加者を最小限の反撃でいなす傍ら、会場を見回すがツカサの姿は見当たらない。

もしやもう退場させられてしまったのだろうかとヒカリが心配になった時、ツカサの姿が視界に入った。

ツカサもヒカリと同じ考えだったようで、会場の角に陣取っていた。


「ちょっと!私に向かってこないで他にいきなさいよ!」


ツカサは自分から積極的に仕掛けたりはせず、自分に向かってきた相手への反撃にのみ徹していた。

カムイに教えられたという武術の腕はなかなかのようで、相手からの攻撃を利用したカウンターで巧みに敵選手を捌いていた。


「ツカサも大丈夫そうかな、たぶん。よし、俺もウォーミングアップがてらガロンを見習って仕掛けてみるか!」


そう言うと会場角から離れ、大混戦の中央部分に向かい、目の前に現れる他選手を片っ端から倒していく。

その途中、目の前にふらっと長身の痩せた男が現れる。その男も同じように蹴散らそうと鉄拳を打ち放つが、しかし。


「っ!?」


打ち込もうとしたガントレットを片手でパンっと弾かれいなされる。必殺の鉄拳も当たらなければ意味がない。

外れた勢いで体制を崩すヒカリの鳩尾に男は強烈な掌底を叩き込む。


「ぐうっ!?」


急所への強烈な一撃に思わず視界がぐらつくヒカリだったが、なんとか堪える。

更なる追撃を貰わぬように無理やり体を捻り、バク転で距離を離し男に向き直る。


「へぇ、お兄ちゃん頑丈だねぇ……俺の掌底をくらって意識があるとは……」


男は落ち着いた中に暗い愉悦を感じさせる声で話す。

ヒカリを見るその顔はニヤニヤと笑っていた。


「コイツ……強いな……」


今まで心の中にあった余裕を消し、臨戦体制になるヒカリ。

しかし男は構えもとらず、ダランと力を抜いて立っているだけだった。


「恐らくは何かの武術を使うのだろう……長期戦になればボロが出るのは俺のほうか……ならば一気に!!」


最初からマックスのスピードで男に仕掛けるヒカリ。それでも男はニヤニヤと笑ったままだ。


「ハァッ!」


ヒカリは男の目の前で急に体を沈め足払いをかける。

しかし男はひょいと軽く跳ねて避けてしまうが、それはヒカリの読み通りであった。


「空中でなら!」


足払いの勢いのまま一回転し、そのまま渾身の右ストレートを放つ。

ヒカリの拳は見事に男の体を捕らえたかに見えたが


「なっ!?」


なんと男は繰り出されたガントレットの上に逆立ちし、ヒカリの拳を回避していた。

しかもそれだけでなく、そのままの体制から体を捻りヒカリの顔面に蹴りを放つ。


「なんだとっ!?」


予想できない攻撃に、なんとか左腕でガードするが大きなダメージを負ってしまう。

男は蹴りの反動を使い、空中で半回転してヒカリの正面にストンと降り立つ。


「なんて身の軽いヤツなんだ……」


額から冷や汗が伝う。下手をしたらコイツにやられて予選敗退なんてことになりかねない。

ヒカリは必死で次の手を模索するが


「攻めてこないのかい兄ちゃん?来ないならこっちから行くが構わねぇかい?」


言うと男は不遜なニヤニヤ笑いのまま低い体制で走り出し、その余りのスピードにヒカリは目を見開く。

もはや真っ向勝負以外に自分の勝ち筋は無い、ヒカリがその考えと共に渾身のカウンターを撃ち込むべく身構える。


「覚悟を決めたねぇ兄ちゃん……そいじゃあ一丁勝負といくかい……?」


男はニヤニヤ笑いを更に歪めて疾走してくる。その勢いのまま繰り出してきた貫手と、ヒカリのガントレットが正に交差しようとしたその時。


「そこまで!!」


不意に先ほどの軍人の声が耳からではなく、脳内に直接響きわたる。

それに驚いたヒカリは拳を止め、目の前の男も同じなのか元のダランとした立ち姿に戻っていた。


「ただいまを持ちまして、予選参加者は7名に絞られました!以降の他者への攻撃は反則となります!

