第6話

「さあ上がって上がって」

私は言われるがまま彼女の家に来てしまったのだが・・・

(私のマンションじゃない)

私は自分の悪運に呆れながら、部屋の中に入った。

「それで何を作るんですか?」

「肉じゃがにしようと思って色々買ってきたから」

少し間があったが、どうやらお昼は肉じゃがになりそうだ。

「えっと、まずはジャガイモを・・・」

すると彼女は何を血迷ったかジャガイモを洗った後、そのまま鍋に突っ込もうとした。

「待って下さいよ!」

「え・何かおかしかったかな?」

その泳ぎきった目から、私はある程度を察した。

「料理したことあります?」

「・・・・・・」

無言は正しいとみていいのだろう。

「だって料理出来ないなんて知られたら年上のお姉さんイメージが無くなっちゃうじゃない!」

(呆れた、本当にこの人は・・・)

「いいです。私が代わりに作りますから」

「料理できるの!?」

「最低限は叩き込まれてるつもりです」

実家での花嫁修業が、ここで役に立った。

「・・・何か手伝おうか?」

「結構です」

私はそこのソファを指差し、彼女はそこに大人しく座った。

「君って年いくつ?」

「君じゃなくてシロって名前がありますから」

「じゃあシロちゃんはいくつ?」

「15です」

「それじゃあ高一かな。いいね若くてそんなに料理出来るなんて」

「逆にあなたはよくその年まで料理出来ずに生きてこれましたね」

「私そんなには歳いってないよ」

彼女はさっきよりも強い声色で言った。

(女性に歳を聞いたのは失敗だったかな)

「それに私は、あなたじゃなくてレイラっていう名前があるの」

「そうですか」

これ以上会話すると何かがすり減る気がした。

「出来ましたよ」

私は肉じゃがとパックのご飯を食卓に出した。

「ちょっと待ってね。今お箸とか出すから」

「・・?どうして一人暮らしなのに私のお箸まで?」

レイラさんは少し伏し目がちに小さく呟いた。

「お母さんが彼氏が来た時に、って・・・」

(でもその箸新品なんだよね)

「それなら彼氏が出来た時までとっておいた方がいいんじゃ」

「・・・これ以上使わないの勿体ないし」

どうやらもう何年もいないらしい。

「やっぱりいいです。お弁当に付いてた割り箸使います」

「まあそこまで言うなら・・・」

私は割り箸を取り出し食事にした。

「「いただきます」」

早速肉じゃがに手をつけると、ジャガイモが丁度いい柔らかさで、出汁も染みていて美味しかった。

「本当に美味しいよ!この肉じゃが!」

「そうですか。よかったです」

私は軽く流したが、正直人に料理を褒められるのはよかった。

「ここからシロちゃんの家って近いの?」

「近い、というか同じマンションです」

「本当に!?それなら毎日来れるね!」

冗談を言っているかと思ったのだが、彼女の輝いている目を見るとどうやら本気らしい。

「まあ、たまになら・・・」

「デレた!初めてシロちゃんがデレたよ」

「別に私は、デレてなんか」

私たちはそのフワフワとした空気のまま食事を終えた。

「「ごちそうさまでした」」

「片付けくらいは私がやっておくよ」

「そうですか、それでは帰りますね」

「ちょっと待って!」

私が帰ろうとすると、レイラさんが呼び止めてきた。

「何ですか?」

「せっかく仲良くなれたから・・・これ」

レイラさんは私にある物を渡してきた。

「これって・・・さっきのお箸じゃないですか」

「シロちゃんの引越し祝いだよ」

「ありがとうございます。でもレイラさんがせっかく彼氏が出来た時のために、って」

「いいんだよ。シロちゃんとなら彼氏くらい仲良くなれそうだから」

その笑顔は彼女の心からの笑顔で、私は彼女に何かを魅せられた気がした。

「やっぱりいいです」

「どうして?」

「・・・また来た時に貸してください」

「うん!」

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