第14話 作戦会議?



 カロルさんからの依頼を受けて、ペディ戦士団からはエグさんが派遣された。なんでも俺に迷惑をかけたからその恩返しと、知っている奴の方がいいだろうというペディさんの判断らしい。

 一応破損をみつけたことで、俺とノアールの実力をペディさんは認めたと言うことだ。


 いや、別に認めるも何もないんだが。知っている人の方が楽だし、少人数の方が俺としてはいい。動きやすいし、魔法を隠せる。

 

「では、作戦会議を始めましょう。まずはマールさんのレベル、属性、得意な魔法などを教えてください」


 机を囲んで俺、マール、エグさん、ノアールは俺の膝の上。謎の仮パーティの話し合いが始まった。

 何故かノアールが先頭に立って話し始めたが、この中で一番レベル高いからな。それに俺の化けの皮剥がれないようにするためにも動いてくれるだろうし、いいか。


「じゃあ、改めまして、僕はマール。レベルは七十三。属性は風と水。槍も使えるけど、どちらかと言えば魔法攻撃と回復が主だから、後衛が得意だよ。えっとじゃあエグさん、だっけ。君もレベルから教えてくれるかな」

「はい! ペディ戦士団所属のエグと申します! レベルは四十七、属性は火です。格闘技が得意でしてパーティでは前衛をつとめています!」


 「次はライルさんです!」と勢いよく俺を見るエグさんのお顔が何故か輝いていますが、俺のレベルには期待しないで下さいと、溜息を吐く。


「ライルです。レベルは二十一。属性は光と闇。物理攻撃は今から覚えたいので検討中です、攻撃魔法で後衛から援護したいです。一番しょぼいですが、死なないよう努力します」


 弱くてすんません。と頭を下げれば、エグさんから「あれ、昨日土属性の魔法を使っていらっしゃいましたよね?」と疑問が上がり、マールからは「僕が見た時は水属性も使ってたよね?」とにっこり笑顔で聞いて来た。

 あーもー少しだけでも手の内明かさないと駄目かな。てかまれに全属性使える奴もいるってきいたしその手で行くか? とノアールを見れば「話しは合わせます」と頷かれた。さっすが姐さん。任せるぞ、俺駆け引き苦手なんだからな!!


「ノアールの手伝いがあってだけど、俺、全属性というか、特に土と水の属性の初級魔法なら少しだけ使えるんだ一応な。だけど魔力も体力無くてさー、基礎から勉強したいというか。マールかエグさん、剣術とか教えてる人知らない?」

「へぇ初級でも全属性使えるのはすごいね、光と闇属性なのはちょっと可哀想だけど」


 「どんまいだよ!」と俺の肩を叩くマールをぶん殴りたいのは置いておいてだな、やっぱり光と闇はいくら得意属性とはいえど、使える人間が限られているってことか。


「あ、剣術でしたらペディ様が『最強の女剣士』として名を馳せていらっしゃいますし、カロル様のご友人であるロッソ様という方は『剣神』と呼ばれる伝説的な方です」


 「お二方に一度頼んでみてはいかがですか?」とエグさんに言われて、頬を引き攣らせる。

 此処の町は最強がそろってないか? こわい。俺が魔王だったらここをまず潰す。あ、いやまだ魔王だけどさ!


「ライルの剣術修業は追々として、パーティの作戦会議をしよう。ノアールちゃんは前衛後衛どちらでも大丈夫だと思うから今回は前衛で。後衛は僕とライルがつとめるということで」

「何故私の戦闘スタイルを知っているのかわかりませんが、その作戦が一番よいでしょう。ちなみにマスターは回復や補助呪文は苦手です。攻撃呪文は得意ですので、マールさんは後衛の後衛になってください」

「ノアールちゃんがそういうなら喜んで!!」

「ライルさん、マールさんて不思議な方ですね……?」

「エグさん、これは不思議で片付けちゃいけないやつだからな」


 エグさんに向かって、俺は首を横に振りつつ「ほんじゃ、作戦のパターンも決めよう」と話しを詰めていく。

 

 パーティの作戦は多くの場合「補助呪文」「先制攻撃」「補助呪文」「攻撃」「防御または回復」の順を繰り返していくパターンが一般的だ。魔物は攻撃のパターンがあるから尚更だ。

 ただ予期せぬ事態もあるのでその場合の作戦も考えておく、これがプランB等になる。


 そして司令塔、それを誰にするかということで作戦、戦闘スタイルが大きく変わってくる。

 

 今回は後衛の後衛で、実践にも慣れているマールが司令塔に選ばれた。

 俺はボッチを拗らせているので無理。しかもパーティの中で一番低レベルだ。どちらかと言えば足を引っ張るだろう。



 めんどくさいなぁ、今からこの依頼断れないかなー



「マスター。この依頼はもうお断りできませんよ。それにレベルアップには最適です。三十まで余裕で上がると思います」

「俺の表情を読まないでください」


 「逃げないから前に行け!」とノアールをエグさんのいる方へ飛ばして、俺は周りを見渡す。

 

 作戦会議のあと「では早速行きましょう!」とエグさんとマールの言うがままについてきたが、帰りたい。


 戦闘は明日からだと思ってた俺が悪かったけどよ。でもまさかその勢いで行くと思わねぇじゃん? せめて一旦別れて装備揃えてから合流とか思ってたのに!

 なんでこんなに怒ってるのかって? 腹減ったんだよ!! 昼飯食い損ねてたんだよ俺は!!