今現在会場に残られている方は本戦出場決定者となります!直ぐに係りの者が会場内に参りますのでしばらくお待ちください!」


その言葉に周りを見渡すと、50名近く居た参加者はいつの間にか7名になっていた。

その中にはツカサとガロンの姿も確認できた。


「ケッケ、命拾いしたなぁ兄ちゃん…」


男がヒカリに話しかける。


「悔しいがそのようだ……あのまま撃ち合っても恐らくは俺が負けていただろう……」


素直に敗北を認める。ヒカリには自分の拳があのまま命中していたとは思えなかった。

そしてそのまま闘えば今度こそとどめを刺されていただろう。


「へぇ……潔いじゃねぇの……こりゃ思ったより楽しめそうだね…」


そう言うと男は会場の奥へと歩いて行ってしまった。


「ふぅ……驚いた、あんなに強いヤツがいるなんて……」


肩から力を抜いて息を深く吐き出すと、緊張が解けたのか最初に掌底を貰った鳩尾がズキズキと痛みだした。


「いてて……とりあえず二人のとこに行こう」


ヒカリは向きを変え二人の元に向かう。ツカサとガロンは既に合流していた。


「よぉヒカリ、お前も当然残れたみてぇだな」


「どうしたの?ちょっと疲れてるみたいだけど」


「いやちょっと強いヤツがいてさ……負けそうだったけど、危ない時にちょうど7人になったから救われたよ」


「ヒカリが追い詰められるなんて……どいつなの?」


「アイツだ、あそこで壁にもたれかかってる」


ヒカリが件の男に指を向ける。男は壁に背を預け腕を組み目を瞑っていた。


「見たことねぇ野郎だな……そんなに強いのか?」


「ああ、攻撃がことごとくかわされてしまった……それだけじゃなく、的確に急所を狙ってくる。もし本戦でアイツに当たったら注意したほうがいい」


その時会場入口の反対側の扉が開き、係りの者と思われる軍人がやってきた。


「本戦出場者の皆様!こちらへどうぞ!この扉の奥に救護班を用意しておりますので、負傷のある方や疲労を感じる方はご利用下さい、医療班が対応させていただきます!

また一時間後に本戦の抽選を行いますので、その際は再びこちらにお集まりください!」


そう言うと係りの軍人は扉の奥に消えた。


「ダメージがあるから俺は行くけど、二人はどうする?」


「私も疲れたし行くわ」


「俺は大丈夫だ、ここで待ってるぜ」


ガロンを残しヒカリとツカサは扉の奥へと向かった。

扉の奥には簡易ベッドや机、イス等が並べられており、白衣を着た軍医と思われる人間が数人待機していた。


「本戦出場者の方ですね、ご用件をお伺いします」


「はい、さっきの予選でのダメージが少し……」


「私も同じ感じです」


「では骨折等の重度のケガはありそうですか?」


「いえ、そこまでは」


「畏まりました、それでは御二人ともあちらのベッドにそれぞれ横になってください」


ヒカリ達はそれぞれ別のベッドに寝かされる。

少しすると、先ほどとは別の軍医がそれぞれのベッドの横に立った。


「では、私のエヌエムで治療を行います。ケガが無いのでしたら30分もかからずに終わると思いますので、楽にしてお待ちください」


軍医がヒカリの体の上に手を翳すと、ヒカリの体全体を薄い緑色の光が包んだ。


「暖かい……これは?」


「私のエヌエムは対象者の周囲にこのようなフィールドを作り、その範囲の中に居る間のみ短時間でケガや疲労を回復させることができるのです。我々ヤマトの軍医は皆一様に、このようなケガや疲労の回復に特化したエヌエムを持っているんですよ」


