惑星大統領候補を暗殺せよ! 後編


 それから二日後のこと。場所は変わってラムル自由国家では、議事堂前の大広場にて、ドゥム大統領による候補者演説が行われる予定になっていた。惑星大統領の候補者演説は、各国の会場からほぼ同時刻に行われ、全世界へ向け生中継配信される。視聴率がそのまま支持率へと反映されるシステムだ。


 時間前の控所。現ラムル大統領でもあるドゥム・イルバーナは、大広場に集まった民衆を見渡し眺め、まだ演説すらしないうちから勝利した余韻よいんに浸っていた。昨日、自分の補佐官であるレズナーから、唯一の対立候補であったハイネマンの娘が死んだと聞かされていたからだ。


「大統領、そろそろ準備の程をお願いします」


 今日はレズナー補佐官が席を外しており、代理の次席補佐がドゥムにそう告げる。


「うむ、行こうか」


 ネクタイを正すと余裕たっぷりにそう答え、演説台へと向かうのだった。



 一方、こちらは同市内にあるレズナー補佐官の所有しているオフィスビル。本来ならレズナーは大統領の演説に立ち会わねばならないが、ある客を招くためここにいた。


 約束の時間となり、ビルに現れたのは、あのキャンベラとメイドのロゼであった。そう、彼女にミーティア暗殺を依頼したのはレズナー補佐官だったのである。


「……」


 この日キャンベラは大変機嫌が悪かった。忙しい身でありながら、依頼主から報酬を直接受け取りに来いと呼び出されたからである。おまけに来てみれば、誰も居ない応接室で待たされる始末だ。


(全く、この星の人間はしつけがなっちゃいないね。あたしを誰だと思ってんだい)


 応接室のモニターを眺めると公共放送のニュースが映っていた。昨日からアザルナ共和国の惑星大統領候補が撃たれたと繰り返し報道していたが、今朝からは昨晩未明に病院で死亡したという内容に変わっている。同国では僅か9歳の候補者が何者かに殺害され、国民誰もがショックを受けているとの事だ。

 病院前には大勢の報道陣が押し寄せ、侍女をしていたという老婆がハンカチを握りしめながら質問に答えている。その姿を見たキャンベラは思わず目を細めた。


(ふん……年は取りたくないもんさね)


 それから程無くして、部屋に数人の男たちが入って来た。


(なんだいこいつらは?)


「お待たせしました。ようこそ我が国へ、マダム」


 最後にレズナー補佐官が入って来た。白々しい態度にムッとするキャンベラ。


「人を呼び出しておいて待たせるのがこの国の流儀かい?」

「申し訳ありません、大統領と連絡を取っておりましたので……。まもなく大統領の選挙演説が行われます。宜しければ御覧になって行かれては?」


 この言葉にキャンベラは眉を吊り上げ、怒鳴り出す。


「興味無いさねっ! あたしは金を受け取りに来たんだ! さっさとお出しよ!」

「左様ですか……おい」

「はっ」


 一人の男が部屋を出ると、すぐにアタッシュケースを下げ戻って来た。テーブルへ置かれたところを見るに、これが依頼の報酬だというのだろう。しかし見るからしてキャンベラの提示した額には遠く及ばない。例え中身が全て黄金のインゴットだったとしても、だ。


「なんだいこれは? オリハルコーンの彫刻でも入っているのかい?」


 レズナーは笑いながらケースを開け、取り出した物を持ちキャンベラへと向けた。サイレンサー付きのハンドガンだった。


「それは何の真似だい?」


 見れば他の男たちもレズナー同様、キャンベラとロゼに銃口を向けている。


「ノコノコやってくるとは……我々を甘く見過ぎたな、星系をむしばむ薄汚いめ。あんたと手を組んだが最後、骨のずいまでしゃぶられると悪事は聞き及んでいる」

「ほぉー、辺境宙域のド田舎と思っていたが、そうでもないみたいだね」


 銃を突き付けられたキャンベラだが、余裕にも葉巻を取り出し火を付ける。隣で立っているロゼも、身動き一つせずに成り行きを見守っていた。


「減らず口もそこまでだ、死ね!」


 一斉に男たちの銃が火を噴いた。しかし銃弾はキャンベラたちまでは及ばず、見えない壁によって跳ね返される。想定していなかった事態に男たちは硬直し、その様子にキャンベラは笑い声を上げた。


