第10話 原宿へ到着!

 土曜日の東京。イベント会社のあった街から出発して電車移動を始めたナミたちは、午前9時少し前くらいに原宿に到着した。そして、明治神宮の入り口近くまで移動して、今日のお客様——アメリカからの来訪者たちを待つ。ここが本日の集合場所であった。留学生たちは、イベント会社の別の社員によって引率されやってくる予定であった。

 しかし、そのまま十数分たって、そのそろ集合時間の9時になってもやってこない待ち人たち。いったい、どうしたのかと、インターンの引率担当社員のカナが、電話で留学生達側の担当社員に電話をすると……

「え、トラブル……ん、そうなの……何か危ないこと起きたわけじゃないんだよね……ただ遅れる……もう三十分はかかる……」

 カナは電話を終えるとみんなに説明する。

「……今日参加者の人たちは、短期の留学なので、ホテル住まいの人と、ホームステイの人いるんだけど、ホームステイ側の人のなんか集合場所のホテルの場所がうまく伝わっていなかったみたいで……すいません、私たちのミスです。これだと少しスケジュールとか調整しなきゃいけないけど……」

 とのことであった。

 そして、これから参拝、祈祷も受ける予定の明治神宮にスケジュール変更が可能か連絡をとらないといけないカナ。

 もともと、インターンの学生達をアテンドにつけて自由行動を多めにと考えていた今日のスケジュール全体からすると挽回可能な遅れであるが……最初の予定がそれではギリギリになる。その調整が終わっても、スケジュール全般の見直しの修正、確認が必要で、

「……申し訳ないけどみなさんこのまま三十分くらいまってください。この間で、なんならトイレとかすましておいてもいい……付近をちょっと散策してもいいけど、二十分くらいで戻ってくるようにお願いします」

 これを聞いたインターン生たちは二手に別れた。この時間に各自携帯しているデバイスでネットをみたり、この時間で週末の宿題を少し進めておくのもよいと、その場に残る者と、その場を去って付近に歩き出す者。

 この時代、教科書やノートを持ち込まないとできない勉強というのはほとんどない。ネットなりにアクセスできてVRデバイスがあればそこがいつでも学習室に変わる。どちらかというと、いわゆる意識高い系の参加者が多い今回のイベント、寸暇も惜しんで自己研鑽という者が参加者の半分以上をしめた。しかし、残りの数人は、トイレに行きたいのか、ちょっとの時間でせせこましく勉強とかするは性に合ってないのか、カナに一礼するとその場から一旦去って行く。

 ——ナミは後者のグループであった。

 せっかく、あまり来ない、東京の都心ま出てきたのだ。ちょっとの時間でキリ悪く何かするよりも、付近の散策でもしようと思うナミであった。カナよりも、この時間を利用して、ならばまだ店の開かず閑散とした原宿の街よりは。春の緑に溢れる代々木公園の方まで歩いて帰ってくるかと思うのであった。

 とはいえ……

 行き帰り合わせてに二十分では、そんな歩いてそんな遠くまで行くわけにはいかない。今日は天気も良く、もう初夏を思わせる気候でもあるし、走って汗だくになって帰ってきて初対面の海外の人たちと会うというのも、日本人が過度に汗かきだと思われても恥ずかしい。

 ならば——ゆっくり歩いて数分でついた公園前の歩道橋の上。ここくらいが無理なくいける限度であった。ここでしばらく、公園の緑や原宿の街並みを眺めるのがよい。そして変えればちょうど良い。そう思うナミであった。


 まずは代々木公園。明治天皇の崩御の折に作られたという神宮の森と連続する緑に、その時にこの公園もつくられたのかと思うとさにあらず。そのあと日本陸軍の練兵場であった場所が、第二次大戦での日本敗戦後にアメリカ軍に接収、宿舎の建築地となったあと、東京オリンピックで代々木選手村として一部が使用された後に返還され公園となったとのことであった。

「それでも1967年か随分昔だな。2回目の東京オリンンピックだって私が生まれるまえのことだし……」

 そう思いながら、視線を左に移し丹下健三という有名な建築家によって建てられたと言う流麗な国立代々木競技場を眺める。

「最初のオリンピックでは、水泳とバスケットボールの競技が行われ、そのあとは少し一般解放されプールやスケート場として使われたか……私はここは良く声優のコンサートやってる場所という認識しかないけど、スポーツ大会なんかもやってたんだ。で、2回目のオリンピックではハンドボール、パラリンピックではバドミントン、ウィルチェアーラグビーが実施か……そのあと老朽化に建て替えの議論も何度かでるが、歴史的な建築物として補習をなんどか行い現在にいたる……カーボンナノチューブによる建築材料の革命がなかったらもう建て壊しなっていたかも……と」