軍医はマスクの奥で優しく笑いながら話す。

暖かい光に包まれてしばらくすると、体が嘘のように軽くなってきた。


「凄い、本当に体が楽になってきました」


「この分ならあと5分もすれば回復しそうですね。もうしばらくお待ちください」


それから少しして治療が終わりベッドから立ち上がると、既に治療を終了していたツカサが出口近くで待っていた。


「ごめん、待たせたか?」


「私も今終わったトコロよ。さ、会場に戻りましょ」


二人が会場に戻ると、中央のステージ近くでガロンが誰かと話していた。

なにやら良くない雰囲気だ。


「どうしたんだガロン?」


ヒカリ達が近より話しかける。


「どうもしねぇよ、ただちょっとコイツが突っかかって来たんでな」


ガロンが目の前の人物を指差す。

深い蒼の髪にスラッとした長身の女性、一見人間種に見えたが、尖った耳がそれを否定していた。

白い軍服からヤマト軍の軍人だとわかるが、軍服各所に施された豪華な金の刺繍を見るに階級の高い人物なのかもしれない。


「先に話しかけて来たのは貴様だろうが!相変わらず礼儀を知らんヤツめ!」


件の軍人が険しい顔で反論する。

見かねてヒカリが間に入るが


「まぁまぁ、二人とも……何があったのか知りませんが、ガロンが無礼を働いたのなら俺が変わって謝りますから」


「ふん、貴様はコイツの仲間か?貴様のほうは礼儀は知っていてもプライドが無いようだな。こんな獣風情の為に易々と頭を下げるとは」


「なんだと……!」


ガロンが食って掛かろうとするが、ヒカリはそれを手で制する。


「彼は俺の友達です、貴方こそ礼儀が無いのでは?幾ら何でもさっきのは暴言でしょう」


「獣を獣と言って何が悪いのだ。貴様も本戦に出るようだが、こんな馴れ合いが居るようでは今回の闘技大会のレベルも知れるな」


「てめぇ言わせておけば!!」


いよいよガロンが殴りかかりそうになる。

しかしその時女軍人の後ろにある入り口が開き、背の低い軍人が走ってきた。


「大尉殿ぉ!まぁたトラブルを!!」


「ふん、また水を差されたか。まぁいい文句があるなら私に勝つことだな、それでは本戦で会おう」


不敵な笑みを浮かべて去っていく女軍人。

途中で背の低い軍人と合流し、そのまま会場端に行ってしまった。


「まったく、何てやつだ……失礼なのは自分のほうじゃないか、しかも本戦に出るみたいだし……ガロン、いったいあの人と何があったんだ?」


ガロンに問いかけるも返答が無い。

ヒカリが顔を向けると、ガロンは怒りを顕にした顔で女軍人を睨み付けていた。


「ガロン?どうした?」


ヒカリが問いかけるが

「うるせぇ!なんで止めやがった!それにいつの間にてめぇと俺が友達になったよ!?ここにはてめぇと決着を着けるために来たんだぞ!馴れ合うんじゃねぇ!」


ガロンはそのまま反対方向に歩いて行こうとする。


「ちょっ、どうしたのよガロン!」


「うるせぇ!どけ!」


ツカサが制止しようとするも聞く耳持たずに歩き去っていってしまった。


「いったいどうしたの……?」


「わからない、怒らせてしまったようだが……」


ヒカリは考えるも答えは出なかった。

それからしばらくすると、予選の説明をした軍人が戻ってきて再びステージの上に立った。


「皆様お待たせいたしました!只今より本戦トーナメントの抽選を行います!名前を呼ばれたらこちらに来てくじを引いてください!」


軍人は、くじが入っているであろう箱を抱えていた。


「それではお呼びいたしますが、通例通りまずは我がヤマト軍からの参加者からスタートさせていただきます!ではジュリ大尉!こちらへ!」


ジュリと呼ばれた先ほどの女軍人がステージへと進み出る。