「うー、美味しい食堂連れてってくれるんじゃなかったのかよ」

「ごめんごめん、二、三回くらい戦闘したらご飯食べに戻ろうか」


 俺の三歩後ろで警戒中のマールが苦笑する。


「そいや俺、マウンテンペアー名物の『ホウトウ』食べてないんだよな。その食堂にあるか?」

「その食堂の一番のメニューが『ホウトウ』だよ。奢ってあげるから」

「男に二言はないな?」

「ないよ。ほら、前向こうか」


 マールの奢りが決定した。よっしゃ真面目に仕事をしよう! ただ飯程美味しいものはない!


 俺が気合を入れて前を向くと、話を聞いていたのか五歩ほど前にいるエグさんが笑っている。ノアールまで笑っているというか、あいつは呆れているな。

 ノアールはおやつのクルミを食べてたから平気だろうけどな、俺は腹が減ったんだよ!

 


 だがしかし、歩けど歩けど、敵に遭遇しない。

 いや、低レベルの魔物には出会うが、今回の目的はAかBランクの魔物の討伐だ。


 入り込んだ魔物は、ゴブリンだけだったのだろうか?


「うーん、居ないね」

「いませんね。ペディ戦士団のお姉さま方も動いていますし、高レベルのモンスターはすでに倒された後なのかもしれません」

「全部討伐済みなら問題はないんだけど。見過ごしてしまって巣でも作られていた場合は厄介だし、ライルは何かいい案ない?」

「あー、なぁマールは索敵とかできないのか?」

「半径五十メートルくらいまでなら。でもMPの消費が激しいから正直使うのは危ないかな」

「ならローラー作戦も無理か、ノアールが上から探したとしても木があるところじゃ見えないし、索敵よりも範囲は狭いしなぁ」


 うーん。と三人と一匹で考えるが、いい手が全く思いつかない。

 

 魔物の足跡でも追いたいが、昨日結界修復班とやらが全部踏み消して行っちゃったしなぁ。


 おおよその行動パターンを考えると、魔物は東側からせめていくはず。ただ冒険者たちが現在討伐に力を入れている。なので魔物たちも警戒して隠れていると考えよう。ということは隠れることが出来そうな場所にいるってところか。


「なぁ誰かこのあたりの地図持ってるか?」

「あ、はい持ってますよ!」


 エグさんがどうぞ! と渡してくれた地図に「弁償するから」と伝えて、地面に広げ町の中心地にナイフを刺す。ナイフの先に紐を結び、鞄からペンを取り出す。最近流行っている手が汚れないし持ち運びもできるペンらしくて無理矢理買わされが、買って正解だったな。


 紐を町から二枚目結界までの半径の長さにしてペンに結び、ぐるりと円を描いた。

 これ魔法陣を描く時にも使う手法で、初心者が綺麗に円を描く為の方法なんだが、今の魔法使いはやらねぇのかな。あとでノアールに聞こうっと。


「ライルはなにやってるの?」

「ん? 結界内で魔物が隠れそうなところどこかなっておもってさ」

「あ! ならここなら結界内で、魔物が隠れそうですよ!」 


 そう言ってエグさんが指さす場所は、二枚目の結界内でギリギリ山の裾に入る場所だ。東側だしあたりっぽいなと俺も思うが、マールは「違う」という。


「そこは山の入り口だよ。流石にペディ戦士団もすでに確認しているだろうし、何より昨日僕とカロルさんが深夜に確認しに行った場所だ」

「夜中に何やってんだよ。危ないぞ」

「いや、ライルさん。問題はそこではないかと」


 「一番怪しいから既に確認してきたということですね?」というエグさんに頷くマール。でも隠れそうな場所此処くらいだからなぁ。地図的に見ればだ。結界の破損個所からも近いしな。


「ならもう一回確認しに行きましょう。何もなかったら『ホウトウ』を食べに町に戻る。でいかがでしょうか?」

「ノアールちゃんがそういうなら!!」


 ノアールの意見にデレデレしているマールは放置して、俺とエグさんは地図で現在地を確認後道具を回収して山の入り口へと行き先を変えて歩き出す。


「そういえば今日マリンはどうしたんですか?」

「あぁ、行くと大騒ぎしていましたが、ライルさんと一緒だと伝えたら『なら安心だね!』と言って大人しく留守番をしてくれました。本当にライルさんには何とお礼をしたらよいか……」

「いえいえ、俺何もしていないですから。夕飯はマリンも一緒に連れていきましょうか。大人数でご飯食べるのって楽しいですし」

「いいんですか……? マリンは喜んで大はしゃぎしますと思いますが、代わりにうるさいと思いますよ……?」

「子どもはうるさいくらいが一番ですよ? それにエグさんはいつも可愛らしく素敵ですが、それ以上にマリンと一緒にいる時が一番いい顔をしています」

「そ、そんなっ、か、かわいい、す、素敵なんて……!」



 「きゃっそんな、恥ずかしいっ」と両手で真っ赤な顔を覆うエグさんに、「おぉ、若人よ。青春だな」と客観的な俺が呟いていた。


 ごめん、そんなつもりはなかったんだ、なんかさらっと口から出たんだ。口説いている訳じゃないんだ。年の功ってやつだよ、ほらダンディなオジサマがさらりと口説くような感じだよ。


 やだ、俺、まだそんな歳じゃない!! 見た目は十代!! 中身はミレニアム!! 


「マスター、それは素ですか?」

「俺もびっくり、素で言った」

「別に褒めることはよいことですが、程々に。あぁ、現地妻は何人いても私は気にしませんよ」

「俺が気にするわ!!」


 好きな人は一人でいい! と皆より先へずんずんと進んでいく。後ろでは「童貞ですかねマスターは」とか言ってるの聞こえているからな!!


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