30話 おてんば



 メル達が捕まったとされる敵戦艦を発見した俺達は、ゴライアス・タレスを筆頭とする敵第一陣との戦闘になった。


 武人のようなゴライアスを前に過去を刺激され苛立った俺だったが、バルムンクの圧倒的な強さで難なくソレを退けることが出来た。


 そして、俺達は敵戦艦の中へと侵入していくのであった。



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 艦内で何度かの戦闘があったものの、難なく制圧していく俺たち。


「なぁ、お前はなんで傭兵になったんだ?」


「なんで? それはそう言う運命だったからですよ」


 ふと湧いた疑問を伝えるとあっけらかんとシアンは言ってきた。

 サポートすると言ったかと思えば自力で幾機ものARMEDを落とすし、援護すると言ったかと思えば、会敵する前にARMEDをスクラップにしていった。

 コイツがこれまでどうやって生きてきたのか気になってしまったから聞いてみたモノの……。


「運命って、孤児とかだったのか?」


「いえ、私の実家は裕福でしたよ? ありがたい事に三歳くらいの頃からARMEDの操縦はしてました」


「そんな小さい頃から出来るモンなのか?」


「まぁ、私専用に操縦席は改造されてましたから」


 そこまでして彼女を育ててきた両親は、何を考えているのだろう……。


「まぁ、私がARMEDに興味を示していたみたいなので、操縦者になることを強要されたとかではないです」


 また思考を読まれたように、先回りしたような発言をしてきた。


「そこ、左に行ったらまた爆撃します。どうやら下の階層にお姫様ふたりが捕らえられている様なので」


「分かった」


 この広大な艦内の配置まで知っていることに突っ込む事はもう止めた。


「では。行きます」


 シアンは先ほどより小さなマガジンを装着し銃を構える。


 ボシュッ 


 ドーーーン!


「っ?!」


 ドーーーン!


 小型ミサイルが床に接触するより先に、そこが爆発した。


「シアン!」


「どうやらお姫様達は自力で脱出開始したようですね! カナデ様! 神鬼オーガの魔力反応です! 注意してください!」

 

 シアンはそういうなり後退を始めた。注意しろって言ったのに退散するのかよ!


「あぁ、分かったよ! とりあえず逃げる!」


 ドォーーーーン!


「危な……」


 駆けだすとすぐに轟音が鳴り響き先ほどまでいた箇所に冷気の塊が降り注いだ。


「私のファンのみんながドコに行ったかですか? お家にでも帰ったんじゃないですかね!」


「ふざけるな! あれほどの人数が居たのに、一瞬で移動させるなんて不可能だ!」


 ミミとガルゼンが怒鳴り合う声が響いてきた。

 どうやら人質となっていたファン達の姿が無くなったようだ。


「すべてが貴方の知識の中で収まると思わないで!」


 砂煙の中から、ライブをしていた時の格好のミミ・パルミーが左手を付いた状態で姿を現した。

 その右手には、自らの身長程の柄の長い棒の先に円筒状の金属があり、その周りには扇状の金属が付いている武器──メイスが握られていた。


「チッ。小生意気な餓鬼だ。大人しく捕まっておけばいいものを!」


 床に空いた穴から燕尾服のような濃紺の服を着たガルゼンが姿を現した。


「私の所為で人が苦しんでしまうって事が嫌なんですよ!」


 ミミはそう叫ぶと姿が見えなくなる。


 バキン!


 次の瞬間、ガルゼンの眼前に氷の障壁が展開されソレが砕け散る。


「お前のスピードがいくら早くても、俺の自動氷壁オートガードの前じゃ無意味だな!」


 ビシッ! ビシッ!


 ミミの姿が相変わらず見えないがガルゼンの周囲で氷が飛び散って行くことしか確認が出来ない。


「カナデ様! 戦闘に見入るのは構いませんがが棒立ちは如何なものかと」


「わ、悪い」


 二人の戦闘が美しく見入ってしまった俺に、シアンが通信を入れてくる。


「もー。バトルジャンキーはマゼンダ様だけにして欲しいっ、です!」


 ババババ!


