リセット

 ルシフェルがいなくなった後、天界は上を下への大騒ぎだった。


 ルシフェルの請け負っていた仕事量は半端なものではなかった。その仕事が、一気に神へと返ってきてしまったのである。


「神様! 日本で大地震が……」

「神様! エイズや麻薬が……」

「神様! 政権交代が……」

「神様! 世界中が大不況で……」


 小天使たちが、次々と神のもとを訪れては泣きつくように報告する。今まで全てをルシフェルがやっていたものだから、神がなんとかしなければならないのだ。


「ええい、もううるさいのう!」

 あまりにも問題が立て続くものだから、神はついに立ち上がった。

「おっと、いかんいかん」


 仕事の間にも、ゲームは待ってくれない。神は念動力で自動的にキャラクターがモンスターを狩ってレベル上げを続けるように設定して、部屋を離れた。


 神はふんふんと杖を振り、世界に起こる問題を潰していった。神は早くゲームに戻りたい一心で、ひたすら仕事に励んだ。


 ようやくひと息ついたときに席に戻ると、画面には奇妙なメッセージが表示されていた。


【あなたのキャラクターは、不正なプログラムを使用していた可能性があったため、削除されました】


 どうやら、神通力で動かしていたのが、自動で敵を倒す不正プログラムと勘違いされたようなのだった。


 神は、何度もゲームを再起動したが、削除されたキャラクターが復活することは無かった。

 総プレイ時間、四万七千時間をこえる超やりこみキャラクターである。

 神は、怒り心頭した。


「神の御業を、卑しき行為と断ずるとは、なんたる、なあぁぁんたる!」


 そう言って憤慨したものだが、結局は自分のキャラクターを削除されたのが悔しくてたまらないのだ。

 神の怒りは収まらず、杖をとった。そして、無常にも天界の雲を力強く突いた。



ぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッ」



 たちまち、下界は大嵐に飲み込まれ、地上は海の中に沈んでしまった。

 嵐は四十日四十夜続き、たった一隻の方舟を残して、人類は全て消え去ってしまったのだった。


「まったく、このようなふざけた世界、わしが今一度作り直してくれるわ!」



 そうして神は、パソコンの前から立ち上がると、かつて天地を創造したときと同じように、少しずつ人間の世界を作り直した。

 一日目には昼と夜とを分け、

 二日目には空を塗り直し、

 三日目には大地と海を作り、

 四日目には空に星々を浮かべ、

 五日目には魚と鳥を作り、

 六日目には四つ足の動物を作った。


 そして、七日目には、小天使たちには内緒で、少しだけゲームで遊んだ。 

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