第10話 子どもは元気が一番です!


 子どもが苦手らしいノアールからマリンを引き離し、俺はマリンと視線が合うようにしゃがみこんだ。

 やっぱり上から目線だと嫌じゃん? 子どもってそういうのすぐ察するからな。大人になると忘れちまうけど。視線を合わせるのって意外と大切だぞ!


「なぁマリン。なんで姉ちゃんのバックの中にはいったんだ? 真っ暗でこわかったろ?」

「こわかったけど、お姉ちゃんこのまえけがしてきたから、わたしね魔法おぼえたんだよ! けがなおすやつ! だからねお姉ちゃんがけがをしたらすぐになおせるとおもって!」

「そりゃすごい、マリンは怪我を治せるのか! んじゃお姉ちゃんの怪我直したくなるよな。わかるぞ。えらいぞー。じゃあお姉ちゃんは、マリンが怪我をしたらどう思うか分かるか?」

「うー、んと、……かなしい? お姉ちゃんがけがをしてきたとき、わたしかなしかった」

「うん、かなしいよな。お姉ちゃんはマリンが怪我をすると悲しいんだ。だからギルドのこわくないところにいて欲しいんだよ。わかるか?」

「でも、でもぉ、おねえちゃんが、けがしてるところ、みたくない……」

「そだな、俺もみたくない。でもな、お姉ちゃんにも仲間がいるんだ。その人達がお姉ちゃんの怪我を治してくれるぞ。前もそうだったんじゃないか?」

「……トラのお姉ちゃんが、お姉ちゃんのけが、なおしてくれた」

「ほら、お姉ちゃんには治してくれる人がいるんだ。今はその人が治してくれる。だからマリンがもっと大きくなったら、その時はお姉ちゃんとトラのお姉ちゃんの怪我も治しちゃえばいんだよ。そしたらすごい! ってみんな褒めてくれるぞ」

「……わかった、」

「うん。でもな、お姉ちゃんの為に魔法を覚えたマリンはすごいぞ! 今日は俺が褒めてやろう!!」


 「ほんと? わたしすごい!?」とパァアと笑顔になったマリンの頭をぐしゃぐしゃに撫でまわし、「すごいすごい! それにバックの中に入ったのもすごいぞ! 俺にはできないからな! 褒めてつかわす! これが褒美だ!」と肩車してぐるぐる回ればキャッキャ喜んでいるのでよかったよかった。俺はまた吐きそうになったけどな、うえ、やばい、きもちわるい……。

 

 マリンを降ろそうとすれば、「やだ!」というので、ノアールに助けを求めれば「自分がやり出した事だろう」という目をしていた。

 ……肩車したままエグさんと話を進めまーす。俺の筋肉に乞うご期待。


「ああああ、すみませんっ。マリン降りなさい!!」

「いや! ご褒美だもん!」

「あぁ、大丈夫ですよ。とりあえずまだ大丈夫……エグさんはペディ戦士団所属でしたね? では今何が起こっているかは知っていますね?」

「はい、といっても私は下っ端でして、結界の破損個所の確認というザックリとしたことしか」

「十分です。俺も今破損個所の確認をしていまして、今ここで別れ魔物が現れても、今度は助けられません。なので一緒に行動しましょう。どうですか?」

「私からもお願いするつもりでしたので賛成です。しばらくの間よろしくお願いします!」


 俺に頭を深々下げるエグさんに「いやいや、頭あげてください」といえば、突然「おりる!」と言ったマリンが俺の肩から降りて一緒に頭を下げた。

 あああああ、ごめんなさい頭を下げられる程できた人間じゃないです、魔王です。すいません!


「いや、まじで頭あげてください。俺Dランクの冒険者なのでそんな強くないですし、エグさんの方が強いでしょうし。俺こそ守ってもらいたい的なものがありまして……」

「えっ! Dランクなんですか!? それはまた……」

「えーお兄ちゃんよわーい」

「マスターよわーい」

「うっせ! 特にノアールうっせぇ!!」


 「でも、ビースト三体を一発で倒して……」と不思議がっているエグさんに「たまたまですよー」と言い(実際偶然うまくいっただけだし)「さぁ破損個所を探しましょう!」とよじ登ってきたマリンをまた肩車して、元の大きさに戻ったノアールが「疲れた」と騒ぐので抱えて歩き出す。

 お前ら歩けよ。特にノアール。


「ノアールさん、自分で歩いてくださいよ」

「嫌です。疲れました」

「とりさん、わたしのあたまのうえにのる?」

「それはいい考えですね」


 バサッと飛んで、マリンの頭の上に乗ったノアールに「すごい! すごい! もふもふ!!」とマリンが喜んでいるのはいいけど、重くないのか……? しかも姉のエグさんはひたすら「あああもうごめんなさい」と頭さげてるし。


「大丈夫です、風の魔法で重みを緩和していますので」

「疲れたんじゃなかったんですか」

「これくらいの魔法なら特に疲れません。マスターよりも強いので」

「そうっすか……」


 俺にもその魔法教えてください、あ、MPないのでむりっすね。知ってました……。

 米つきバッタのようになっているエグさんを落ち着かせて、縦に長くなった俺たちとエグさんは結界の破損個所を確認しはじめる。

 魔物が現れればノアールが反応するだろうから、周りは気にせずに結界に集中しよう。


「エグさん、あまり離れずにお願いします」

「はい!」


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