陰鬱w 3

 市川駅 某タワーマンション


 市川駅と繋がっているタワーマンション、ザ・タワーズ・ウエストとザ・タワーズ・イースト。


 この二つのタワーマンションは互いが向かい合って建っており、造りも殆ど似ている。

 

 違いは、ザ・タワーズ・イーストが37階建て、ザ・タワーズ・ウエストは45階建て地下2階、さらに45階の最上階にはアイリンクタウン展望施設という展望室が備えつけられている。


 この展望室は住人以外の人達でも気軽に立ち寄ることが出来、展望室から見える夜景は素晴らしく、千葉県の夜景スポットでは有名な場所である。


 市川駅をよく利用する者にとって、この二つのタワーマンションは大変便利であり、その分他のタワーマンションに比べ、住む料金が高い。


 そんな高級タワーマンションと言ってもよいほどのタワーマンション、ザ・タワーズ・ウエストに似つかわしくない十代後半の若い二人が最近引越してきた。


「おいファン。お前長すぎだろ、どんだけ時間掛かってんだ」


「料理人として、キッチンに置く調味料や器具の配置は肝心ヨ」


「だからって、半日掛かるのは長すぎだ」


「長谷部だって、ヒーローのフィギュアやDVDの置き場所に一日中考えてたじゃないヨ」


「あのな、ア〇ンジャーズの歴史は深いんだ。そんな簡単に決めていいもんじゃないんだよ」


「塩や醤油とかだって歴史深いヨ」


「ヒーローと調味料を一緒にするな!」


 2SLDKの部屋を借り、荷解きを終えた二人、中国人のファングと日本人の長谷部はせべ健太郎けんたろうは互いの価値観の違いで口論していた。


 口論を続けること数分、二人の腹がぎゅ〜っと鳴り始めた。


「はぁ……そういえば昨日の夜から何も食ってなかったな、ファン何か作ってくれ」


「コーラとピーナツバターと調味料しかないヨ」


「コーラは分かるとして、何でピーナツバター何だ?」


「ピーナツバターは必須ヨ」


「塗るもんがなきゃ話しにならねーだろ」


「そのままで食べるヨ」


「だからお前太るんだよ」


 長谷部は黄に呆れていると、また腹の虫が鳴る。


 空腹で、力が入らなくなった長谷部はウンチョに外で朝飯を食べることを提案する。


「仕方ない、確か駅中に松屋があったらそこで済ませよう」


「異議なしネ」


 二人は必要最低限の身支度を終えると、玄関に向かう。


「しかしあれだなファン、玄関が広いといいな」


「急に何ヨ?」


「玄関が狭いと二人で一緒に靴履けないだろ」


「確かにネ、でもちょっと狭いヨ」


「お前が横幅広いからだろ」


「普通にデブって言えネ」


「デブって言ったらどうなる?」


「長谷部の寝てる時にダイブするネ」


「色んな意味で困るな〜中国人の女の胸にでもダイブして」


「僕はロシア人好きヨ」


「知ってるよ、すぐ老け顔になる人種だろ?」


 くだらないトークを続けながら靴を履いた二人は玄関の扉を開け、高級マンションの一室をあとにする。


 この世の者ではない、彼ら彼女らを置いて。


『……』


『……痛い』


『熱い』


『寒いよ』


『赤ちゃん……私の赤ちゃん』


『腹が焼ける!』


『許さない』


何処どこ……何処にいるの』


『殺してやる』


『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い』


『嫌だよ、嫌……』


『アイツら……』


『愛し……』


『……』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る