 ざっと見渡して、緑も爽やかな美しい一帯と見るなり癒されたこの場所にも歴史あり。自分の生まれた日本の歴史のうねりに大きく連動した場所なんだなと少し感動するナミであった。

 ——ところで。

 ナミが今の代々木公園の歴史をすらで暗記しているわけではない。もちろん、ネットを検索して知るわけであるが、VR技術を利用してそれらの情報は彼女の目の前に浮かび上がるのであった。常に首にはVR用ジャックを貼り付けているナミ。彼女が今行っているのは現実と仮想の融合。仮想空間へのフルダイブではなく、現実空間に情報を追加するAR——Augmented Reality——拡張現実へのハーフジャックインであった。

 また彼女が検索で知るその情報も、彼女の今までの検索や行動の傾向に応じてAIが精度よくレコメンドしてくれるもの。

 しかし、良く考えてみたら、この状態……

 現実に足された仮想の「現実」。彼女の脳——知性に足された人口の「知性」。ネット、共有する意識、知識と融合した「彼女」。これは「彼女」、人間とは何なのかなと思わせるような哲学的な問題を孕んでいるのであるが、

「今度は原宿方面でも見て見るか……」

 それがの前提になっているこの時代の女子高生がそんなことを気にするわけもない。


「あとでどこ連れて行こうかな」

 

 この時代でも世界の可愛い——kawaii——の首都といえば原宿であった。

 そこで、明治神宮参拝の後は、留学生と一緒に原宿を少し歩くことになっていた彼女であった。事前にもらったメンバー表によれば彼女の担当はアメリカのハイスクールの女の子。プロフィールには『可愛い日本の文化が大好き』とあり、ならばさらに好きになってもらように精一杯頑張らなければと気合いの入るナミであった。

 そう思い見る原宿の街並み。昔に比べて高層ビルが目立つようになったときくその風景。カーボンナノチューブその他の建築技術のイノベーションにより、地震国日本でもさらに高層のビルが建つようになった日本。この原宿駅前から見えるのは、渋谷の高層ビル街、赤坂の摩天楼、六本木の天上に届かんばかりのビルの山脈。

 しかし、いろいろな建築規制と、昔ながらの瀟洒な街並みを守ろうという世の中の気運もあいまって、原宿の街並みは低層でこぎれいで、可愛い街並みが続く。その中に入る様々なショップとともに、今や神社仏閣以上の日本の伝統として、そこにあるのであった。

 そんな街を眺めながら、ナミは今日の留学生の案内に向けて様々な期待をするのであったが、

「ああ、もうこんな時間だ……」

 気づけば、指示された最終号時間までもう数分。腕時計の時間を確認してから、原宿の街並みを名残惜しくもう一度見てから、彼女はまた明治神宮の入り口に戻るのであった。


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今回の用語解説


「カーボンナノチューブ」

 炭素でできたダイヤモンドが自然界でもっとも硬い好物であることからわかる通り、炭素——カーボン——は強靭な構造の物質を作り出すことのできる元素となります。その炭素が非常に小さな(ナノ——0.000 000 001 ——メートル)レベルで感情の構造をつくり、それがとても強い強度や伝導性を持っていることが20世紀のおわりに日本人により発見されました。カーボンナノチューブと呼ばれた引っ張り耐力はダイヤモンド以上でかつしなやかなその物質は、もしかして軌道エレベータを作ることが可能なのではといわれるくらい、建築秘術の革新に結びつく可能性を秘めているといわれます。

 現在は、まだ研究段階で、限定的ににしか利用されていないこのカーボンナノチューブ。少し未来のこの物語の時代では、実用化され、建築にITに大きく利用されている……ならいいなって思います。


「AR——Augmented Reality——拡張現実」

 完全なVR——virtual realityの実現が達成された時代のこの物語ですが、そんな時代でも人間が生身の体を持ち、その生活がある以上、AR——Augmented Reality——拡張現実という技術もますます重要度をあげているのではと著者も考えます。

 それは、「現実の拡張」というと大げさですが、散歩や、買い物の途中、ちょっとした調べもの、リマインダー、時刻表確認など——いスマホを見て確認する、いやいや昔から本や、メモを見て確認など、現実リアルをそのまま受け入れるのでなく、情報を追加してより良く、効率的に、有意義に過ごすというのは、今まででも、人間がいくらでも行っていたことではないかと思います。

 もっと、いうならば、人類の祖先が言語を作り出した時、それ以前に感情や意思の疎通ができた時、非常に定義を広げるのならばバクテリアみたいな生物が相互に連携して動く自然に対して自らの作り出した情報を付加した時ARはすでに始まっていた。生物は改変された現実リアルの中にあったとさえ言えるのではないでしょうか。


 まあ、少し大げさに言いすぎたかもしれませんが、ARという技術は、今後VRよりももっと大きく人間の生活を変える……いやARというものであると思われないまま自然と日常に入り込んでくるのでは? そんな気がしてなりません。

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