第6話 声が聞こえる

~今までの経緯を高梨先輩に説明中~

「事情は分かった!不思議なこともあるんだな。俺はきっと第六感がすごいんだな」

 あっさりと高梨先輩は信じてくれた。僕の方があっさり信じてもらえ過ぎてびっくりした。


「俺が協力してやる!合コンを開いてやる」

 高梨先輩が目を輝かせて言う。


「高梨先輩!ありがとうございます!」

 これは断ったらダメなやつだな……。

 権蔵のことが見える仲間ができたことは心強い。


「おう!任せておけ!合コンには、もう1人必要だな」

 高梨先輩はスマホを見ながら言った。

 どうやら榊原さかきばらという高梨先輩の知り合いにメールで連絡したらしい。それで、人数を3人にしてほしい返答されたようだ。


「あのーワシはどうでしょうか?」

 権蔵が何か言っている。聞こえない聞こえない。本当はちゃんと聞こえているけど。


彼女が欲しい」と口癖のように毎日言ってる後輩を思い出した。


「あともう1人は同じ課の桂はどうですか?」

 僕がそう言うと、権蔵が駄々をこねだした。

「ワシも合コンしてみたい!」

 高梨先輩も権蔵を無視して話を進めている。


「あいつはいつも『彼女が欲しい、欲しい!』言ってるもんな。適任だな」

 高梨先輩がそう言うと、いい加減権蔵がキレだす。

「ワシは無視かい!」


 さすがに無視はやりすぎたかな。

「権蔵は他の人には見えないからダメだろ!」

 僕がそう言ってため息をつく。


「空の席にもう1人いるんですって言ったらさすがに女の子ドン引きだわ」

 高梨先輩もそう言ってため息をつく。

「ワシにいい考えがある…」

 権蔵はニヤリとした。


 結局仕事終わりに会社の後輩で26歳の桂を高梨先輩が合コンに誘った。

「桂!今度合コンするんだが…」

 高梨先輩がまだ言い終えてないうちに桂が即答した。

「行くっす!!」

 僕はその返事の速さに驚いた。

「はっやっ」

 桂は二つ返事でOKしてくれた。


 高梨先輩に僕はコソッと言った。

「自分の力でも頑張ってみます!」

 高梨先輩は笑いながら褒めてくれる。

「そうか!えらいな」


~12月某日~

 高梨先輩に話してから何日後か経過した。

「よし、婚活アプリを、やってみよう!」

 僕は権蔵にそう言って、サイトを調べ、婚活サイトのアプリをやってみた。

 そして有料会員になった。

 いいね!を押しまくり、とにかくメッセージを送りまくった。


「お主はメールの書き方がなっとらん。事務的なメッセージじゃ話が弾まんぞ」

 僕は権蔵に言われた通りにメッセージを打った。

 そうしたらメッセージの返信が倍になりラリーも続くようになった。

 婚活サイトのアプリでメッセージで仲良くなった女性がいた。

柿島かきじままみさん26歳 茶髪ロングの可愛い系の女の子だ。


 まみさんからの、メッセージ

『良かったら、今度会いませんか?♡』


 僕は喜んですぐにメールに返信した。


 僕のメッセージ

『ぜひお会いしたいです!いつがよろしいですか?』


 そして後日、柿島さんはメッセージで約束した場所に立っていた。


「はじめまして♡」

柿島さんはニッコリと挨拶してくれた。


「…どうも…」

 僕は緊張して一言しか言えなかった。

柿島さんは僕の対応に、びっくりした顔をした。

 その後もメールのようには話が弾まず、解散したその後柿島さんからメールの返信が来ることは無かった。

次は合コンで頑張るぞ。



 ~クリスマス~

 合コン当日はクリスマスだった……。

僕は虎柄のポロシャツにドクロのジーパンと言う格好で1番に待ち合わせ場所に待っていた。ビルの中の居酒屋さんで合コンするらしい。

「ワシが服を選んでやると言ったのに…ダサい格好で来おって」


「遠慮しておくよ」

 僕は即答した。

はっきりいって権蔵のファッションもダサい。


初恋の…」

急に権蔵が真剣な顔で何やら呟いた。


「今…彼女の声が聞こえた!」

 急に動揺しだす権蔵。

 僕は胸が締め付けられるような気持ちになり、トイレに向かった。トイレに行く途中の通路でバッタリと、秘書の桃井さんと会ってしまった。


「たちばなさんどうしたんですか?」

桃井さんが僕に気づいて話しかけてくれた。


「いえ、あの飲み会で来てて…」

僕は慌てていたので気の利いた事を言えなかった。


「私も飲み会ですよ。ただたちばなさん顔色が悪いように見えますので、お大事に」

 桃井さんがそう言ってどこかに行くと、ビルのエントランスで今度は社長を見かけてしまった。

 どう挨拶するべきか迷っていると…今猿いまさる社長がこっちを見た。

「社長、それでは失礼します。」

 そばにいた女性は速やかに帰って行った。


「たちばなさんですよね?」

今猿社長が近づいて話しかけてきた。


「僕の名前をご存知なんですか?」

僕は今猿社長が僕の名前を覚えていてくれたことに驚いた。


「たちばなさん。こないだ事故に遭われたましたよね?」

 なんで最近会社に来た社長が僕についてこんなに詳しいのだろうか?もしかして……


「社長があの時の事故の運転手ですか?」

僕は恐る恐る言った。


「そうです。ご挨拶も出来ずに申し訳ございません。その後体調はいかがですか?」

 今猿社長は申し訳なさそうに言う。


「そうでしたか!体調は大丈夫です。あの大金も社長からですか?」

僕は頭を下げながら言った。


「お気持ちだけですが」

 今猿社長がそう言った。

あの大金は今猿社長からだったのか……あの大金でお気持ちだけとは金持ちなんだな……


「こちらこそありがとうございます!気にしないでください。先程の女性はどなたですか?」

 なぜか気になり、僕は思わず口走っていた。


「口説いてたけど逃げられちゃいました」

 今猿社長のその言葉になぜか僕は胸がちくりと痛んだ。


「社長と部下ではなく連絡先を交換しましょう。何かあったらいつでも言ってください」

今猿社長は僕に名刺をくれた。


「ありがとうございます」

 僕は名刺を渡した。


「忘れたくても忘れられぬあの声……

 聞こえただけで涙が出るのじゃ……」

 権蔵は涙を流しながら言っている。

 僕は何も言えなかった。


「思い出したぞ。[黒髪]じゃった。しかし、こんなにも切ない気持ちになるのに他に何も思い出せんのじゃ」

 権蔵は泣き止む気配がない。さすがに可哀想になってきた。僕まで胸が締め付けられるような痛みがあるような気がした。

 しかし、もうすぐ合コンが…どうする?

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