「はーっはっはぁっ! 行儀の悪い坊やたちだ! マダム・キャンベラには盾突くなとママから教わらなかったのかい!?」

「ぐ……」


 レズナーへ葉巻を突きつけながら怒鳴り、キャンベラが圧倒する。


「破談だ。このあたしに牙を向けたこと、たっぷりと後悔するんだね。ロゼ、お前はこの部屋を掃除してから降りて来な」

「イエス、マム」

「待て! 逃がすなっ!」


 立ち上がり部屋を出ようとするキャンベラを、慌て男たちが後を追う。しかしロゼによってそれを阻まれ、瞬く間に銃を持った腕が斬り落とされてしまった。


「こ、殺せっ! 相手は一人だっ!」


 放たれた銃弾を巧みにかわし、ロゼは瞬く間に男らの間へ切り刻み、内臓を破裂させ、首の骨をへし折った。残されたのはレズナーのみとなる。


「ひ、ひぃぃ!」


 逃げようとするレズナーの首根っこを掴み、壁へと投げ飛ばした。叩きつけられて身動きが取れなくなったレズナーに、ロゼは踏みつけブラッディ・ローズを向ける。


「……くがっ! わ、悪かった! 金はちゃんと払う! い、命だけはっ!」

時間切れですタイム・オーバー


 レズナー補佐官の額を一発の銃弾が撃ち抜いた。

 

 ビルの外へ出たキャンベラは、携帯無線を取り出すと誰かに掛け始める。


「──もしもし、あたしさ。依頼は駄目になったよ、後は好きにやりな」


 そう言って無線を切り、再びどこかへと掛け始めた。その時、ビル上階から爆音がとどろき、煙が上がるのだった。



 丁度時同じくして、再び国会議事堂前の大広場。報道関係者や大勢の民衆が見守る中で、ドゥム大統領は惑星大統領選への意気込みをこんこんと説いていた。


「──でありまして、大統領としての立場でありながら、今回の選挙へ望んだわけであります。国の指導者である経験を生かし、必ずやラズールをより良き道へと……」


 演説ならお手の物だ。ドゥムは静かに、時に強く民衆へと語り掛けた。支持者からは熱狂的な声援が巻き起こり、やがて演説は終わりへと近づく。


「──最後になりますが私の友人であり、良きライバルでもあったアザルナ共和国のミーティア・ハイネマン候補が、何者かの手により惜しむべき命を落としました。 ……若き候補者の突然の死に、私も唯々ただただ愕然がくぜんとするばかりであります」


 表情を曇らせながら、態と言葉を詰まらせ大袈裟に演技をしてみせた。その様子に狂信的な支持者たちが感銘を受ける。


「親が子へ未来を託すように、本来なら星の代表は彼女らのような次世代へ担われるべきと考えておりました。幼き芽を摘み取った犯人を、私は決して許すことは無いでしょう。……この意向は今後も決して変わることはありませんが、今はただ勇敢にも戦った友人のため、共に平和の祈りを捧げようではありせんか!」


 演説が終わり立ち去ろうとすると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。これにドゥムは手を振って応えるのだった。


「大統領、素晴らしい演説でした」

「……うむ。(決まったな)」


 次席補佐から水を受け取り一口飲むと、さっきまで居た演説席の後ろを見上げる。そこには巨大スクリーンが設置されており、アザルナ共和国演説会場の様子が映し出され始めた。アザルナとラムルは時差があり、こちらがまだ昼前なのに対し向こうは既に夕刻を迎えている。演説席には当然立つべき候補者の姿はない。引き伸ばされた少女の写真の回りには山ほどの花束が添えられ、大勢の民衆が合唱団と讃美歌を歌っている。表情は誰もが暗く、至る所で候補者の死を惜しむ姿が映し出された。