くじを箱から引き、それを司会の軍人に渡した。司会はそれを広げる。


「お、これはまた……はい!ジュリ大尉は第一試合となりました!」


司会の軍人は受け取ったくじを高々と掲げ、他の参加者に見せる。

ジュリはステージの下に降りていった。


「どんどん行きましょう!続いてヒルコ選手、こちらへ!」


予選でヒカリと闘ったあの男がユラユラと前へと進み出る。

無造作にくじを引くとそれを司会に渡しステージから降りていった。


「ヒルコ選手は第三試合です!続いてツカサ選手!」


「私か……いきなりヒカリとかに当たるのだけは勘弁よ…」


ツカサがステージに昇りくじを引く。


「はい!ツカサ選手は第三試合です!第三試合はツカサ選手とヒルコ選手の対戦に決まりました!」


ヒルコがツカサを見てニヤリと笑う。

それを見たツカサは気持ち悪そうな表情でヒルコを見返しながらヒカリの元に戻ってきた。


「うわぁ……あいつヒカリを追い詰めたヤツでしょ……?不安だわ…」


「ああ、あいつはかなり強い。気を付けろよツカサ」


「わかってるわ……さ、次呼ばれるわよ」


司会が次の選手を呼ぶ。


「続いてガロン選手!」


ガロンがくじを引き司会に渡す。


「ガロン選手は第二試合です!続いてヒカリ選手どうぞ!」


「俺か……」


ステージに登る途中の階段でガロンとすれ違うが、ガロンはこちらを見もしない。

ヒカリが箱に手を突っ込みくじを引き、それを司会に渡す。


「はい!ヒカリ選手も第二試合です!第二試合はヒカリ選手対ガロン選手となりました!」


若干の動揺と共にヒカリがステージの下にいるガロンを見ると、ガロンも不敵な笑みを浮かべこちらを見ていた。

ステージを降り、ガロンの横に差し掛かる。


「手加減は無しだ、潰してやるぜ」


「俺だって本気でやるさ、当然な」


そのまま横を通り抜け、ツカサの元に戻った。


「いきなりガロンとはね、どうするの?」


「どうもこうも無いさ……アイツが何で怒ってるのかは解らないが、勝負は本気でやる」


そうこうしている内に次の選手がくじを引いていた。

筋骨粒々の人間種の男だ。


「はい!タナカ選手は第一試合!第一試合はジュリ大尉とタナカ選手の試合となります!」


タナカと呼ばれた男はキッとジュリを睨み付ける。

だがジュリは気にかけもせず無視した。


「そうしますと、残りのフォルン選手とクサカベ選手は第四試合になります!それでは全試合順が決定しましたので、選手の皆さんは本戦会場のほうにお願いします!!」


司会の指示に従い、全員が本戦会場へと続く扉を潜った。

扉の先は通路になっており、その出口からは外の光が射し込んでいた。


「この先が会場となっております、まずは開会式を行いますので、私の後に続いて来てください」


司会を先頭に全員が自然と列になって歩き出す。

通路を抜けると、そこには試合用の巨大な舞台と、それを取り囲むように観客席が設置されていた。観客席は既に満員に近い賑わいを見せている。


 本戦出場者の姿が見えた瞬間、拍手喝采が起きる。

歓声の中、選手達は舞台の上に横一連に並ばされ、その前に司会の軍人が立った。


「観客の皆様!大変長らくお待たせいたしました!こちらに並んだ8名こそ、今年のヤマト軍主催闘技大会におけるベスト8、本戦出場者達です!!」


司会の選手紹介の言葉に会場はさらに大きい歓声に包まれる。

その盛り上がりにヒカリは少し面食らってしまった。


「さて、本戦開始の前に開会式を執り行います! 例年では開会の宣言はヤマト軍の佐官以上の者が行っておりましたが、本年はなんと!ミヤコ国王女であるミナヅキ姫様から特別に宣言していただきます!!」