 急にシアンは退路に向かって弾をバラマキ始めた。


「何してるんだ?」


「敵機が来てるんですよ! カナデさんも援護をお願いします!」


「チッ。分かった」


 どうも侵入してから集中のし過ぎで注意力が低下していたようだ……。ここは敵のど真ん中だぞ……!

 俺は意識を切り替え、神経を研ぎ澄ます。


「そこか!」


 距離は思っていたよりも近く、ライフルでの狙撃よりも大剣バルムンクでの近接が有利と判断し、武器を切り替え飛び出す。


 ガキン!


 数歩先へと大剣バルムンクを横薙ぎに振り抜くと、手応えがあった。


「流石ボクのライバルです。光化学迷彩も進化しているはずなんだけどね!」


 生徒会長の様なハキハキした青年の声が聞こえてきた。大剣バルムンクの刃の中程を見ると、四本爪を持つ手が現れており、その一撃を受け止められている。

 すると光化学迷彩が解けていき、飛龍の様な風貌。そして、その両腕前腕部には飛行機のジェットエンジンの様な樽型の黒いアーマーが装備されている。

 レーダーを確認すると【イージスⅡ】の文字が書かれていた。


「誰かは分からないけど、ここは通させて貰う!」


「この、ボクを、忘れた……? 笑わせないでくれ!」


 怒ったな。


 そう思った直後、イージスⅡの両腕のアーマーが開く。


 ドンッ!


「ぐはっ!」


「カナデ様!」


 気付いた時には俺は壁に追突し、そのまま両肩を押さえ付けられていた。


「いつも見下してくれてはいたけど、忘れるなんて事はなかったよね。この帝国軍のエース【ノーマン・ジュード】の事を!」

 

「悪いな。アンタみたいな熱血マンなんて記憶に無いんだがな」


 怒鳴るノーマンを更に煽る。少しは判断能力が鈍ってくれればこっちのものだ。


「はぁ、相変わらず煽るのが好きだね……!」


 なんてパワーだ。帝国の最新鋭機なんだろうけど、バルムンクでも押し返すのが厳しいか……。

 先ほどから操縦桿を全力で前に倒し前進させようとしているのだが、胆力の差は歴然だった。


「あまりやりたくなかったんだが、このまま潰されるのも困るからな! 【反射リフレクト】」


 バルムンクを抑える、イージスⅡから伝わる『力』のベクトルを反対方向へと向ける!


 二体の間に一瞬縦に波紋が産まれ、イージスⅡは俺たちが来た方へと吹き飛ばされていく。


「やっと本気を出してくれましたね!」


 シアンはその隙を見逃さず銃を構えイージスⅡに向けて援護射撃をしてくれる。そして、俺は左右の操縦桿を前に倒し両足でペダルを踏み込み一瞬で最高速に乗り大剣バルムンクを下段に構え吶喊し【イージスⅡ】が床に触れる前に横一閃に振り抜き、再度吹き飛ばす。


「何のことかな! シアン、とりあえず戦艦から脱出しよう! 艦内だと戦い難い!」


 それなりの広さのある通路だが、やはり平面の戦いになってしまうので俺としては早く三次元での戦いに持ち込みたかった。


「なるほど。では、さっさと外に行きましょうっ!」


 バシュッ! バシュッ!

 

 シアンは急停止し、機体の両脚を大股に開き左右前後にアンカーを撃ち出した。


「カナデ様、踏ん張っててくださいねっ!」


「へっ?!」


 キュイーーーーン ズドォォォァン!


 俺が間抜けな声を出した瞬間、イーグルの胸部にある鷲頭の嘴が開き、そこから荷電粒子砲と思われる不思議な色をした極太の光線を吐き出したのであった。

 そしてその光の渦は一直線に進み、外への道を作り出した。


「さ、行きましょう」


「……やりすぎじゃない?」


 艦内の警報が鳴り響く中、飄々とそう語るシアンに思わずツッコミを入れる。


「はぁ? 外に出たいと仰られたのはカナデ様ではありませんか?」


 溜息を吐かれたが、流石にここまで強引にやるなんて思わないよ……。


「そうだな……。ウジウジ考えてても仕方ないな。追撃して、ミミ達の退路を作ろう!」


 再び両足でペダルを踏み込み、新しく出来た一本道を二機で駆け抜けて行った。


 


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