 ドゥムはその様子を胸に手を当て、目を細めながら望んでいるが、内心ほくそ笑んでいる。


(ふふふ……ハイネマンよ、娘もそっちへ送ってやったぞ。親子仲良く惑星大統領ごっこでもするがいい。理想ばかりとなえる偽善者めが、大人しく市長の座に納まっていればよかったものを……愚かな男だ)


 ドゥムとミーティアの父、ネルス・ハイネマンは、因縁浅はからぬ関係であった。ネルスは生前より福祉と社会貢献へと力を注ぎ、人種差別問題、特にデザイナー・チャイルド問題に対して提議していた。先進国という立場にありながら、事態が深刻化しているラムル自由国家を名指しで取り上げ、問題に対して真剣に向き合うよう、強く繰り返し求めてくる。そんなネルスをドゥムはうとましく感じていた。

 ようやく静かになったかと思えば、今度はその娘が惑星大統領選へと名乗り出た。冗談ではない、デザイナー・チャイルドが惑星大統領になるなど、我が国の世論が許すものか!


 ラムルの演説会場では皆が祈りを捧げていたが、一人二人とその場を後にしようとする者が出始める。大統領の演説は終わった、もうこの場に止まる理由がない。


 ここで演説席のスクリーンに異変が起こった。映像からの讃美歌がピタリと止み、写真を照らしていたライトが消され、集まっていた観衆からざわめきが聞こえ始めたのである。ラムルの観衆は、何かデモンストレーションが始まるものと思っていたが、どうも様子のおかしい事に気付き出す。同様にこちらでもどよめき出した。


「何事だ?」

 不思議そうに観衆の視線が集まる中で、スクリーン内ではライトの光が舞台端へと照らし出される。やがて現れた演説席へ向かう姿に、誰もが驚きの悲鳴を上げた。


「なっ!? ば、馬鹿なっ!!?」


 クローズアップされたのは、まごうことなく死んだ筈のミーティア・ハイネマンだったのだ!


「あ、ありえん! 一体どうやって!?」


 唯々唖然とし、驚くばかりのドゥム。


──世間を驚かせ、お騒がせしたことを深くお詫び致します。私は今回の惑星大統領選に立候補した、ミーティア・ハイネマンです。ご覧のように無事、この通り生きています。皆様にご心配をお掛けしたことを、今一度深くお詫び申し上げます。

 

 演説席の横でドレスの端を軽く摘まみ上げ、丁寧に頭を下げる少女。スクリーンの向こうでは割れんばかりの拍手と声援、ミーティアコールまでが巻き起こる事態となっていた。

 一方でこちらのラムル演説会場では信じられないという声が飛び交い、インチキだとブーイングが起こり始める。この騒ぎにドゥムはようやく我に返った。


「さてはレズナーめ! しくじったかっ! すぐに奴を呼び出せっ!!」

「そ、それが先程からレズナー補佐官と一切連絡が出来ません! 今、直接向こうへ様子を見に行かせたところです!」

「なんだと!?」


 旗色が一変し、ドゥムの顔色も見る見るうちに変わっていく。演説会場を見ると、騒いでいた観衆がいつの間にか落ち着き、ミーティアの演説に聞き入っている。


「何をしている! あんな茶番などすぐに消せ! 全くどいつもこいつも……!」


 憤るドゥムに対し、複数の制服を着た者たちが近づいて来た。間髪入れずにシークレットサービスがドゥムを守ろうと取り囲む。


「な、なんだお前たちは!?」

「お忘れですか、大統領閣下。国際警察の者です」


 制服の一人が前に出てバッチを見せる。ドゥムは彼らと以前、ネルス・ハイネマン殺害の件で面識があった。その時は実行犯である暗殺者をレズナーが消したために、証拠不十分で事なきを得たのだった。


「どんな用事かは知らんが、話ならレズナーを通して貰おうか!」

「そのレズナー補佐官の件です。先程市内で死亡が確認されました。つきましては直接大統領にもお話を伺わせて頂きます……色々とね」

「レズナーが死んだだと!? し、知らん! 何も聞いていないぞ! 私はっ!」


 利き腕であった補佐官が死んだと聞かされ、ドゥムは目の前が真っ暗になった。こいつらにとってはレズナーのことなど二の次に違いない。ハイネマン殺害についての証拠を見つけるために、大統領官邸や私有地へ踏み込む口実が欲しいのだ。


