六の火は自信に満ちていた。

「へ?………あってるよな。うん、あってる。じゃあなんで出ない……?」


サンクは通信機をいじりつつ、思案顔である。頭に入れておいた通信番号と、通信機でコールしている番号があっているか確認している。


「どうした?」


ウノが後ろから覗き込む。


「あ、リーダー。ちょっと見てみて下さいよコレ」


通信機をウノへ渡す。


「あ?コレがどうかしたか?………別に壊れたりしてないし、使い方がわからねぇわけじゃねぇだろ?」


「いや、そうじゃなくて。アルさんの番号、あってますよね?」


「ん?……あー、もしかして出ない?」


思い当たる節があったのだろう。ウノはさして驚くでもなく言う。


「そうなんですよ!さっきからずっとかけてるのに全く出る気配が無くて!!任務中って自覚はあるんですかね!?」


サンクは言いつつ地団駄を踏む。が、足の方が痛くなってすぐに止める。


「怒るな怒るな。俺がアルに連絡つけとくから、計画に無理が無いか確認してくれ」


文字に起こしたソレをサンクへ渡す。


「え?それ、ボクでいいんですか?」


「いいんだよ。とりあえず誰かの意見を聞きたかった所だ。頼むぞ」


「了解です!」


サンクが計画表を恭しく受け取るのを見て、ウノは息を吐いた。集団をまとめるというのは、簡単なことじゃない。人間の胃に相当するあたりが、かなりざわざわ来ていた。


「アルの野郎……人間にかまけやがって。それに仕事用の通信切りやがってよぉ……」


帰ってきたらどうしてやろうか。開発途中のコイツの実験台にでもしてやろうか。とウノはコンピュータのマウスにも似た、黒い機械を弄んだ。


幼馴染用の番号で、通信をかける。コール音が、一回、二回、三回、四回………出ない。出ない!?


「こっちまで切ってんのかよ!?」


思わず通信機に向かって怒鳴ってしまう。そんなに人間が知りたいってか!?興味津々てか!?


ウノはリーダーを任せられる程に思慮がある。しかし、アルの無法ぶりはその思慮を飛ばすには充分だった。


考えてもみてほしい。一緒に海外旅行に来たはずの友人が勝手にどっか行って連絡もつかない。しかもそれが今回に限った事ではない。頭に来ない筈がないだろう。


もっと言えば、彼らは宇宙人と呼ばれる存在であり、地球にやってきたのは旅行でなく仕事である。星間出張である。それなのにどこかへ行って帰ってこない同僚。キレて当然である。


なんなら直接飛んでいってボコってやろうかと、背中の羽に力を込めた瞬間、通信が入る。


アルからではなく、現在パトロール中のはずの、チルから。


ウノに対してではなく、チーム全体の緊急通信として。


「「「……会敵、噴霧器は効かない。………ドライも、もう……逃げ、て」」」


他のチームのメンバーに向けた、チルの最期の言葉であった。

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