会場の興奮が最高潮に達した。

割れんばかりの歓声の中、ヒカリ達が出てきた通路のちょうど反対側、通常の観客席よりも高い位置の、一際豪華な作りになっているブースの奥から一人の少女が現れた。

足元まで届くような長く美しい黒髪に絢爛豪華な着物、あれがミナヅキ姫なのだろう。ミナヅキはブースの一番前に立つと、スッと片手を上げる。

それを合図にしたかのように観客席が静かになった。ミナヅキが深く息を吸い込む。


「皆さま方!本日は我がミヤコの擁するヤマト軍主催の闘技大会にお越しいただきありがとうございます!

選手の皆さま!よい試合の出来るように祈っております!」


そこでミナヅキは一度言葉を切り、もう一度深く息を吸った。


「それでは今ここに!神聖なる闘技大会の開会を宣言いたします!」


ミナヅキの言葉に、再び観客席から拍手喝采が響いた。

彼女は一礼して元のブースの観覧席へと戻る。


「ミナヅキ姫様、大変ありがとうございました!それではここで本戦のルールを説明させていただきます!

本戦はこの正方形の舞台上で行われる一対一の真っ向勝負となります!ダウンして10カウントを取られたり、舞台から落ちても負けとなります!

エヌエムや武器の仕様に関しても一切の制限は無し!ただし、もし万が一、相手を殺害してしまった場合はもちろん失格となります!しかしそうならないよう我が軍も万全の準備をしておりますのでご安心を!

また、刃物を武器として使用する選手につきましては事前にある程度刃を潰したモノをご用意しております!

それでは早速第一試合に参りましょう!該当の選手以外は舞台から降りていただき、あちらの待機場所でお待ちください!」


そう言って司会は、ヒカリ達が出てきた通路横に並べられたイスを指差す。

ジュリとタナカ以外の選手は舞台を降りてそこに集まった。


「それでは参加受付時の情報を元に第一試合の選手紹介に参ります!まずは今回の我が軍からの出場者でありますジュリ・シバトラ大尉!!」


紹介されたジュリは観客席に向かって一礼する。


「その実力は軍内でも折り紙つき!女性の身でありながら、戦功のみによって僅か数年で大尉まで登り詰めたことからもその実力の高さが伺えます!!

続いて、タナカ・タカ選手!」


司会がタナカに向き直り紹介する。

タナカは逞しい右手を振り上げ激しく雄叫びを挙げる。

観客席もそれに応えて拍手や歓声を飛ばす。


「タナカ選手は今回初参戦の選手であります!タナカ選手はゼンコウの街の酒場で警備の仕事をやっていらっしゃるそうで、普段から酒場の秩序を乱す荒くれ相手にその豪腕を奮っているそうです!そういう意味では実戦経験は高いと言えるでしょう!!」



 「おい、ジュリ大尉殿よぉ」


司会の紹介をよそにタナカはジュリに話しかける。


「なんだ木偶の坊、手加減ならせんぞ」


「ケッ、その性格は相変わらずだなぁ。俺はかつてお前と闘ったことがあるんだよ」


「ふん、覚えていないな。私が覚えていないということは大した相手では無かったのだろう」


「すぐに思い出させてやるぜ、試合が始まったらなぁ…」


タナカは下卑た笑いを浮かべる。

その時、司会の声が二人に向けられる。


「それではお二人とも準備はよろしいですね!?それでは参りましょう!本戦第一試合、開始ぃぃぃ!!!」


司会が手を振り下ろすと共に高らかに試合開始を宣言する。

激闘の本戦がついに始まった。



[灼熱の闘技大会・続く]

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