ツイノベ ログ

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家制度の衰退にともない代々墓は廃れていき、現在主流となっているのは個人単位の樹木葬、一番人気はやはり桜、故人の数だけ場所が要る。死者は増え、土地は減り、不足は海を埋め立てて、人を埋め、桜を植えた人工島が春を呼ぶ、沖に桜の霞がけぶる、眺めて人は彼岸を思う。#桜埋め




山に入ってはいけない。山では桜が吹雪いている、吹雪の下には影が寄る、影と目があう、手招かれる、抗えない、桜が美しい、抗えない、夜鳴りに乗って花弁が吹雪く、足が吹雪の下に寄る、花弁が貼りつく、目をふさぐ、咽喉をふさぐ、倒れて埋まる、影になる。だから山に入ってはいけない。#桜埋め




もう行くから、と叔父が言う。父の代わりに私が見送る。叔父は世界遺産になりにいく。配られたカタログの写真を指し、この丸屋根に使われると笑う。かつて存在した世界の遺産を、私達の体で復元する。オリジナルとの違いは色、骨の白、人類は自ら地球の墓標になることを選んだ。




むかし自分が育った海で、いまは子どもを遊ばせている。磯で子どもがはしゃぎまわる。パパ、見て!赤いバケツを覗きこめば、中には宿借、蟹、海老、人魚…人魚?手のひらほどの大きさの人魚が、私を見つけてにいいと笑う。人魚は私の妹に似ている。むかしこの海に沈めたはずの。




森の館に灯が入る。灯に惹かれて旅人が入る。館の主は彼を迎えて二度と館の外に出さない。旅人は怒り、そのうち諦め、主に乞われて執事になり、中年になり老人になり、やがて主人の孤独を案じたまま死ぬ。館に弔いの灯が入る。灯に惹かれて旅人が入る。何度目であっても主人は泣く。




折り畳み日傘を買った。最近流行りの文庫式だ。鞄から出して開くと頁の文章が舞い上がり、持ち主の頭上で渦を巻いて、日を遮って傘になる。中から見上げると文が読める。遠目には黒いレースに見える。たまに間違えて電車で開く。ちょっと恥ずかしい。




娘の庭を受け継いだ。春、夏、秋、冬、それぞれの彩を喜ぶ庭。丹精した娘が言う。お父様、どうか庭を愛してください。お前も国をと言いかけて止める。この庭を見れば分かること、苛烈な先王に言われずとも、姫は民を慈しむだろう。死ぬまで幽閉する父王への、庭は最後の情けだろう。




子供が死んでいく。人々の声を聞き届け、神が子供を殺している。何もかも終わってほしい、だが私が苦しみたくはない、安らかな終末を。何を願ってしまったのか、大人が気づいたときにはもう遅い。新しい子供が生まれない。今いる子供は長くない。百年後には誰もいないだろう。終末。




妖精をミキサーにかけよう。容器の中の妖精がガラスを叩く。スイッチ・オン。手応えは一瞬で滑らかになる。コップにあけた赤いとろとろを、飲みほす祖母を私は見ている。長寿の秘薬と信じていながら祖母は妖精を触らない。だから知らない。その断末魔を。どんな目で私を見るのかも。



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何かに間に合う事のない人生だった。電車のドアは鼻先で閉まり、明日までにほしい書類は届かず、企画書の提出にも閉店時刻にも親の死に目にも、本当に何も間に合った試しがなかった。治すべきだったと走りつつ思う。向こうで世界が終わっていく。きっとまた間に合わない私を置いて。


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