2#その風船は、美しい雌タヌキを呼んだ。

 春のポカポカとした日差しの中、ホンドタヌキのポクは歩いた。


 「気持ちいいなあ・・・ここに『彼女』がいたら、もっと気持ちいいだろうなあ・・・?ん?」



 ふうわり・・・


 「何かが降りてくる!風船だ!」


 タヌキのポクは降りてくる、オレンジ色の風船を追いかけた。


 「ふうせん!ふうせん!」

 

 突然そこに一つの影が現れ、何度もジャンプして風船の紐を掴もうとした。


 ぴょん!ぴょん!ぱっ!


 「あっ風船取られた!」


 タヌキのポクは、風船を捕まえた影を追いかけた。


 「待てぇ風船!おいらが最初に見つけたんだ!」


 その影は、風船の紐をくわえて、そそくさと野を超え、山を越えていった。


 「おーい!待ってぇ・・・あ、こけた。」


「あれ?どうしたのかな?」


 タヌキのポクは、こけた影に近寄った。


 「あれれ?雌タヌキだあ…!」


 ポクは心配になった。


 「死んでるのかなあ?そうだ。」


 ポクは、倒れている雌タヌキの耳にふーっ!と吹いた。


「ぶっ!」


 雌タヌキはむくっと起きた。


 「なあんだ。タヌキ寝入りか。」


 雌タヌキは、ふと空を見上げた。


 「きゃーっ!せっかくゲットした風船が飛んでっちゃった!!」


 雌タヌキは、悲鳴をあげた。

雌タヌキは、きっ!とタヌキのポクを睨んだ。


 「どうしてくれるのよ!あんたが追いかけて来なきゃ、風船を離さなくても良かったのよ!!どう責任とるのよ!」


 雌タヌキは凄い剣幕で怒鳴った。


 「そ、それは・・・」


ばっ!


 雌ダヌキは浮力が無くなり、春風に煽られてまた降りてくるオレンジ色の風船をまた追いかけて行った。


 「雌ダヌキ…おいらは、またとないチャンスを逃したのかなあ・・・」


 タヌキのポクは、ただ呆然としていた。


「雌ダヌキ…雌ダヌキ…」


 タヌキのポクは、訳も解らず怒らせてしまった雌ダヌキのことをずっと考えていた。


 ポクは、あの雌ダヌキのぷっくりした鼻の孔から、小肥りな体や尻尾の先まで思い出していた。


 ポクは恋をした。



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