21話 試験


 メルとの第一回目の修行を終えた俺は、双子の整備士マルタの呼び出しを受けその作業場に訪れたのであった。


 そこで俺は、その身に宿す【魔力】のことを複数人に知らされていた事を知る。

 ドクターアインからは、秘匿を勧められていたのにどうしてなのか。そんな疑問を感じながらも、自らの新しい相棒【バルムンク】の最終同期テストへと向かうのであった。



__________________



「コイツが新しい相棒……」


 サッカー場ほどの広さのある試験場へと着いた俺が見上げる先には照明に照らされて、他のARMEDより少し小柄な全長八メートル程の体躯。その身には青い流線型の装甲が纏われており、頭部は西洋甲冑を思わせるバイザーが装備されている。

 背面にはウォーリアーの時に使っていたライフルが縦に繋留されており、その隣にはさっき説明された対神姫超振動大剣【バルムンク】が。そしてその2つをを挟むように2枚の天使の羽を思わせるウイングユニットが装着されていていた。



 まさにナイツ・オブ・レディアントと呼ぶに相応しい機体だ。




「どうだい! コレが【バルムンク】さ! 蒼い天使をイメージしたんだー! 」


「カナデは流線型が好きだったし、高速戦闘を想定しているから利に理に適っているでしょ! 」


 双子がコンセプトを話してくれていたのだが、それよりも、俺の心臓を掴むような不思議な威圧感の方が気になってそれどころではなかった。


「あぁ……。もう乗ってもいいか? 疼いて仕方ないんだ……! 」


「もー。人が折角説明してるのにそれはないよー」


「準備は出来てるから、そこの簡易エレベーターから上がって」


「ミルタごめん。説明ありがとう」


 ミルタの声に少し苛立ちを感じたので、謝りながら頭を撫でる。


「っ。マルタにも」


「あぁ、マルタもごめんな。これから整備とかよろしくな」


「仕方ないな! こっちこそよろしく! 」


 やはり双子だからなのだろう、平等に接しろと暗に言われたようだ。マルタにもしっかりと謝罪してこれから世話になる事を頼み、簡易エレベーターへと歩みを進める。


 ガコンッ。


 簡易エレベーターがコックピット横まで到着すると、【バルムンク】の胸部にあるコックピットが上に開く。

 そのまま右手で開口部の手すりを掴み中に入り込む。


『搭乗確認しました。バルムンク起動します』


 シートに座ると音声が流れハッチが閉まり、各種計器類が起動を始めた。


「オート起動かよ……。とりあえず確認だな」


 ひとりごちながら、マニュアル通りに手動で起動しなければならない計器類を作動させていく。


「よし、ラスト。バルムンク起きろ! 」


 最後に魔力関知デバイスを頭部にセットし操縦桿を握りながら叫ぶ。


 すると、今まで聞き慣れた駆動音よりも高い回転音が耳に響き渡った。


『魔力関知。搭乗者カナデ・アイハラ。バルムンク起動します』


 アナウンスが終わると、目の前が明るくなり全天周モニターが起動された。


「コイツは始めから全天周モニターなのか。マルタ! 起動終わったぞ! 動かしても大丈夫か? 」


 無事起動が終わったのでマルタに確認の通信を入れる。


「OKだよ! こっちのモニターも正常値を確認した! 」


「まずは軽く試験場を一週してみて。ウォーリアーと感覚が違うと思うから」


 双子からの了承が取れた。よし、やってみるか。


 基本的にウォーリアーと同じ操縦桿二本に攻撃用スイッチがあり、握った感触も悪くない。変わった点は、足下に背面ブースターの制御ペダルが着いた事位かな? 動かしながら他にも変更があった箇所に慣れよう。


 まずは前進だな……。


「前と同じようにレバーを倒せば良いんだよな。それと合わせて行動したいことを思考することでそれを補う感じらしいが……」


 左右に握る操縦桿を前に倒す。するとバルムンクは歩き出した。

 その感覚は今までと違いとても滑らかな物になっている。


「おー! ここまで変わるのか! マルタミルタ! 中々良い仕事するなー! 」


「でしょ! 」


「うちら天才だもん! 」


 通信から二人が喜んでいるのが聞こえてくる。

 それにしてもここまで劇的に操作性が上がるとは思っていなかった。レスポンス向上くらいかと思ったが、屈伸を入れてみたりステップの操作をやっても、ウォーリアーの比ではない運動性能を持っていた。


「よし、じゃあ次は戦闘訓練だね! ブースターの方は闘いながら使ってみてよ」


「訓練機とドローン飛ばすから、対応してね」


「まじかよ……。このブースターも特別仕様なんだろ? 」


「そうだよ? でもカナデならやれるよ」


「今回は【魔法弾マジックバレット】は無しで大丈夫だから! 」


「そこの調整は明日やるから」


 なんだ、今からは使えないのか……。若干気落ちはしたけど、明日やれるならいいか。


「残念だけど仕方ないね。じゃあ近接と通常射撃にブースターの確認でいいかな? 」


 気持ちを切り替えて双子に確認する。


「うん。じゃあドローンと訓練機を出すよー」


 マルタがそう告げると訓練場の反対側の扉が開き、そこからウォーリアー3機と2メートル程度の円盤が10機が入ってきた。


「またカナデ専用機かよ。のしてやんよ! 」


「訓練機とか久しぶりに乗るわー。カナデちゃん、手加減よろしくねー♡」


「新型機の性能たのしみだよっ! 」


「みんなよろしく頼む」


 声から判断すると、カルカル、ミラ、もう一人は誰だろう? 随分と若い女の子の様に感じたが……。まぁいいか、今は試験に集中だ。


「「開始! 」」


 マルタミルタのハモりでバルムンクの動作試験が開始された。

 とりあえず先手を取るしかない!

