第9話

「3番テーブルこれ運んで!」

「だから!それは在庫がもう切れてるんだって!」

「万札来たんだけど」

(終わる気がしない・・・)

私は考えていた以上の繁盛に思わず目が回っていた。

「みんな聞いてー!思ってたよりも食材の減りが早いから、今日はお昼過ぎには閉めることになったよ」

(そんなに人気だったんだ・・・)

「シロちゃんの人気凄かったもんね!」

「・・・半日で10万貢がせた女」

勝手に変なあだ名をつけられたが、それだけ人気だったのが素直に嬉しかった。

「さあ!最後のお昼ラッシュを乗り切るわよ!」

「「おおー!」」


「お、終わった・・・」

「シロちゃんがいてくれて本当に良かったよ」

「ありがとうシロちゃん!」

「メイド服まで着たのに・・・」

私は反省会という名の雑談に混ざっていたが、お昼ご飯のために文化祭を回ることにした。

(やっぱりたくさんお店出てる)

かなり迷い、同じところをぐるぐるしてしまった。

(たこ焼きにしようかな)

私はたこ焼きの出店に足を運んだ。

「すみませんたこ焼き1つください」

「ごめんなさい、ちょうど売り切れちゃって・・・」

「そうですか・・・すみません」

(どうしようかな・・・)

どうしてもたこ焼きが食べたかったわけではないが、何だかとてもやるせない気持ちになってしまった。

「・・・いる?」

そう言って私にたこ焼きを差し出してくれたのはアカリだった。

「食べったかったんでしょ?」

「ありがとう、どこかで一緒に食べましょう」

「うん・・・」

私はアカリの手を握って、校舎裏を目指した。


「本当に貰っちゃったけどよかったの?」

「私はそこまで食べたかったわけじゃないから。ってもう半分以上食べてるじゃん」

「ごめん、お腹すいてたから。そうだ、あーん」

つまようじが一つしか付いていなかったので、私のつまようじでたこ焼きをアカリの口に近づけた。

「んっ・・・美味しい」

「そうだよね。出来立てだからね」

アカリは何故か少し考え込んだ。

「それだけじゃないよ」

「?・・・、」

「私、やっぱりシロのこと好きかも」

それは、突然の告白だった。

「それは友だちとして?私もアカリのこと好きだよ」

「ううん、多分これは恋愛感情なんだと思う」

それを聞いた私は、上手く答えられなかった。

「えっと・・・」

「ごめんね。いきなりこんなこと言っちゃって」

「私の方こそ、上手く答えられなくて」

「私、このままシロと会話出来ないの嫌だったから」

「昨日の準備の時のこと?」

すると彼女は小さく頷いた。

「私はそんなにそんなに気にしてないよ」

「私は気にするよ。私は、このままシロと友だちでいられるかわからない」

そう言ったアカリの目は真剣だった。

「シロはどうしたい?」

それはもちろん、ずっと一緒にいたかった。

でもアカリが聞いているのは、その関係性だ。

「私は、・・・」

いつもの告白とは違う。親友からの告白。

ずっとアカリと仲良くしたい、本当にそれだけだった。

「ごめんなさい、今の私には付き合えないよ。アカリのことは好きだけど、私は誰かを特別扱いできないよ」

「そっか、ごめんね。変なこと言っちゃって」

「謝らないでよ」

アカリとは付き合えない、でも気持ちだけでも全力で答えたい。

「私に告白してくれたその気持ちを悪かったことにしないで」

「そうだよね・・・ありがとう」

「それと、これからも私と友だちでいてくれる?」

「もちろんそのつもりだけど・・・」

アカリは普段私に見せてくれる、屈託のない笑顔で言った。

「さっきシロは今は、って言ったからね。しばらくは諦めないよ」

すっかりいつものアカリに戻ったようだ。

「でもシロ」

「?何?」

「誰も特別扱いしないシロにとってのレイラさんって何なの?」

「それは・・・」

「ごめんね。忘れて」

(私にとってのレイラさんって・・・)

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