10#『愛』は、雄タヌキの勇気を膨らませた

 「本当に行くのかよ!!」


 「お前も死ぬぞ!やめとけよ!」


 2羽のカラス達は、高速道路の中央分離帯で途方に暮れる雌ダヌキを見詰めて身構えるタヌキのポクを必死に宥めた。


 「おいらは・・・おいらは・・・」


 脚が震えた。


 「じゃあこうしようぜ!あのトビのスピーに掴まってもらって、雌ダヌキの真ん前で下ろしてもらえ。」


 カラスのカーキチは言った。


 「やだ!直接行く!」「なっ!」


 カーキチは絶句した。


 「おいらが行かなきゃ!!」


「よせ!車に轢かれて死ぬぞ!」


 カラオケのカースケも顔を青ざめた。


 「あそこにいるのは、大切な『フィアンセ』なんだ!おいらが行かねば何にもならない!!」


 タヌキのポクは言い残すと、だッと高速道路に飛び出した。


 タヌキのポクは、猛ダッシュで高速道路を横切ろうとした。


 ブロロロロ・・・


 向こうの方から、車が物凄いスピードでポクに向かってやって来た。


 「ひひいっ!」


 間一髪・・・!ポクは、ジャンプして隣の車線に移った。


それもつかの間。


 「ひいいっ!」


 タヌキのポクは、今立っている車線からトラックが猛スピードで迫ってきた。


 「トラックに轢かれる!」


 「見ちゃられない!!」


 2羽のカラス達は目をつぶった。


 ごおおーっ!


 タヌキのポクは、寸前で俯せになりトラックのタイヤとタイヤの間をすり抜けた。


 「もう、ドキドキさせないでよ!!」


 カラスのカーキチは、翼で抑えた目を羽根の間から、無事に分離帯に来たタヌキに向けた。


「カーキチ、タヌキの奴本当に高速道路を渡りやがった・・・!!」


 「これが本当の『恋』の形か・・・?命を賭けてでも、一途に『愛す者』に尽くす。

 目頭が熱くなったぜ!カースケ・・・」


 「カラスさん達まだ道路の真ん中だぜ?」


 やっと、高速道路の真ん中の中央分離帯にたどり着いたタヌキのポクは、ゆっくりと慎重に目の前に震え雌ダヌキに近づいた。


 「あのー・・・今さっきはご免なさい!!」


 タヌキのポクは雌ダヌキに謝った。


 「な、な、何よ。」


 「さっきはご免なさい!!さっきはご免なさい!!」


 「あんた、何よ!!」


  雌ダヌキは、威嚇して身構えた。


 「だから何怒ってるんだよ!そんな場合じゃないだろ?助けに来たんだよ!!お前を!!」


 タヌキのポクは、ゆっくりと近寄った。


 が、雌ダヌキは後退りした。


 迫るタヌキのポクに、雌ダヌキはじりじりと、どんどん後退りしていった。


 「嫌・・・嫌・・・」


 突然、雌ダヌキは中央分離帯から脚を踏み外した。


 「きゃっ!」


 ポクは、間一髪で雌ダヌキの前肢をくわえ引き揚げた。




 ぷっぷー!!ブロロロロ・・・




 雌ダヌキの尻尾の先を、猛スピードで走り抜ける大型トレーラーに触れた。


 「なあ。おいらは、お前はここで『終らせない』!!おいらと『始める』んだ!!」


 タヌキのポクは、肩で息をしていた。


 「な、何言ってるのよ!!」


 雌ダヌキは怒鳴った。


 「ここにいたら危ない!!だからおいらが…」


 タヌキのポクは、必死に説得した。


 「でも・・・風船 」


 高速道路のど真ん中に、あの風船が墜ちていた。


 「風船!!」


 突然、雌ダヌキは中央分離帯から、高速道路にとびだした。


 「危ない!!」


 タヌキのポクは、慌てて雌ダヌキを追いかけた。




 ガブッ!!




 ポクは雌ダヌキに追い付き、雌ダヌキの首筋を咬みついた。


 「重い!!」


 小肥りの雌ダヌキをくわえて、ポクはヨロヨロと起き出し、目の前に迫り来る乗用車を寸前で避けた。


 「風船なんかどうでもいいだろ!」「あんたもそう言うの?」「何であの風船が欲しいんだ?」




 ブロロロロ・・・




 高速道路のど真ん中で、問答する2匹にスポーツカーが迫った。


 「危ない!!」


 ポクは反対車線に跳びはねた。


 どたっ!


 ポクは、くわえた雌ダヌキを庇うようにアスファルトに叩きつけられた。


 「だ、大丈夫?」


 「言っただろ・・・お前はおいらが助けると・・・!!」


 全身アザだらけのポクは、ヨロヨロと雌ダヌキをくわえて立ち上がった。


 「いいわよ・・・私はあの風船と・・・」


 「何言ってるんだ!死にたいのか?そんなに風船が大切か?」


 「それは・・・」


 雌ダヌキは言葉に詰まった。


 「おいらは、お前があの風船よりもっと大切なんだ!・・・」


 その時だった。


 大型ダンプカーが、2匹のタヌキの目の前に猛スピードで迫ってきた。


 「ぎゃあ!」




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