「ご同行頂けますね?」

「拒否する! 今は選挙活動中だぞ!」

「それはこの国の政治家の法律でしょう? 今回は惑星大統領選、すなわち国際法が適用となるのです、お忘れですか? 閣下」

「……」

「それでは参りましょうか、閣下」


 後日、ドゥムは完全に失脚し、様々な社会から孤立を余儀なくされた。


…………


「ミーティアを助けたければ、全員抵抗せずヘリに乗れ!」


 まさに神業であった。ラオの放った弾丸は、床を跳ね返って跳弾となり、メルザの抱えていたマシンガンのみを撃ち落したのである。暫く硬直していた一同ではあったが、やがてラオの言葉に従いヘリに乗り込むのだった。


「妙な真似はするな。俺を捕まえても次の刺客が狙ってくるだろうからな」


 エンジンがかかり、ヘリは屋上を離れ始める。ボディーガード二人に挟まれるようにして座るミーティア。毛布にくるまりながらメルザに顔を埋めるようにして震えていた。


「このまま市内の病院へ向かえ」


 ラオはメルザの正面に座ると銃を仕舞う。憎き暗殺者の不可解な行動に、メルザは睨みながら口を開く。


「……お前の目的はなんだ? お嬢様の殺害ではないのか?」

「依頼のタイムリミットまであと一日ある。粘れば殺さずに済むかもしれない」

「どういうことだ?」


 ラオは暗殺ギルドに所属していた時の話をし始めた。任務を与えられ行動している途中、何らかの原因で仕事内容が急遽変更となるケースがある。依頼人が死亡した、気が変わった、その理由は様々だが、その度にラオは消さなくても済んだ命を奪い、後悔した経験が多々あったのだ。今こそはその経験を生かすべきと考えたのである。


「お前、直接依頼者に雇われているわけではないな?」

「だったら何だ?」

「お前の雇い主の名はキャンベラというのではないか?」

「……何故知っている?」


 思わぬところでキャンベラの名が飛び出し、ラオは少し驚く。


「奴にお嬢様の護衛を依頼しようと考えていたからだ。だが思い止まった」


 悪魔の様に恐ろしい女だ、と付け加えた。どういうつもりか知らないが、メルザはこの男には相応の事情があるのだろうと考える。とにかくミーティアの命を最優先させたいメルザ。信用できた訳では無いが、一旦今はラオの話に乗ることにした。


「……お前の計画は理解できた。旦那様が手塩にかけて支援していた病院だ、私から話せば協力して貰えるだろう。しかし奴を裏切れば、お前は只では済まないぞ?」

「知っている」

「依頼のリミットとやらまでに、何も変わらねば何とする?」


 言われラオは即答できなかった。その時の選択肢は二つ……ミーティアを殺すか、殺さずに己が全てを失うかだ。


「俺は子供を殺す銃など持ち合わせてはいない」


 一度顔の見えないミーティアへ視線を落とし、思い立ち上がると操縦席へ向かう。幼い子供にとって、見知らぬ男から銃を突き付けられる恐怖は尋常ではなかった筈だ。高所恐怖症も相まり、神経が衰弱してしまうだろうと考え、席を外したのだ。


「さっきは済まなかった。できるだけゆっくりと向かってくれ」


 パイロットにそう告げ、隣に座ると計器を微調整し始める。操縦できるのかと驚かれると、大抵の事ができねばこの稼業は勤まらないと返す。そして、いつものように足を組み、リラックスした様子でくつろぐのだった。