 俺は、先頭にいる盾持ちにまず狙いをつけ飛び出す。


 バシュッ!


 その突進を妨げる様に空中のドローンから此方へと銃撃が始まった。


「チッ! ドローンも地味に攻撃してくるのか」


 思わず舌打ちをするが、ダメージは無いに等しい。このまま押し進む!


「もう、カナデちゃんったら強引なんだからっ! 」


 先頭にいたのはどうやらミラだったらしい。俺は体勢を低くしながら、バルムンクを背中から抜き取り素早く間合いを詰めて横一閃に振り抜く。


 ガキンっ! 


 こちらの一撃は普通にガードされた。特別仕様の振動刀じゃなかったのかよ?!


「あー、機体の性能試験なんで、普通に武器のバルムンク起動しちゃうと訓練機簡単に両断されちゃうので、出力は30%にしてて普通の振動刀と同じ威力しか出なくしてまーす」


 ミルタが面倒くさそうに通信を入れてきた。


「クソッ! ホントにただの動作試験かよ」


「そんな怒るなよって! 」


 ミラに横薙ぎをガードされてすぐに、その後ろからカルカルがジャンプしながら唐竹割りをしてくる。

 俺は咄嗟に右のペダルを全力で踏み込むのと同時に操縦桿を左に倒し横へ逃げようとした。


 ブワッ


 一瞬の浮遊感を感じた後、機体と俺に衝撃が走る。


「痛ぇ……。な、なんだこの加速は!? 全力で踏み込みすぎたか」


 転倒の衝撃で頭がクラクラする……。


「カナデ! いくらバルムンクが頑丈だからって、そんな雑な扱い方はダメだよ! 」


「もっと繊細に扱ってよ! 」


「悪い……。しかしココまでの性能だとは思ってなかった。次から気をつけるよ。っと! 」


 立ち上がりながら双子に謝罪していると、三体目のウォーリアーがタックルを仕掛けてきたのが視界に入ったので今度はペダルの踏み具合を意識しながらブースターを使い右へと飛びながら避ける。


「よし、悪くないかな」


 サイドステップ的にブースターを使い間合いを取る。


「カナデさん、まだまだ行きますよー! 」


 どうやら今のは謎少女だったようだ。試験と言っても実践的なデータが欲しい様で不意打ちも普通にしてくるのが厄介だ。

 謎少女は、叫びながら手に持ったアサルトライフルで撃ちまくってきた。


「これくらいの火力なら全然問題ない! 」


 ブースターを制御出来る範囲で思い切り踏み込み、ライフルを撃つウォーリアーへと突っ込む。


「俺らを「忘れてもらっちゃ困るよ!! 」」


「姐さーん、諸被りだよー」


「分かってますよ! 」


 突進を始めて直ぐに、全天周モニターの端で動いていたのを確認していた、左からカルカル。右からメルがそれぞれの得物で俺へと攻撃を仕掛けてきた。

 急停止し真上へと飛び上がる事で回避する。


「ちょっ! 」「ダメよ!! 」



 するとその下で攻撃を止められなくなった2機が、お互いを殴りつけるという光景が繰り広げられていた。


「軽く跳躍しただけで60メートルくらいは飛べたか? 」


 空中で体勢を変えながら、大剣を狙撃ライフルへと持ち替え、地上にいる謎少女が乗る機体へと狙いを定める。

 下からだとライトの更に上にいる俺は目視し難いはずだ。


「これが、ナイツ・オブ・レディアントと呼ばれる程の操縦士!! 新型機への順応も早いしすばらです! 」


 謎少女が驚きの声を上げて感動しているけれど、まだ試験中だ。そんな隙だらけな機体に外す訳がない!

 握る右の操縦桿の射撃スイッチを押し、ウォーリアーの四肢へと弾丸を撃ち込んだ。


「でも、これでどうです! 」


 しかし、着弾したかと思われた弾が、突如集まったドローンにより防がれてしまった。


「アイツがドローンを操作してたのか。自動防御的な何かか? 厄介だなぁ……」


 自由落下に身を任せながら次の行動を考える。


「止まってる余裕なんかないですよっ! 」


 右から3機、左から3機、下から1機のドローンが飛んでくる。


「警戒は怠っていないから、大丈夫だ!! 」


 俺はそのままライフルを構え直し、右から飛来するドローンから迎撃するために照準をあわせる。



 ガオオオオオオオン-!


突如試験場に獣の雄叫びが響き渡る。

 


「面白いことをやってますね。私も混ぜてください。カナデ・アイハラ!! 」


 まさかの侵入者の登場だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る