EP.02 - 4

 この森は、植物から動物とあらゆる生物が潜んでいる。


 植物なら、人食いの蔦(テンタクルス)、喰らう怪花(ラフレシア)、叫ぶ球根(マンドラゴラ)。


 動物なら、屍の鳥(テラーレイブン)、黒狼(ブラックウルフ)、岩猫(ロックキャット)、羊花(バロメッツ)。


 人食いの蔦(テンタクルス)は密集する植物の枝や根なのに潜み、獲物を待って襲い掛かる危険な魔物。人を喰らうために進化したものが多くおり、下手な知識がないものにとっては命取りになりかねん。


 喰らう怪花(ラフレシア)は、大きな花であり、人を丸々と飲み込んでしまうほどの大きさをもつ。自ら動く者と動かないものがおり、動く者は触手をうまく使って獲物の熱を探ってひっぱる。動かないものはじっと待ち、困惑や魅了の臭いをただ寄せ、幻覚を見せて自ら大きな花びらの中に入ってくるのを待つ。


 叫ぶ球根(マンドラゴラ)。食料にもなり薬品の材料にもなる素材。引っこ抜いたものにけたましい悲鳴を上げ、その者の命を奪うとして知られている。引っこ抜く際に魔法や道具を使って音を消していても意味がないことから、近づかなければ平気な魔物だと知られている。


 屍の鳥(テラーレイブン)は鳥の成り果て(死体)に仮の魂が宿ったとした動物。血肉を求めて飛び、獲物を喰らう。身体は半場ミイラ化しており、生きているかどうかと問われればアンデッドが高い。


 黒狼(ブラックウルフ)は、その名の通り、狼と姿かたちが似ている。黒い体毛に覆われ、夜行活動することから『夜の狩人』とも異名を持つ。集団で襲い、一斉に飛び交う形で獲物の冷静を奪う。


 岩猫(ロックキャット)は岩のように硬い表面をもつ猫。岩の間に潜み、昼間は獲物を探す。鋭い爪で鉄でさえ裂くといわれるほど凶刃である。


 羊花(バロメッツ)は周りの草木を喰いつくすといわれる害獣。畑や田んぼを全滅させてしまうほどの食いっぷりを見せる。


 最初は羊のような頭で生まれ、少しずつ成長していくと身体や手足が伸びてくる。最終的に1メートルほどまで伸びると一匹の羊として植物の分断される。


 羊花(バロメッツ)は血肉はなく毛皮が9割で覆われているという。残りの1割は不明。ヒズメから角まですべて毛皮なのだ。


 しかも黄金色の毛皮ほど価値が高く、商人においてはかなりの額で扱われることからかなり価値ある。十分に育つまで山ひとつを犠牲にしなければならないことから、人工栽培は数百年前から禁止されている。


 これらの敵から首をとってきても価値はいまひとつだが、素材としての価値はかなり高い。騎士団の討伐よりは素材集めに専念した際には儲かる敵たちだ。


「くわしいんだね…」


 後ろをアイザックに任せてもらい、ミククは前進していた。


 ミククが自ら庭と発言していたのもよくわかる。魔物の特徴や存在価値などあらゆる面で研究している。それに比べ、さきほど森に入ってからすでに数えきれないほどの人の悲鳴が聞こえているのが不気味に感じてならない。


「そうでもないけどね」


 満足そうにないミククは、「英雄ほどじゃないけどね」と付け加えた。


「え」


「忘れて」


「あ、うん」


 英雄っと言っていた…もしかしたらミククはかつて英雄の仲間だったのかもしれない。だから、魔物の知識があってもおかしくはない。それに、大事そうに抱えている剣。もしかしたら、英雄がくれた武器なのかもしれない。


 アイザックはなにか企んでいる様子でわずかに笑った。


「なにか?」


「い、いや」


 聞こえていたのだろうか。それとも気配を感じたのだろうか。


 いや、そんなはずはない。たとえ、そうであっても人の心を読める奴がいて、たまるものか。アイザックはミククをかすかに恐れていた。

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