「お、お嬢様……!」


 声に反応し、首を傾けると隣にミーティアが立っていた。顔が青ざめ、足元は僅かに震えている。


「……どうした?」

「…………私を殺さないでくれて、ありがとう」

「……」

「本当は……とても怖かったの……それだけ……」

「そうか……」


 これ以上に二人は言葉が見つからず、ずっと黙っていた。


…………


 そして今、ミーティアは壇上に立ち、大衆の前で堂々と自分の主張を述べている。


「──理想だけで世の中を変えることは非情に難しく、世界から差別を完全に無くすことはできないでしょう。ですが各国の首脳と定期的に話を行い、少しでも改善へと進めることは可能な筈です。そのために必要な機関の設立と、並びに……」


 父の考えを自分なりにとりまとめ、大人顔負けの演説を続ける9歳の少女。その姿からは想像の付かない言葉が発せられる度、人は笑みを浮かべ、更に耳を傾けるのであった。


「──以上で私の話を終わります、ご清聴ありがとうございました。ラズールに栄光と平和があらんことを」


 演説が終わると同時に、アザルナの大衆からは待ち構えていたように声援と拍手が贈られる。ラムルの会場からも、惜しみの無い拍手が贈られるのだった。

 その時、会場に二発の銃声が響いた。一発は観衆の一人が演説席に向けて発砲したものである。幸い防弾シールドが張られていたため、ミーティアに怪我は無かった。会場から身を伏せるようにとのアナウンスが流れる中で、発砲した男は何故か肩から出血してうずくまり、回りにいた者たちから袋叩きにされ始める。

 しかしこれは陽動に過ぎなかった。もう一人の男が壇上へとよじ登り、まだ残っていたミーティアへ発砲をしかける。


「死ね! 悪魔の手先……うおっ!?」


 男は転倒し、拳銃を放した。再び立ち上がろうとしたが、体が勝手に二メートルの高さまで持ち上げられ、嫌というほど床に叩きつけられたのである。信じがたい現象に周りは驚愕するも、待機していた警察が押し寄せ男を押さえつけたのだった。


 二時間後の同市内。ラオはレンタカー内でくつろぎ、車内モニターを眺めている。ニュースではミーティアの演説が繰り返し放送され、マスコミの調査の結果、彼女の支持率が5割を超えたことが明らかとなる。このままいけば当選は確実だろう。だがラオはモニター音声には耳を貸さず、無線通信を行っていた。


──まったく忌々しい! 今回は骨折り損のくたびれ儲けだ!


 通信相手は言うまでもなく、マダム・キャンベラである。


「依頼が破談となっても借金は差し引いて貰うぞ」


──ふん! そういやあんた、あたしに断りもなく小娘の護衛をしたそうだね?


「知らんな」


──その報酬はどうしたい? 全額こっちに寄越しな!


 屋敷の修繕費用と相殺にしたとは言えず、ラオは苦笑し黙っているのだった。


「メルザという女から言付けがある。『とっととくたばれ』だそうだ」


──今度会ったら同じことを言ってやりな! ……今回は殺さずに済んだようだが、次の仕事もうまくいくとは限らないよ、憶えておくんだね!


 ここで通信は切れた。再びラオがくつろごうとしたところで、今度は車の窓を叩く音が聞こえてきたのだ。車の外には誰も居ない。しかしラオは特に驚かず、運転席の窓を少し開け、独り言のように呟いた。


「後をつけて来たな」


「さぁて、何のことだかな」

 

 すると返答が返って来たのだ。スノオの声だ。


「護衛の報酬は出ないぞ」

「勝手にゴロツキが転んで宙に浮かび上がったんだろう」


 こう言ってはいるが、先程の件は明らかにスノオの仕業である。


「ま、なんだ……お前が昔と変わっていないようで何よりだ」

「今後も力を貸してくれるか」

「お互い無事で、命があったらな」 


 この言葉を最後に、僅かにしていた気配が消えた。ラオは窓を閉め、夜の町へ車を走らせる。


 一ヶ月後、このラズール星で史上最年少の惑星大統領が誕生した。


to be continued…



次回予告


次の仕事までの僅かな時間を得たラオは、とある惑星にある機密機関へと足を運ぶ。その一方で、ロゼはラオの正体を暴くべく後をつけるが、待ち受けていたのは想像も付かなかったラオの過去そのものであった。

次回「エデンへの鍵」

宇宙は常に広がり続けている……。

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